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第一章
正しく使う為には…………
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僕の得た力を正しく使う術-------------
それを享受する為に、聖女を通して僕を此処へ連れて来たと語る神様。
そんな神様の背後には、巨大なこの世界の地図らしきものが現れて、幾つかの地点にある国や村などが点滅しているのが見えた。
「これは、まさか…………」
『気付きましたか? 背後の地図で、光が点滅している場所。そこは全て、今現在、魔族が占領。もしくは、侵攻している地域です』
冒険者だった頃、ギルドで何度か、魔族が襲っている場所が何処なのか、掲示板やら噂話などで情報を得ていた。
だが、この地図を見ると、これは-------------
「人類側が押され始めている?」
『その通りです』
そう僕が呟くと、神が悲しげに微笑み、肯定する。
『今現在、人類と魔族のパワーバランスは崩れ、もはや、人類は、勇者一人では対応出来ない状況にあります。これは、その最前線で、今、行われている悪辣な所業です』
神がそう言うと、背後にあった世界地図は消え、とある光景が映し出されていた。
それは、この世のものとは思えない地獄を表したような凄惨なものばかりで-------------
死に絶えた生まれたての赤子。
それを頭から踏み付け、血肉を霧散させ、喜びの雄叫びを上げる陰湿な魔族。
その赤子の母親と思しき女性の眼は虚で、そんな女性を嘲笑い、一頻り笑った後で、その女性を嬲り殺す魔族達。
人類側の兵は疲弊し、中には、目の前の凄惨な光景に絶望し、手にした剣を首筋に当てて、自害する者も-------------
「…………ぅぅ…………」
思わず、その狂気とも言える光景に、胃の奥底から何かが込み上げて、慌てて口に手を当てて堪える。
前線は酷い状況だ。
そんな話は聞いていた。
しかし、それを見てしまうと、こう…………何かが可笑しくなるというか、理解し難いものに感じてしまう。
そして、何より、平然と人の命を弄ぶ魔族を見て、僕の中で、何かが、激しく蠢いているような…………。
そんな奇妙な感じが…………。
『それは怒りです』
「怒り…………?」
『そうです。あなたは今、魔族の耐え難い暴挙を見て、魔族を憎み、怨み、殺意を抱こうとしている。それは、あなたが人を想い、優しい心を誰よりも持っているからなのです。しかし-------------』
神はそこで、言葉を切り、僕の前へと歩んで来ると、優しく掬うようにして、僕の両の頬に手を触れて、じっと、僕の目を真っ直ぐと見つめて、言葉を紡ぐ。
『それでは、あなたはあなた自身の本来の力を出し切れません。寧ろ、その感情が、あなたの足枷となっている』
「足枷?」
神のその言葉に、思い当たる節があった。
それは、あの日、この力を手に入れて、盗賊共を殺した時だ。
あの時、僕はあまりにも非道な盗賊共に怒った。
怒りで、我を忘れて-------------
『ひっ!!!』
「っ!?」
一瞬、あの日の女性の恐怖に歪む顔が脳裏を過った。
そうだ。
あの日、僕は怒りで、我を忘れて、盗賊共を皆殺しにして、助けた女性達に恐怖を刻み込んだ。
刻み込んで、正気に戻る感覚があった。
ウザルの時だってそうだ。
ウザルの時も、怒りで頭の中がいっぱいになって、我を忘れて、ウザルを殺そうとして、殺した。
殺そうとした?
普段の僕だったら、例え、怒りを覚えていても、現状を先に確認してから、勝てる戦いなのか、逃げるべき戦いなのかどうかを判断していた。
判断して、あの現状で、逃げる選択を選んでいた筈だ。
そう判断して、行動に移していた筈なのに…………。
ウザルのような戦闘経験豊富な強者を相手にするくらいなら、逃げていた筈なのに…………。
その筈なのに、僕は、どうして、あんな浅はかで、短絡的に動いて-------------
「っ!!」
『気が付きました?』
僕が、その答えに辿り着く事を分かっていたように、神が楽しげに微笑む。
「僕が、あの力を使った際に、怒りに心を支配されていた?」
『その通りです。正確に言えば、あのスキルを発動させた時、あなたは、かの勇者の怒りを引き継いで、心が怒りに飲み込まれてしまいます。ですから、あなたは、あのスキルを使う際、心を制しなければ、十全に力を行使するというのは難しいのです』
そこで、あなたに、これを-------------
神が、僕の手に優しく取り、何かを手渡して来た。
「……………………」
掌の上には、かなり小ぶりだが、一欠片の宝石のようなものが-------------
「これは…………ダイヤ?」
宝石に関してはあまり知識はない方なのだが、一眼見ただけでも、かなり高価なダイヤモンドなのは分かる。
『わたくしも詳しくは知らないのですが、かの勇者は《ホーリー・ダイヤ》と呼んでいました。何でも、スキルを制する唯一の術なのだとか』
こんな小ぶりな宝石で?
色んな角度で、その宝石を弄ぶ。
「……………………」
嘘くさい。
そう思っていたら-------------
「へ?」
何の前触れもなく、ダイヤが輝いたかと思えば、形状が宝石から光の玉に変わって、そのまま…………僕の胸の辺りに、すっと自然に入って消えた。
「……………………」
え?
