16 / 31
第1章 救世の聖女
罪人の責任
しおりを挟む
「俺は何もやっていない!! 信じてくれ!!」
三年前、あのクソ野郎に嵌められた俺は突然、騎士達に拘束されて、牢の中にぶち込まれた。
中では、聴取という名の名目での尋問を受けた。
時に殴られたり、蹴られたりと暴行を受けたりもした。
俺は何度も無実を訴えたが、聞き入れて貰えず、最後に俺を聴取したのが、他でもない、あの第一聖女様ことユリシア様であった。
正直な話、俺はユリシア様の事は異性として意識するほど、好意を持っていたと思う。
何せ、ユリシア様は俺の両親だった連中とは親しい間柄で、五歳くらいの時から共に過ごして来た幼馴染だった。
だから、俺の事も理解してくれるし、信じてくれるとも期待した。
だが、彼女はいとも簡単に俺を見放した。
裏切り者、とか、この売国奴め、とか、彼女も俺の話を微塵も聞こうとはせず、一方的に責め立て----------------裏切った…………。
その所為なのか…………。
俺は正直、人を信じる事が出来なくなった。
今だって、この討伐軍の連中を全く持って信用出来ずに、キャンプ地から少し離れた岩の木陰で休んでいる。
念には念を入れて、討伐軍から食事の配給も無視して、手持ちの食料で絶賛調理中だ。
幸い、聖女の力の研究の際、アイテムボックスという無限収納魔法を会得出来たので、それなりの食料は保存してある。
長くても二、三ヶ月は困らないだろう。
まあ、断った際、討伐軍の連中から色々と気まづそうな視線を向けられたり、困惑されたり、敵意を持たれたりもしたが、知った事か。
「こんな所にいたのね…………」
俺が味見をしていると、覚えのある声がした。
「何でございましょうか…………? 第一聖女様…………」
俺は大きなため息を吐くと、心底嫌そうな顔で声のする方に顔を向けた。
恐らく、俺は相当憎々しげな瞳で、彼女を睨みつけているのだろう。
彼女は一瞬だが、悲しそうに微笑んだ後、何か考え込む仕草を見せる。
「ちょっと…………話したい事があって…………」
「なら、話す事はない。飯が不味くなる。とっとと帰れ…………」
俺は苛立たしげに舌を打つと、調理に戻る。
うん。もう少しで出来上がるな…………。
「……………………」
第一聖女はしばし、俺を見つめていたようだが、何も言わずにその場を離れていった。
------------------------------------------
当然の結果…………よね…………。
第一聖女ユリシアはレイと別れた後、討伐軍のキャンプ地の帰路の途中で足を止めた。
既に日も落ち、夜空には大きな月が大地を優しく照らしている。
三年ぶりに彼に会った。
当然の如く、突き放されてしまったが、彼の元気な姿を見れて、ホッとしている自分がいる。
それだけで十分な筈なのに、私の心は締め付けられていた。
三年前、彼が謀反を企てていると国王から報告を受けたあの日。
最初はそんな事はない、と国王に進言した。
だが、その後、あの男に提示された数々の明確な証拠は彼がこの国を裏切ろうとしているのは明白だと思えた。
だが、蓋を開けてみれば、全てあの男にでっち上げられたものばかりで、彼はそんな野望など微塵も考えていなかった。
むしろ、私や国のために必死で働いていた。
なのに、私は彼を傷つけた。
私は彼を信じられなかった。
そして、彼から全てを奪い、彼を孤独にした。
だから、彼は私の事を相当憎んでいるとは思っていた。
けれど、流石に本人と対面すると応えるものがある。
「はぁ~…………どうして、こうなっちゃうのかな…………」
理由は分かっている。
私が彼を裏切ったからだ。
裏切って、絶望の底に叩き落としたからだ。
その証拠が今の彼なのだろう。
あんなに優しく、人を想いやっていた彼は今では冒険者内では『邪神』と呼ばれて、他の冒険者達から恐れられていると聞いた。
いつも単独で行動し、協調性がなく、一切の情けも容赦もない化け物、と…………。
色々と尾ひれがついている気もしたが、あの憎悪に満ちた瞳を見ているとあながち間違いではないと思えた。
もうそこには私が知っている彼はいない。
彼は変わった。
否、私達が彼を変えてしまったのだ。
この作戦を終えたら、今度こそ彼とは永遠にお別れ…………。
そう思うと、どうしても胸の辺りが痛む。
きっと、これからもこの痛みが引く事はないだろう。
それが彼を裏切った私の代償だ。
仕方のない事だと割り切るしかない。
でも、やっぱり、辛いものは辛いなぁ~…………。
私の頬を何か温かいものが伝っていくのを感じたが、私は再び歩みを進めていく。
嗚咽を必死に堪えて、湧き上がる感情を押し殺して、それでも一歩一歩進んでいく。
例え、この想いを伝えられないとしても、彼がほんの少しでも幸せを掴めるよう、私は生きていく。
それが、罪人が負うべき責任だと思うから…………。
三年前、あのクソ野郎に嵌められた俺は突然、騎士達に拘束されて、牢の中にぶち込まれた。
