魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

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第二章 規格外の魔導書

デリートエンド

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 ちょこっと、病室を抜け出していたら、何か知らんが一美が襲われていた。

 んで、ムカついたから、蹴り飛ばしてやったんだが…………。

「貴様!! 我らが神の意思を冒涜する気か!!? 今すぐ、その贄を明け渡せ!! さもなくば、人質の命はないぞ!!!」

「だから、うるせえよ!!」

 何か、定番な事を言って来たので、一気に距離を詰めて顔面を踏み潰し、何度も踏んで踏んで踏ん付けた。

「近所迷惑だろが…………。寝ている連中も迷惑だろ……? 大体何だ……? 人質ってのは、やれるもんならやってみろっての」

 腕の中の一美は非難するような目を向けたが、俺は大丈夫だ、と目線で合図を送って置いた。

 それに気付いた一美は安心したように落ち着きを取り戻すと、今、踏み付けられているローブの男は狂ったように笑い出した。

「くくっ…………。なるほどな…………。どうやら、貴様はお望み通りな展開を御所望のようだな。貴様の行いが、どれほどの罪なき者の未来を奪うか、後悔すると言い!!」

 そいつは耳元に手を当て、「やれ!!!」と叫んだ。

 大方、耳元にインカムの類を付けているのだろう。

『お断りします』

 俺は耳元につけていたインカムを通して、答えた。

『というか、そんな大声で喋られると耳障りなんで、口元縫い付けて、一生話しかけないで貰えます……?』

 俺は悪どくそいつに微笑んで答えると、そいつの顔が驚愕に変わっていった。

「な…………何故……?」

「すいませ~ん。

 あまりにも、近所迷惑だったので、あなたのチンピラ仲間は全員、服ひん剥いて、そこら辺の木でお休みしております。

 あ、助けに行こうとしても無駄ですよ?

 全員、私が調合した毒の所為で、指一本動かす所か、"汚れ切った神器"なんてもん使ったら最後、神器そのものを消滅させるようにして置いたんで…………。

 あんたらが崇める"邪神様"に貰った、とてもとても大切で、命よ~りも大事なゴミ同然のものを守らないといけませんもんね」

 俺が嫌味っぽく強調して、挑発するとそいつの表情や雰囲気が見る見る怒りを帯びて来た。

 それを心底バカにしたように笑うと、顔を踏み付けられた男が襲い掛かろうとして--------

「あなたの大事なお仲間の神器が消えちゃいますよ? 動いても良いんですか……?」

 動きが止まる。

「実は私の毒は、私がある特定の条件化に置かれるとその効力を発揮する伝達魔法型の特殊な毒でして…………。その条件は何か…………分かります……?」

「……………………」

「答えは…………。あんたの顔から、私の足が離れる…………ですよ……?」

「くっ…………」

「分かったら、下手な事はしないでくださいね……? 卑怯なんて言わないでくださいよ? 最初に刃を向けたのはあんた達なんだからさ。『マホロバ』第二席のゴルザさん」


「貴様あああっ!!」

「足離しちゃうぞ? 良いの? それで……? 一ミリでも離れたらアウトだよ? んん?」

「うわぁ~…………」

 腕の中の一美が若干引いていたが、構わず俺はゴルザを煽り続けた。

「ねぇ、こういう時はごめんなさい、って、言う所じゃないかな?

 もし言えたら、お兄さん優しいから君だけ見逃してあげても良いよ?

 当然、お仲間の無事は保証しないよ?

 どうする?

 此処で仲間を見捨てて、組織の未来の為、無様に生き恥を晒すか。

 仲間を救う為に、仲間から大切なものを奪って絶望させるか。

 ねえねえ、どうする?

 どっちにする?」

「……………………」

 自分でも、かなりうざったく感じたが、何も言い返せないゴルザの体が怒りで体がプルプルと震えている。

 情報によると、こいつは前回の聖戦で総指揮をして、多くの部下を死なせている。

 そして、今回も俺の存在によって、完全にこいつの目論見は叩き潰された。

 だからこそ、こいつは選ぶ事が出来ない。

 仲間か、組織の未来か、どちらかを選んでも、こいつに残るのは耐えがたい後悔と屈辱だけだ。

「早くしてよ…………。こっちも、君らのおかげで寝不足でね。さっさと選んでくれないと、どっちも失っちゃうよ……?」

「……………………」

「あ、そう…………。なら、手始めに…………」

『あ、あああっ!!』

 俺が指を鳴らすと、インカムを通して、マホロバの連中の声がこだまする。

『か、神の…………神より携わった力が!!! 俺の神器が!!!!』

「貴様…………!」

「マホロバの皆様…………聞こえますか……? これから、あなた達の神器を一つ一つ消していきたいと思います!!」

『『『!!?』』』

 インカム越しに、木に括り付けられ、毒に苦しむマホロバの連中が息を飲むのが分かる。

「あなた達が神様から頂いた神器を失うきっかけになったのは、他でもない。今回、総指揮を勤めている優柔不断なゴルザさんです!」

 ゴルザは横目で射殺しそうな目つきで俺を睨んでくるが、知ったことか…………。

「悲しい事に、とても優しい優しい私はただ謝ってくれれば、見逃してあげる。そう言ったのにも関わらず、彼は拒否しました」

「貴様…………一体何を--------」

「そうしたら、彼は私にありえない事を口走ったのです! その一部を親愛なる神の守護者であるあなた達にお伝えしましょう!」

 そう言った俺は、一美を片手で抱えつつ、インカムのある機能を起動した。

 それを起動した瞬間、ゴルザの顔が見る見る青ざめていった。

「一体、何をしたの……?」

 腕の中の一美が不思議そうに問い掛けて来た。

 俺はインカムの通信を切って、彼女に答える。

「なに、ちょっくら、このゴミカスゴルザ君の声をちょっと拝借してな…………。

 テロ集団が大好きな自称神様に対しての侮辱や罵倒といった記録音声を流しているだけだ。

 他ならぬ、元マホロバ第二席にして、裏切り者のゴルザ君の声で、な…………」

 その効果は敵面だったようで、通信を復活させると自称神に懺悔するかのように、泣き叫ぶ狂信者どもの声が聞こえる。

 どうも彼らは、神を裏切ったゴルザに、手を貸した事を悔いてるようだ。

 中には、ゴルザに対して恨み言を叫び、お前さえいなければなどの中傷も含まれていた。

 その罵詈雑言の嵐に、流石の第二席様も応えているようだ。

 ほんと、こういったバカな連中は、心底分かり易くて…………操り易い…………。

「さて、ゴルザ君…………。裏切り者の君の所為で、多くの信者が傷付いた。当然、その報いは受けなくてはならない」

「や…………やめて、くれ…………」

 踏み付けているゴルザにわざとらしく
、芝居掛かった口調で語りかけると--------いつの間にか、ゴルザの声が弱々しく、覇気のないものに変わっていた。

 どうやら、仲間の怨念の籠もった叫びに心を折られつつあるようだ。

 その証拠に、瞳の光が段々と暗いものになっていっている。

「先に手を出したのはそっちだ。なら、こっちもこっちで、あんたらの言い分…………聞く必要ある?」

 俺は死刑を宣言する様に言い放ち…………。

 罪人の首を切り落とそうと、振り下ろされたギロチンが…………俺の右足がゴルザから離れて…………。

 インカムから幾人もの悲鳴が、静寂を突き破って、病室内に響き渡った。
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