上 下
50 / 54
第二章 規格外の魔導書

異変

しおりを挟む
 某監獄----------------

 そこには、数日前に襲撃してきた『マホロバ』の面々が収監されていた。

 牢屋の中では、皆、自害しないように口に布を噛まされ、幾重にも拘束具で動きを封じられて横たわってはいるが--------絶望のあまり生気がなくなり、虚な目をしていた。

 特に、それが一番顕著に現れていたのは、今回の首謀者であるゴルザだった。

 何でも、ゴルザは千を超える罪状を持つ指名手配犯だったそうで、こいつを生きて捕らえたという事で、最初の頃は、国王や重臣達も大変喜んでいたとか…………。

 ただ、完全に心折れてしまったが故、尋問の際、全く持って口を開く気配がない。

 そのため、マホロバについての情報を引き出せず、剣聖であるお義父さんも手を焼いているらしい。

 だからこそ、王宮は俺の力を使って、それをどうにかする為に、剣聖直轄の騎士として招集したのだ。


 監獄の地下深く--------

 養父である剣聖の雅彦に連れられて、俺達は最下層にある牢獄に到着した。

 そして、牢獄の中へと視線を向けると、見るからに痩せ細ったゴルザが鎖に繋がれて、頭を項垂れていた。

 人って、絶望するとこんなにも痩せるんだな…………。

「よおっ! 数日振り」

 声を掛けて見るが、全く反応しない。

 本当に心が死んでしまっているようだ。

 生ける屍とは、正にこの事だな…………。

 って、感心している場合じゃねえか…………。

「そんじゃ、始めますよ」

「頼む…………」

「描け! 永久図書館エンドレス・レコード!」

 俺は休眠状態(指輪状)の神器を解放し、キリエの姿へと変わった。

 そんでもって、隣で佇む、一美に向き直る。

「それじゃあ、一美さんや…………。

 最上級魔法を使いますが、よろしいでしょうか……?」

「どうぞ……♪♪」

 一美さんの了承も得ましたので、使わせて貰いますかね。

『自動検索…………。

 ページ七十八、記憶探検タイム・トラベラーを発動します』

 脳内に声が響き渡ると、俺はキリエの姿に変身を遂げ、ゴルザに対して魔法を放った。

 ゴルザの頭部にその魔法が命中すると、頭部から、何やら水晶のような掌サイズの球体が現れて、俺の手に収まった。

「それは何だね……?」

「これは記憶球と言って、奴の記憶を写し取ったものですよ」

 お義父さんが興味ありげに訊いて来たので、俺はそれを目の前で見せ、淡々と答えた。

「えぇっと、確か…………こうやって、水晶に魔力を流すと…………」

 俺は神器の説明の通りに、水晶に魔力を流すと、牢獄の壁面に映像が映った。

 どうやら、ゴルザの記憶が映像として壁面に、音声付きで映し出されているようだ。

 映像の光景からして、今、第一騎士団が調査している国境付近のものだ。

 うまくいったみたいだな…………。

「とまあ、こんな感じで、対象者の記憶を取り出す事で、映像として見る事が出来ます。後で、これの使用方法と共に情報部の方へ渡しておきますね」

「うむ、助かるよ。

 君も出来れば、独自に動いてみてくれ。

 こちらでも引き続き調べてみるが、そちらでも、何か分かったらすぐ連絡を頼む…………」

「了解しました」

「うむ。では、またな…………」

 俺は雅彦さんと別れてから、すぐ様、こいつを情報部へ渡して、一美と共に、一度別荘に戻る事にした。

 それから、数日後--------

 記憶球を使った調査で、『マホロバ』の目的が段々と明確になっていくのだが…………。

 それに呼応するかのように異変は突如として起こった。

 国境付近に向かった第一騎士団から緊急で、謎の魔物が出現の報告が入った。

 何でも、鳥のように飛行するタイプの魔物が近隣の住民を連れ去っていると言うのだ。

 すぐ様、俺と一美にも出撃命令が降り、現地へ向かうのだが…………。

 そこで、俺達が目にしたのは--------

 村を襲う、飛行型の魔物群れだった。
しおりを挟む

処理中です...