中では、聴取という名の名目での尋問を受けた。
時に殴られたり、蹴られたりと暴行を受けたりもした。
俺は何度も無実を訴えたが、聞き入れて貰えず、最後に俺を聴取したのが、他でもない、あの第一聖女様ことユリシア様であった。
正直な話、俺はユリシア様の事は異性として意識するほど、好意を持っていたと思う。
何せ、ユリシア様は俺の両親だった連中とは親しい間柄で、五歳くらいの時から共に過ごして来た幼馴染だった。
だから、俺の事も理解してくれるし、信じてくれるとも期待した。
だが、彼女はいとも簡単に俺を見放した。
裏切り者、とか、この売国奴め、とか、彼女も俺の話を微塵も聞こうとはせず、一方的に責め立て----------------裏切った…………。
その所為なのか…………。
俺は正直、人を信じる事が出来なくなった。
今だって、この討伐軍の連中を全く持って信用出来ずに、キャンプ地から少し離れた岩の木陰で休んでいる。
念には念を入れて、討伐軍から食事の配給も無視して、手持ちの食料で絶賛調理中だ。
幸い、聖女の力の研究の際、アイテムボックスという無限収納魔法を会得出来たので、それなりの食料は保存してある。
長くても二、三ヶ月は困らないだろう。
まあ、断った際、討伐軍の連中から色々と気まづそうな視線を向けられたり、困惑されたり、敵意を持たれたりもしたが、知った事か。
「こんな所にいたのね…………」
俺が味見をしていると、覚えのある声がした。
「何でございましょうか…………? 第一聖女様…………」
俺は大きなため息を吐くと、心底嫌そうな顔で声のする方に顔を向けた。
恐らく、俺は相当憎々しげな瞳で、彼女を睨みつけているのだろう。
彼女は一瞬だが、悲しそうに微笑んだ後、何か考え込む仕草を見せる。
「ちょっと…………話したい事があって…………」
「なら、話す事はない。飯が不味くなる。とっとと帰れ…………」
俺は苛立たしげに舌を打つと、調理に戻る。
うん。もう少しで出来上がるな…………。
「……………………」
第一聖女はしばし、俺を見つめていたようだが、何も言わずにその場を離れていった。
------------------------------------------
当然の結果…………よね…………。
第一聖女ユリシアはレイと別れた後、討伐軍のキャンプ地の帰路の途中で足を止めた。
既に日も落ち、夜空には大きな月が大地を優しく照らしている。
三年ぶりに彼に会った。
当然の如く、突き放されてしまったが、彼の元気な姿を見れて、ホッとしている自分がいる。
それだけで十分な筈なのに、私の心は締め付けられていた。
三年前、彼が謀反を企てていると国王から報告を受けたあの日。
最初はそんな事はない、と国王に進言した。
だが、その後、あの男に提示された数々の明確な証拠は彼がこの国を裏切ろうとしているのは明白だと思えた。
だが、蓋を開けてみれば、全てあの男にでっち上げられたものばかりで、彼はそんな野望など微塵も考えていなかった。
むしろ、私や国のために必死で働いていた。
なのに、私は彼を傷つけた。
私は彼を信じられなかった。
そして、彼から全てを奪い、彼を孤独にした。
だから、彼は私の事を相当憎んでいるとは思っていた。
けれど、流石に本人と対面すると応えるものがある。
「はぁ~…………どうして、こうなっちゃうのかな…………」
理由は分かっている。
私が彼を裏切ったからだ。
裏切って、絶望の底に叩き落としたからだ。
その証拠が今の彼なのだろう。
あんなに優しく、人を想いやっていた彼は今では冒険者内では『邪神』と呼ばれて、他の冒険者達から恐れられていると聞いた。
いつも単独で行動し、協調性がなく、一切の情けも容赦もない化け物、と…………。
色々と尾ひれがついている気もしたが、あの憎悪に満ちた瞳を見ているとあながち間違いではないと思えた。
もうそこには私が知っている彼はいない。
彼は変わった。
否、私達が彼を変えてしまったのだ。
この作戦を終えたら、今度こそ彼とは永遠にお別れ…………。
そう思うと、どうしても胸の辺りが痛む。
きっと、これからもこの痛みが引く事はないだろう。
それが彼を裏切った私の代償だ。
仕方のない事だと割り切るしかない。
でも、やっぱり、辛いものは辛いなぁ~…………。
私の頬を何か温かいものが伝っていくのを感じたが、私は再び歩みを進めていく。
嗚咽を必死に堪えて、湧き上がる感情を押し殺して、それでも一歩一歩進んでいく。
例え、この想いを伝えられないとしても、彼がほんの少しでも幸せを掴めるよう、私は生きていく。
それが、罪人が負うべき責任だと思うから…………。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろうでも公開しています。
2025年1月18日、内容を一部修正しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる