上 下
68 / 144
第二章 水の都市の大罪

過去のカケラ

しおりを挟む
「これじゃ駄目だな…………」

 聖女に《量産型》のカードデバイスを預けてから、工房に戻った俺は、メンテナンスポッドに入っている魔道具へと視線を向けた

 それは《量産型ヴァルキリー》と共に眠っていた魔道具。

 本当なら、《ヴァルキリー》のとなる筈だったもの。

 元々、《ヴァルキリー》とは、の夢を形にしようと、したものだった。


 だが、ある事件で、その男は永遠の眠りにつき……………………俺は失意の中、その装備を工房の倉庫へと封印し、今までの研究成果を基に、独自に《ヴァルキリー》の開発を行った。

 だが、あの男の技術には到底及ばず、俺が作った《ヴァルキリー》は惨敗を期し、大破してしまった。

 もし、あいつの技術があれば、あのグーラをのに…………!

「と…………。

 今はそれどころじゃない」

 俺は被りを振ると、メンテナンスポッドのデータを見ていく。

 俺の組んだプログラムなんかでは、到底太刀打ち出来ない。

 繊細で、かつ大胆なプログラム。

 それでいて、無駄がない。

 ほんと、あいつこそ天才だと、今でも思う。

『俺は勇者達と共に魔王を倒し、世界を救うんだ!』

 それがあいつの口癖だった。

 なのに、あの馬鹿は…………!!


 おっと…………何、感傷に浸っているんだ。


 今はこいつに集中しろ。

 こいつさえ、完成すれば、こっちの手札が増える。


 今こそ、俺があいつの夢を現実に叶えてやるんだ!


 何度も、何度も、データを入力し、失敗してを繰り返していく。


 だが、その魔道具は一向に

 何度も、何度も、試してみてもだ。

「くそっ…………!!」

 やっぱり、こっちの分野じゃ、あいつには敵わなねぇ…………。

 いや、そもそも、あいつと俺とじゃ、コンセプトも違ったしな…………。

 いや、よく思い出せ…………。

 元々、《ヴァルキリー計画》のコンセプトは何だったのか?

 何故、性能の劣る事をとした《量産型》の制作に着目したのか?

 いや…………待てよ…………。

 そもそも、あの《量産型》の数は確か…………。

 それなら、あれは…………あいつの性格からして、もしかしたら…………。


 試しに、端末を取り出して、そのデータをコンソールに繋げて、入力してみる。


 すると、メンテナンスポッド内で起動音を上げて…………その魔道具が淡い光を放つ。


「…………なるほど…………。

 そういう事か…………」

 ほんと、天才だよ。

 頭は空っぽで、重度の大馬鹿野郎のくせして…………。

 こんな、大それた事、考える奴は…………やっぱ、お前しかいねぇよな…………。

 その光を見て、頬に一筋の光が流れた。


 やっぱり、お前がいないと、俺は駄目なんだな…………。


 メンテナンスポッド内で光を放つ魔道具を前に、俺は視線を外す事なく、しばらく立ち尽くしていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋人に捨てられた私が、幸せになるまで

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:797

嘘よりも真実よりも

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:13

異世界召喚されたと思ったら何故か神界にいて神になりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3,264

「お前の席ねーから」とパーティーを追放された俺、幼い聖女の守護騎士になる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:876

紺碧の精霊使い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,683

処理中です...