これ、大丈夫な奴?
それを享受する為に、聖女を通して僕を此処へ連れて来たと語る神様。
そんな神様の背後には、巨大なこの世界の地図らしきものが現れて、幾つかの地点にある国や村などが点滅しているのが見えた。
「これは、まさか…………」
『気付きましたか? 背後の地図で、光が点滅している場所。そこは全て、今現在、魔族が占領。もしくは、侵攻している地域です』
冒険者だった頃、ギルドで何度か、魔族が襲っている場所が何処なのか、掲示板やら噂話などで情報を得ていた。
だが、この地図を見ると、これは-------------
「人類側が押され始めている?」
『その通りです』
そう僕が呟くと、神が悲しげに微笑み、肯定する。
『今現在、人類と魔族のパワーバランスは崩れ、もはや、人類は、勇者一人では対応出来ない状況にあります。これは、その最前線で、今、行われている悪辣な所業です』
神がそう言うと、背後にあった世界地図は消え、とある光景が映し出されていた。
それは、この世のものとは思えない地獄を表したような凄惨なものばかりで-------------
死に絶えた生まれたての赤子。
それを頭から踏み付け、血肉を霧散させ、喜びの雄叫びを上げる陰湿な魔族。
その赤子の母親と思しき女性の眼は虚で、そんな女性を嘲笑い、一頻り笑った後で、その女性を嬲り殺す魔族達。
人類側の兵は疲弊し、中には、目の前の凄惨な光景に絶望し、手にした剣を首筋に当てて、自害する者も-------------
「…………ぅぅ…………」
思わず、その狂気とも言える光景に、胃の奥底から何かが込み上げて、慌てて口に手を当てて堪える。
前線は酷い状況だ。
そんな話は聞いていた。
しかし、それを見てしまうと、こう…………何かが可笑しくなるというか、理解し難いものに感じてしまう。
そして、何より、平然と人の命を弄ぶ魔族を見て、僕の中で、何かが、激しく蠢いているような…………。
そんな奇妙な感じが…………。
『それは怒りです』
「怒り…………?」
『そうです。あなたは今、魔族の耐え難い暴挙を見て、魔族を憎み、怨み、殺意を抱こうとしている。それは、あなたが人を想い、優しい心を誰よりも持っているからなのです。しかし-------------』
神はそこで、言葉を切り、僕の前へと歩んで来ると、優しく掬うようにして、僕の両の頬に手を触れて、じっと、僕の目を真っ直ぐと見つめて、言葉を紡ぐ。
『それでは、あなたはあなた自身の本来の力を出し切れません。寧ろ、その感情が、あなたの足枷となっている』
「足枷?」
神のその言葉に、思い当たる節があった。
それは、あの日、この力を手に入れて、盗賊共を殺した時だ。
あの時、僕はあまりにも非道な盗賊共に怒った。
怒りで、我を忘れて-------------
『ひっ!!!』
「っ!?」
一瞬、あの日の女性の恐怖に歪む顔が脳裏を過った。
そうだ。
あの日、僕は怒りで、我を忘れて、盗賊共を皆殺しにして、助けた女性達に恐怖を刻み込んだ。
刻み込んで、正気に戻る感覚があった。
ウザルの時だってそうだ。
ウザルの時も、怒りで頭の中がいっぱいになって、我を忘れて、ウザルを殺そうとして、殺した。
殺そうとした?
普段の僕だったら、例え、怒りを覚えていても、現状を先に確認してから、勝てる戦いなのか、逃げるべき戦いなのかどうかを判断していた。
判断して、あの現状で、逃げる選択を選んでいた筈だ。
そう判断して、行動に移していた筈なのに…………。
ウザルのような戦闘経験豊富な強者を相手にするくらいなら、逃げていた筈なのに…………。
その筈なのに、僕は、どうして、あんな浅はかで、短絡的に動いて-------------
「っ!!」
『気が付きました?』
僕が、その答えに辿り着く事を分かっていたように、神が楽しげに微笑む。
「僕が、あの力を使った際に、怒りに心を支配されていた?」
『その通りです。正確に言えば、あのスキルを発動させた時、あなたは、かの勇者の怒りを引き継いで、心が怒りに飲み込まれてしまいます。ですから、あなたは、あのスキルを使う際、心を制しなければ、十全に力を行使するというのは難しいのです』
そこで、あなたに、これを-------------
神が、僕の手に優しく取り、何かを手渡して来た。
「……………………」
掌の上には、かなり小ぶりだが、一欠片の宝石のようなものが-------------
「これは…………ダイヤ?」
宝石に関してはあまり知識はない方なのだが、一眼見ただけでも、かなり高価なダイヤモンドなのは分かる。
『わたくしも詳しくは知らないのですが、かの勇者は《ホーリー・ダイヤ》と呼んでいました。何でも、スキルを制する唯一の術なのだとか』
こんな小ぶりな宝石で?
色んな角度で、その宝石を弄ぶ。
「……………………」
嘘くさい。
そう思っていたら-------------
「へ?」
何の前触れもなく、ダイヤが輝いたかと思えば、形状が宝石から光の玉に変わって、そのまま…………僕の胸の辺りに、すっと自然に入って消えた。
「……………………」
え?
これ、大丈夫な奴?
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