上 下
13 / 31
第1章 救世の聖女

監視魔法

しおりを挟む
 魔王の眷属を撃退してから数時間が経ち、俺は正直困った状況に陥っていた。

「「お願い致します!!! どうかお力をお貸しください!!!!」」

 面倒ごとを嫌って、すぐさま野営の場所を変えたのだが、非常に邪魔な奴が二人付いてきた。

 定番の土下座込みで--------

 正直、あんまりにも鬱陶うっとうしいので、何度か実力行使で追い払ったりもしたが、ゾンビみたいにいずってでも付いて来るもんだから恐いったらありゃしない。

 思い返すだけでもゾッとする。

 でも、これだけ必死だと、ある疑問が浮かぶ。

 それはアルバート皇国の壊滅の話をしていた時の話だ。


 実はあの時、アルバート皇国の帝都壊滅の話の前に、ある事を二人に問いただしてみた。

 それは国王ニクラセイが俺を襲ったのは、俺が聖女である事に関連しているのか。

 二人を護衛していた騎士が何故魔物化したのかの二つだ。

 二人はその時、国王の命令だったから理由は私達も分からないとはぐらかされたが、少なからず反応はした。

 明らかに何か知っているに違いない。

 それもかなり重要な案件だ。

 しかも、それには俺が関わっている案件なのだろうと察しがつく。

 確信を持ってそう言えるのには、大きく分けて三つの理由がある。

 一つ。

 国王ニクラセイが人類の希望にして、いわば最終兵器たる聖女を借り出してまで俺を捕らえようとした事。

 二つ。

 帝都が壊滅した切迫の状況に対して、まず優先すべきは残存戦力との合流し、戦力を整える必要があるにも関わらず、優先順位を無視して、俺を仲間に引き入れる事に手を尽くしている事。

 しかも、かなり必死。

 三つ。

 これはほとんど勘に近いのだが、何らかの理由で二人がに立たされている感じがしてならないからだ。

 その証拠とは言ってなんだが、俺の話題になると鬼気迫るという感じで決まってはぐらかしてくる。

 国王も最初は偉そうにしていたが、途中から何か急に優しい口調で、えらくかしこまった感じがしていて気味が悪かったのだ。

「前にも言ったが他を当たれ…………」

「そこを何とか…………!!」

「くどい!」

「「……………………」」

 うわぁ~…………二人揃って絶望し切った顔になっちゃってまぁ~…………。

 というか、アスカ様。

 あなた一応人類の希望なんですから、そんな顔しない方が良いと思いますよ~…………。

 泣いたって無駄ですからねぇ~…………。

「…………分かりました…………」

 クリティシア姫が嗚咽おえつを堪えながら、おぼつかない足取りで俺の野営近くで組み立てて置いた簡易テントの中へと入っていった。

 聖女アスカ様もそれにつられて入っていく。

 その姿は敗残兵はいざんへいが如く、二人の表情はかなり暗い。

 ま、俺の知った事ではないし、俺もさっさと眠るとするかな…………。

 




 ----------------で、何でこうなるかな?

 俺が気持ちよく眠りにつこうとした時、念のためとある魔法が発動したのを感じて起きてみると、視界にある二人の姿が見える。

『もうこれ以上の失敗は許されないわ。何とかして彼を連れて行かなくては…………』

『けどぉ~…………。どうするのぉ~……? ただでさえ、魔王の眷属を秒殺しちゃうのにぃ~…………。私達には、どうこうする事出来ないと思うんだけどぉ~…………』

『そこを何とかするしかありません。これは問題なのですよ!』

 監視魔法。

 指定した場所へ自分自身の聴覚や視覚を飛ばして、周りの状況を見たり聞いたりする魔法で、主に諜報ちょうほうの面で俺がよく利用している魔法だ。

 というか、便利なので作った。

 特に、女湯をのぞく時にもべん----------------こほん!

 それはそれとして…………。

 どうやら、まだ二人は俺の事を諦めていないようだな…………。

 それにしても、世界の命運って大げさな…………。
 
『そうは言っても私一度失敗してるしなあ~…………』

 聖女アスカ様はもう心が折れかけているみたいだ。

『一度や二度の失敗がなんです! きっと何か方法がまだあるはず…………』

 一方のクリティシア姫はまだ諦めきれていない感じか…………。

『そうでないとに見放されてしまう…………』

「んん…………?」

 …………?

 何か面白い事言ってんな…………。

 多分、そのあの方ってのが、全ての謎を解く鍵だ。

『ちょっ……! リティ、こんな場所であの方の話をしては駄目よ!!』

 聖女様の焦りようからして、こりゃ確定かな?

 そのあの方って奴が、何らかの理由で、俺を連れていくよう国王達に指示を出し、どういう訳か地位や権力の頂点に立つ聖女様さえ逆らえないどころか。
 恐れている? 
 存在のようだ。

 ちょっと興味が出て来たな…………。

 どうせなら、もっと口を滑らしてくれないかねぇ。

『このままじゃ、私もあなたも国の人々も何もかも失うのよ!!! そんな事を言っている状況じゃないわ!!!!!!!』

 そう思っていると、クリティシア姫が声を荒げて反論する。

 本当に後がないみたいだな…………。

 相当追い詰められてる。

 聖女が希少であったとしても、男から女になる変人にどれほどの価値があるんだか…………。


『私にもそれは分かっているわ。けれど、リティ、あなたはアルバート皇国の王女。どんな状況化でも取り乱す事は許さないわ』

『けど…………!』

『けどじゃない! 気持ちは分かる。私だって悔しい。でも、私達はまだ負けた訳じゃない。帝都は残念な事になっちゃったけど、幸い私を含めた聖女達は無事に帝都から脱出できたし、味方だって同盟国でもあるヘルスラット王国で再起を図ろうと軍備を整えようとしている。レイくんが例え仲間になってくれなくても、希望の芽は潰えちゃいない。
 だから、ね……。一人でそんなに背追い込まなくてもいいんだよ。一緒にがんばろ……!』

『…………アスカ…………』

「……………………」

 感動的な場面なのだろうが、鬱陶うっとうしく見えるのは俺の心が腐っているからだろうか……………。
 それとも歪みきってしまっている所為なのか…………。


 どっちしろクズなのだが…………。

 そう思っていると二人の様子が急に変わった。

 二人揃って天を見上げ、そして、祈りを捧げるかのように両手を合わせて、目を閉じた。

『『全ては御身おんみ御心みこころのままに…………』』

 今、何が起きた……!?

 さっきまで悲壮感ひそうかんを漂わせていた雰囲気が一変、何故か二人はまるで救われたかのような清々しい笑顔で、静かにテントの中で寝息を立て始めた。

 あまりにも二人の雰囲気の変わりように、理解の追いつかない俺は当然困惑した。

 今、何が起きた?

 あの二人の変わりようは一体なんだ?

 まさか、あの二人が言っていたとかいう奴が関わっているのか?

 ぐるぐると考え続けたが、結局朝になるまで答えはまとまらず、俺は寝れない夜を過ごすのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...