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第三章 際限なき悪意
願い事
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「ともかく、これからは無茶な事はしないようにしてください」
「はいぃ~…………」
聖女と大賢者の二人から、たっぷりと小一時間程の説教を受けた俺は、屍のように倒れていた。
というのも、説教を受けながら、二人に治療を受けていたのだ。
二人の話では、内蔵面でのダメージが想定以上で、説教を受けている途中で、内蔵の一部が破裂。
口から大量の血を吐いてしまい、今現在も治療中なのだ。
身体が鉛のように重くて、力が入らない。
『あらあら♡
大分、血の気が引いちゃって♡
無茶するからだぞ♡』
そんな奴に依頼を出したあんたらは何なんだよ。
「戻ったわ…………」
走行中なのに、馬車に飛び乗って来た影が目の前に降り立つ。
それはこのパーティーの象徴たる勇者その人だった。
「粗方、ここの人達から話は聞けたわ。
あまり芳しくない内容だったけどね…………」
ん……?
心なしか、勇者の表情が暗い。
一体、何があったんだ……?
------------------------------------------
「はぁ…………。
残念だったな…………」
帝国王都から少し離れた平原。
そこで、明らかに落胆したアレクセイが地べたで、寝そべりながら、空を眺めていた。
考えているのは、もちろん、先程、暇つぶしに追い回していた人々を颯爽と助けたあの少女の事だ。
「あぁ…………彼女はなんて素敵なんだろう。
敵すら寄せ付けない驚異的なスピード。
優雅で無駄のない刀捌き。
絶対にした、圧倒的な戦闘能力。
あんな素敵な子がいたなんて…………。
ほんと、私って、なんて罪深いんだろう……?」
「嘘臭えな…………。
ぷんぷん臭う…………」
声のする方へ顔を向けると、鼻を摘んだ彼が辟易しながら、こちらへ歩を進めているのが見える。
「大体、その顔は何だ……?
趣味が悪いにも、程があるぞ……?」
彼の気配に最初から気付いていた私は何の驚きもなく、平静に彼に話し返す。
「おや……?
君にそんな殊勝な心があったとは驚きだ。
もしかしなくても、嫉妬しているのかな……?」
私は挑発めいた言葉で、彼を煽ると…………。
「んなもんねぇよ。
大体、俺らはそもそも人間じゃねぇだろうが…………!?」
「ぶっ…………!?」
彼はイライラしながら、腹いせに私の顔を踏み付けて来た。
所謂、八つ当たりって奴だ。
彼と毎回会うと、こういう事が度々ある。
「全く…………君はいつもいつも乱暴だね…………。
少しは節度というものを学んだらどうなんだい……?」
鼻頭を押さえながら、私は皮肉めいた言葉を返した。
「だから、人じゃねえって言ってんだろ!?
良い加減、その人間らしく振る舞う癖をどうにかしろ!」
しかし、それが余計に気に入らなかったのか…………。
彼は、よりしかめっ面になって、私を睨め付けた。
あいも変わらず、迫力のある事で…………。
と、若干引きながらも、彼が彼女に目を向ける気持ちは分からなくもなかった。
あんな可憐で、優雅で、美しい彼女との相手が出来るなんて…………。
男として、これ以上の幸せはない。
あぁ…………早く彼女に会いたい…………!
会って…………私の愛情を持って、その顔を絶望に染めてあげたい…………!!
そのためなら、私は全てを投げ打ってでも、彼女を探し出して、心を抉ってやる!!!!
