聖女は男で、反逆者で、救世主?

水先 冬菜

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第1章 救世の聖女

罪人の責任

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「俺は何もやっていない!! 信じてくれ!!」

 三年前、あのクソ野郎にめられた俺は突然、騎士達に拘束されて、牢の中にぶち込まれた。

 中では、聴取という名の名目での尋問を受けた。

 時に殴られたり、蹴られたりと暴行を受けたりもした。

 俺は何度も無実を訴えたが、聞き入れて貰えず、最後に俺を聴取したのが、他でもない、あの第一聖女様ことユリシア様であった。

 正直な話、俺はユリシア様の事は異性として意識するほど、好意を持っていたと思う。

 何せ、ユリシア様は俺の両親だった連中とは親しい間柄で、五歳くらいの時から共に過ごして来た幼馴染おさななじみだった。

 だから、俺の事も理解してくれるし、信じてくれるとも期待した。

 だが、彼女はいとも簡単に俺を見放した。

 裏切り者、とか、この売国奴ばいこくどめ、とか、彼女も俺の話を微塵みじんも聞こうとはせず、一方的に責め立て----------------裏切った…………。

 その所為なのか…………。

 俺は正直、人を信じる事が出来なくなった。

 今だって、この討伐軍の連中を全く持って信用出来ずに、キャンプ地から少し離れた岩の木陰で休んでいる。

 念には念を入れて、討伐軍から食事の配給も無視して、手持ちの食料で絶賛調理中だ。

 幸い、聖女の力の研究の際、アイテムボックスという無限収納魔法を会得出来たので、それなりの食料は保存してある。

 長くても二、三ヶ月は困らないだろう。

 まあ、断った際、討伐軍の連中から色々と気まづそうな視線を向けられたり、困惑されたり、敵意を持たれたりもしたが、知った事か。

「こんな所にいたのね…………」

 俺が味見をしていると、覚えのある声がした。

「何でございましょうか…………? 第一聖女様…………」

 俺は大きなため息を吐くと、心底嫌そうな顔で声のする方に顔を向けた。

 恐らく、俺は相当憎々しげなで、彼女を睨みつけているのだろう。

 彼女は一瞬だが、悲しそうに微笑んだ後、何か考え込む仕草を見せる。

「ちょっと…………話したい事があって…………」

「なら、話す事はない。飯が不味くなる。とっとと帰れ…………」

 俺は苛立たしげに舌を打つと、調理に戻る。

 うん。もう少しで出来上がるな…………。

「……………………」

 第一聖女はしばし、俺を見つめていたようだが、何も言わずにその場を離れていった。


------------------------------------------

 当然の結果…………よね…………。

 第一聖女ユリシアはレイと別れた後、討伐軍のキャンプ地の帰路の途中で足を止めた。

 既に日も落ち、夜空には大きな月が大地を優しく照らしている。

 三年ぶりに彼に会った。

 当然の如く、突き放されてしまったが、彼の元気な姿を見れて、ホッとしている自分がいる。

 それだけで十分な筈なのに、私の心は締め付けられていた。

 三年前、彼が謀反むほんを企てていると国王から報告を受けたあの日。

 最初はそんな事はない、と国王に進言した。

 だが、その後、あの男に提示された数々の明確な証拠は彼がこの国を裏切ろうとしているのは明白だと思えた。

 だが、蓋を開けてみれば、全てあの男にでっち上げられたものばかりで、彼はそんな野望など微塵も考えていなかった。

 むしろ、私や国のために必死で働いていた。

 なのに、私は彼を傷つけた。

 私は彼を信じられなかった。

 そして、彼から全てを奪い、彼を孤独にした。

 だから、彼は私の事を相当憎んでいるとは思っていた。

 けれど、流石に本人と対面すると応えるものがある。

「はぁ~…………どうして、こうなっちゃうのかな…………」

 理由は分かっている。

 私が彼を裏切ったからだ。

 裏切って、絶望の底に叩き落としたからだ。

 その証拠が今の彼なのだろう。

 あんなに優しく、人を想いやっていた彼は今では冒険者内では『邪神』と呼ばれて、他の冒険者達から恐れられていると聞いた。

 いつも単独で行動し、協調性がなく、一切の情けも容赦もない化け物、と…………。

 色々と尾ひれがついている気もしたが、あの憎悪に満ちた瞳を見ているとあながち間違いではないと思えた。

 もうそこには私が知っている彼はいない。

 彼は変わった。

 否、私達が彼を変えてしまったのだ。

 この作戦を終えたら、今度こそ彼とは永遠にお別れ…………。

 そう思うと、どうしても胸の辺りが痛む。

 きっと、これからもこの痛みが引く事はないだろう。

 それが彼を裏切った私の代償だ。

 仕方のない事だと割り切るしかない。

 でも、やっぱり、辛いものは辛いなぁ~…………。

 私の頬を何か温かいものが伝っていくのを感じたが、私は再び歩みを進めていく。

 嗚咽おえつを必死に堪えて、湧き上がる感情を押し殺して、それでも一歩一歩進んでいく。

 例え、を伝えられないとしても、彼がほんの少しでも幸せを掴めるよう、私は生きていく。

 それが、罪人つみびとが負うべき責任だと思うから…………。

 

 
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