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第二章 規格外の魔導書

驚きの事実

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後天性乖離症候群こうてんせいかいりしょうこうぐんですね」

 医療特務機関『梓』に到着して早々、一美が連絡していたのか。

 あれやこれやと手際よく、色々な検査を受けて、医師と思しき奴にそう言われた。

「後天性乖離症候群…………って何です……?」

 とりあえず、聞いた事の無い病名なので、訊いてみる。

「まあ、端的に言えば、一時的な記憶喪失ですね」

 記憶喪失…………?

 俺が……?

 俺が首を捻っていると、隣に腰掛けている一美が口を開いた。

「それは治るものなのですか……?」

 いつになく、真剣な口調で問い掛ける一美の表情には、俺への心配が滲み出ている。

 いやぁ~、嬉しいねぇ~。

 そう思ったら、何か脇腹をつねられた。

 痛いです…………。

「そ、そうですね。

 《神器使い》の中で、稀に起きる症状ですから、何とも言えませんが…………。

 幸い、データベースに過去に類似する事例がいくつか見つかりましたので…………。

 刀城さんの検査結果を見る限り、大体二、三日もあれば元に戻ると思いますよ」

 優しく語りかけてはいるが、一美の表情が怖いのか、顔が引きつっていますよ……?

 ちなみに、《神器使い》とは、聖戦参加者の簡易名称だ。

 まあ、神器と言えば、聖戦の参加者の証。

 なら、名称も神器よりになるのは必然だよな…………。

 っていうか、俺、神器なんて持ってたか……?

 謎だ…………。

 俺が色々考え込んでいたら、急に頬をつねられた。

「いひゃい…………」

「話は聞いていた……?」

 素直に答えよう。

「ひいてましぇんでひた…………」

「……………………」

「いひゃい…………! いひゃいです! かしゅみひゃん!!」

「ふんっ…………」

「あははは…………」

 ほら、先生に笑われたじゃねえか…………。

 おお、痛ぇ~…………。

「それで、何だっけ……?」

 俺は涙目ながら、つねられた頬に手でさすって聞き返した。

 一美は仕方ないな、と言わんばかりに、今の俺の現状について、先生の補足を含め、話し出した。

 どうやら、俺は今、現状俺の持つ神器の過剰使用による負荷に耐えられず、一時的に記憶が混濁こんだくしているため、ここ最近(大体一週間程の)事を思い出せない状態らしい。

 そんでもって、それが早くても二、三日経たないと治る見込みがない、との事。

 俺の神器があれば、それを解析して、より詳しい情報が得られるらしいが、一時的とはいえ、記憶喪失な俺は当然、神器なんて物は分からない。

 そもそも、持っているのかも怪しい。

 持っていたとしても、どんな神器なんだ?

 あ、そういえば…………。

「これって関係あるのか……?」

 俺はある事を思い出して、それを二人に見せた。

 それは俺がここ…………『梓』に来る前に何故か嵌めていた指輪だ。

 寮を出る前に、不自然な思って洗面台の辺りに置いて来た筈なのだが、いつの間にかズボンのポケットの中に入っていたのだ。

 不思議に思ったので、その時の話をしながら、それを見せると、二人の表情が驚愕に変わった。

「どうしたんだ……?」

 そう問うと、二人はそれが神器だと言う。

 俺にはただの指輪にしか見えないが…………。

 それから、一美が何やら先生に連絡をするように指示を出して、俺は一美と共に受付ロビーで待つ事になった。

 待つ事三十分…………。

 何故か、一美に膝枕されながら、ソファーを占拠して、寝そべっていると、騎士服に身を包んだ三人の者達が俺達の前に現れた。

「お待ちしていました。ハンネス隊長」

「うむ。そちらの少年が例の…………」

「はい。例の件なのですが、もしかしたら…………」

 何か、よく知らんがとんでもない面倒ごとに巻き込まれそうだな…………。

 諦めもかねてた大きなため息を吐いた俺は、憂鬱な気持ちのまま、今も面倒な話している一美の顔をずっと眺めていた。
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