私は顔を歪に歪めて、そのまま起き上がると、何もない所から杖を引き抜いて、空へと掲げた。
そして、魔力を帯びたその杖の先端から、少しずつ黒い煙が立ち上って、段々と空を覆っていく。
「さぁ、狂演の第二幕と行こうじゃないか!?」
アレクセイの狂気に満ちた叫びが平原に響く。
その様子を彼…………グーラは鬱陶しげに側から眺め、とりあえず、人間に習って願った。
あの獲物が、俺と殺し合うまで、どうか死に底なわないように…………。
どうせなら、このクソったれを消し去ってくれますように、と…………。
そんな柄でもない事を心の中で願うグーラなのであった。
「はいぃ~…………」
聖女と大賢者の二人から、たっぷりと小一時間程の説教を受けた俺は、屍のように倒れていた。
というのも、説教を受けながら、二人に治療を受けていたのだ。
二人の話では、内蔵面でのダメージが想定以上で、説教を受けている途中で、内蔵の一部が破裂。
口から大量の血を吐いてしまい、今現在も治療中なのだ。
身体が鉛のように重くて、力が入らない。
『あらあら♡
大分、血の気が引いちゃって♡
無茶するからだぞ♡』
そんな奴に依頼を出したあんたらは何なんだよ。
「戻ったわ…………」
走行中なのに、馬車に飛び乗って来た影が目の前に降り立つ。
それはこのパーティーの象徴たる勇者その人だった。
「粗方、ここの人達から話は聞けたわ。
あまり芳しくない内容だったけどね…………」
ん……?
心なしか、勇者の表情が暗い。
一体、何があったんだ……?
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「はぁ…………。
残念だったな…………」
帝国王都から少し離れた平原。
そこで、明らかに落胆したアレクセイが地べたで、寝そべりながら、空を眺めていた。
考えているのは、もちろん、先程、暇つぶしに追い回していた人々を颯爽と助けたあの少女の事だ。
「あぁ…………彼女はなんて素敵なんだろう。
敵すら寄せ付けない驚異的なスピード。
優雅で無駄のない刀捌き。
絶対にした、圧倒的な戦闘能力。
あんな素敵な子がいたなんて…………。
ほんと、私って、なんて罪深いんだろう……?」
「嘘臭えな…………。
ぷんぷん臭う…………」
声のする方へ顔を向けると、鼻を摘んだ彼が辟易しながら、こちらへ歩を進めているのが見える。
「大体、その顔は何だ……?
趣味が悪いにも、程があるぞ……?」
彼の気配に最初から気付いていた私は何の驚きもなく、平静に彼に話し返す。
「おや……?
君にそんな殊勝な心があったとは驚きだ。
もしかしなくても、嫉妬しているのかな……?」
私は挑発めいた言葉で、彼を煽ると…………。
「んなもんねぇよ。
大体、俺らはそもそも人間じゃねぇだろうが…………!?」
「ぶっ…………!?」
彼はイライラしながら、腹いせに私の顔を踏み付けて来た。
所謂、八つ当たりって奴だ。
彼と毎回会うと、こういう事が度々ある。
「全く…………君はいつもいつも乱暴だね…………。
少しは節度というものを学んだらどうなんだい……?」
鼻頭を押さえながら、私は皮肉めいた言葉を返した。
「だから、人じゃねえって言ってんだろ!?
良い加減、その人間らしく振る舞う癖をどうにかしろ!」
しかし、それが余計に気に入らなかったのか…………。
彼は、よりしかめっ面になって、私を睨め付けた。
あいも変わらず、迫力のある事で…………。
と、若干引きながらも、彼が彼女に目を向ける気持ちは分からなくもなかった。
あんな可憐で、優雅で、美しい彼女との相手が出来るなんて…………。
男として、これ以上の幸せはない。
あぁ…………早く彼女に会いたい…………!
会って…………私の愛情を持って、その顔を絶望に染めてあげたい…………!!
そのためなら、私は全てを投げ打ってでも、彼女を探し出して、心を抉ってやる!!!!
私は顔を歪に歪めて、そのまま起き上がると、何もない所から杖を引き抜いて、空へと掲げた。
そして、魔力を帯びたその杖の先端から、少しずつ黒い煙が立ち上って、段々と空を覆っていく。
「さぁ、狂演の第二幕と行こうじゃないか!?」
アレクセイの狂気に満ちた叫びが平原に響く。
その様子を彼…………グーラは鬱陶しげに側から眺め、とりあえず、人間に習って願った。
あの獲物が、俺と殺し合うまで、どうか死に底なわないように…………。
どうせなら、このクソったれを消し去ってくれますように、と…………。
そんな柄でもない事を心の中で願うグーラなのであった。
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