聖女は男で、反逆者で、救世主?

水先 冬菜

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第1章 救世の聖女

違和感

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「いたたた…………。酷い目にあったわ…………」

「自業自得でしょ!!?」

「ぐすんっ…………」

 あれから、私はセクハラの代償として、ユリィこと第一聖女ユリシア監視の元、先程、襲撃された地点にて、とある作業を行なっていた。

 それは『広域浄化魔法』と呼ばれる人や自然を汚染する"魔素"を取り除くための魔法を発動させるための魔法陣を構築するというもので--------


 そもそも、“魔素"とは--------人間で例えるなら、体をむしばむウイルスや病原菌とでも言えばいい、あらゆる生物に悪影響を及ぼす、不浄な魔法物質の事だ。


 放っておくと、魔素はこの森の大地を侵食し、ありとあらゆる生命に害を成す。


 今回は特に、外道中の外道にして、魔物を生み出す禁術魔法…………死霊魔法が関わっているので尚更だ。


 その証拠に、この土地一帯の魔素は、通常値をうわまる程の濃い濃度で、周辺に影響を及ぼしている。

 木々や草花が痩せ細ったように枯れ果て、先程、騎士団から数名の者が魔素に当てられて意識を失い、倒れたらしい。

 今も治療にあたっているらしいが、あまり芳しくはないと聞いている。


 正直、これをこのまま放置するのはあまりにも危険だと私もユリシアも判断した。


 下手をしたら、魔素が広がり続けて、生き物が住めない土地になってしまう危険性もある。

 そのため、早急にこの一帯を浄化して、正常な形に戻さないといけない。

 だが、魔素を浄化する。

 そんな事が出来るのはもちろん"聖女"のみ。

 それでもって、先程の戦闘でアルバート皇国の四大聖女は魔力も体力も消耗し切っていて、万全ではない。

 そんな中で、ポーション創作及び第一聖女よりも魔力量のある私が名乗りをあげ--------その魔法陣の詳細を、監視という名の指導を得て、ユリシア様からお教え願っているという何とも厄介で、面倒な状況なのだ。

「全く…………一応、私も怪我人なんだから優しくてしてよ…………」

「セクハラする余裕があるなら、問題はないでしょう……?」

「ううっ…………。辛辣…………」

「あははぁ~…………。レイくん~、がんばれってるねぇ~」

「ん?」

 何か、気の抜けた声がすると思って振り返ると、ユリシア様の隣にいつの間に来たのか、第四聖女のアスカ様と護衛だろうか? 

 数名の騎士がアスカの隣に立っていた。

「ユリシア様。遺体の埋葬が完了致しました」


 一人の騎士が鎮痛な面持ちでユリシアに報告した。

 ユリシアは「そう…………」と頷くだけで、顔を俯かせながら、休息を取るように騎士達に指示を出すと、騎士達は事務的にテキパキと動き出す。

 そして、しばらく騎士達が離れて行くのを確認すると、その場に残ったアスカが徐に口を開いた。

 その内容はもちろん、王都の住民の人達の遺体の調査報告だ。

 不敬かもしれないが、その人達の体を魔法的、医療的に調べれば魔王あのドカスがどんな魔法を使ったのか。

 どういった魔物が王都にいるのか。

 魔物の特徴や魔法の詳細を詳しく分析出来るのではないかと考えたからだ。

 特に、『深緑』の聖女アスカはこんな気の抜けた感じでも、医療分野、魔法分野では博士号を持つ研究者だ。

 何かしら、分かるかもしれないので、無理を言って、ユリシアが調査するように頼んでおいたのだ。


 私はそれを聞きながら、しばらく魔法陣を描き続けて…………。

「何ですって……?」

 ふと、その手を止めた。

「だからねぇ~。

 最初はレイくんの言った通り死霊魔法だと思ったんだけどお~。

 でもぉ~、使われた魔法がかなり異なっていたというかぁ~?」

「どういう事……?」

 頭の上に疑問符を浮かべていそうな歯切れの悪いアスカに、ユリシアが問いかける。

「どうもこうもないよぉ~。

 どうもねぇ~。

 今回、使われた魔法は、死霊魔法に似てはいるんだけどぉ~。

 今回のはぁ~。

 私も知らない系統の魔法だったんだよねぇ~」

 アスカはお手上げと言わんばかりに、困り顔で両の手を挙げた。

 
「それはつまり…………全く知られていない新たな禁術の可能性がある、って事かしら……?」

「そうの可能性はあるね…………。

 それも、死霊魔法を超える奴だと思う…………」

 私の問いに、アスカは真剣な顔付きで答えた。

 どうやら、本当にその可能性がありそうだ。

 だが、死霊魔法じゃないとすると一体何の魔法だ?

 そもそも、死霊魔法とは、大勢の人間を生贄にして会得する禁術に指定された--------魔物を生み出す最上位の最低な魔法だ。

 死霊魔法で生み出された魔物は通常の魔物よりも知性が優れていて、命令には従順。

 耐久性も強度もあり、戦闘能力は桁外れな上、個体の中には、毒といった状態異常系の特徴を持つものもいる。

 その魔物に殺されれば、その者も魔物となり、発動者の操り人形へと成り下がる。

 今回の蜂もどきがそれだ。

 その証拠に、国王も、殺された騎士達も《魔獣化》と呼ばれる人が魔物になる現象を引き起こして、私達を襲った。

 更に厄介なのは、その対象法だ。

 その対象法とは、聖女の浄化能力のみである。

 今回は、シリアの広域浄化魔法《聖域ホーリー・フィールド》で、一気に周辺毎浄化して一掃出来たが…………。


「んん……?」

 ふと、おかしな事に気が付いた。

 それは、魔物を浄化したの事…………。

「ねぇ…………。一つ聞いても良いかしら……?」

 私はある事が気になって、アスカに問い掛ける。

「んん~……? なぁに~……?」
 

 私がある疑問を口にすると、アスカも…………それどころか、ユリシアも驚きからか目を見開きながら、声も出なかった。


 それは禁術であるが故になもの…………。

 考えれば、出てきそうな答えだった。
 
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