魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

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過去編 神童一美

見抜かれて…………

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「どういう事ですか……!?」

 思わず父を問い詰めると、父は何も言わずに一通の手紙を差し出して来た。

 それを受け取り、内容を確認すると--------


 彼と私とでは釣り合わないだとか。

 彼よりもふさわしい男がいるだとか。

 本人もそれを望んでいないとか。

 何やら、それっぽい事が書かれているが…………。

 私はこれを誰が書いたのか、一目で分かった。

 あ~い~つ~…………!?


------------------------------------------

 私が手紙を受け取ってから、次の日--------

 私は怒気をほとばしらせながら、刀城家に乗り込んだ。

 もちろん、あの手紙を書いたであろう張本人に問い質す為だ。

 そして、その張本人はというと…………。

「おっ…………。案外早く来たな…………」

 何故か、庭園の池で釣り糸を垂らしていた。

 どうやら、池の鯉を釣り上げようとしていたらしい。

 って、そうじゃなくて…………。

「あの手紙は何……?」

 私は彼に近寄り、至近距離で彼を睨み付けた。

 自分でも驚くくらい低く、冷め切った声だった。

「何って…………それらしく断っただけだが……?」

 だが、彼は何も動じる事なく、平然と受け答えた。

 私は彼の態度に若干、イラついた。

 私が父に通した話。

 それは彼と私の婚約についてのものだ。

 そう私は彼を異性として意識していたのだ。

 だから、私は父を通して--------遠回しだが、彼に告白した。

 しかし、彼は知ってか知らないでか。

 それっぽい事を書いて、煙に巻くよう断って来たのだ。

 しかも、手紙の最後の部分にはこう書かれてあった。


『正直言って、面倒くさい』

 
 こんな断り方があるか!!

 そう彼に言ってやりたい。

 私は思わず、頭を抱えた。

 だけれど、彼はどこ吹く風…………。

 まるで、何事も無かったかのように釣りを再開し出した。

「人の話を聞きなさい」

「何……? もう話は終わったんじゃないの……? というか、頭痛いよ」

 私は頭を掴んで、彼の顔を私に向けさせた。

 彼は私に抗議して来るが、そんな事知らない。

「どうして…………!?

 私の何がいけないのよ…………!?」

 私は思わず、嗚咽混じりにそう叫んだ。

 暇があれば、毎日あなたの元へ通った。

 何か困った事があれば、あなたの力になった。

 長く辛いリハビリで、くじけそうなあなたの支えになろうと色々と手を尽くした。

 それなのに、あなたは…………。

「……………………はぁ…………」

 しばしの静寂の中、彼は心底呆れたように大きなため息を吐いた。

 すると、彼は釣竿を置いて、私の方へ向き直り、立ち上がろうとして----------------そのまま膝蹴りを繰り出して来た。

「何するのよ!?」

 私はそれに気付いて、バックステップを駆使して彼との距離を取った後、彼に抗議する。

 しかし、彼は何も悪びれた様子もなく、佇むだけ…………。

 それどころか、私を見てすらいなかった。


 ただただ顔に「面倒だな…………」と思っている事は何となく分かる。

 そっちがその気ならと、私も拳や蹴りを繰り出し、応戦する。

 彼は退院したばかりだというのに、軽やかにそれらを避けて、避けて、避けまくった。

 何だか、彼にもてあそばれている気分だ。

 実際、そうだったのだが…………。

 この時の私は怒り心頭だった。

 周りが見えておらず、状況判断が甘かった。

 それ故、最後の最後で彼に足を引っ掛けられ、転ばされた。

 私が悔しさのあまり彼を睨み付けていると--------

「そういう所だよ…………」

 端的に彼はそう答えた。

「お前さあ…………。恩着せがましいというか、あの時の事…………自分の所為とか思ってるだろ?」

「…………!!」

 何で、それを…………!?

 そう思って、思わず私は目を見開いた。

 すると、彼は「やっぱりか…………」と言わんばかりに頭を抱えて、被りを振った。

「あのな…………。

 あの時の事は誰の所為でもないし、ましてやお前の所為でもない。

 ただ、俺の運が悪かっただけ…………」

「っ!! そんな事--------」

「まあ、黙って聞け…………」

 私の言葉を遮って、彼は話を続けた。

 彼曰く、あの時の事は不幸な事故。

 私が気にする必要はないし、気に病む必要もない。

 ただ単に自分にそれを覆す力がなかっただけ…………。

 ただそれだけだと彼は言った。

 そんな訳ない!!

 私があの時指示に従っていれば…………。

 咄嗟に、そう言い返そうとして--------

「お前、そうやって俺を言い訳に使って楽しいか……?」

 彼に冷めきった瞳で言われて、言葉を失った。

 私があなたを言い訳にしている……?

 一体、どういう事……?

「お前は気付いていないかもしれないがな…………。

 この際だ。

 はっきり、言ってやる。

 お前は俺を言い訳にして、逃げてんだよ」

 私が逃げている……?

 何を言っているの……?

 私は別に逃げてなんか--------

 ピシッと額に痛みが走った。

 どうやら、彼にデコピンされたらしい。

「ほら、また逃げようとしてる」

 ため息混じりに彼は言った。

「良いか……? よく俺の目を見ろ…………」

 すると、両の手で私の両の頬を押さえると、私の目をジッと見つめて来る。

「お前があの時の事で、俺に負い目に感じてるのは知ってる。

 だかな…………。

 その償いをしたいから、婚約するってのははっきり言って間違ってる…………」

 そうはっきりと断言する彼の言葉に私はドキッとする。

 確かに彼の言う通り、そういう思いが私の中にある。

 彼の剣士生命を奪ってしまった罪悪感。

 私の何を犠牲にしても、その償いをしたいと心の奥底ではそう思っている。

 今回の婚約の件でもそうだ。

 そう言った想いが無かったかと言われれば嘘になる。

 でも、それでも私は…………。

「初めて見た時も思ったが…………お前は真面目過ぎるし、頭が硬過ぎだ。

 その…………うまくは言えねえが…………。

 俺は他人に依存して、自分で動こうとしない奴は嫌いだ」

 彼は真剣な眼差しで、はっきりとそう答えた。

「……………………」

 ああ、そうか…………。

 そういう事か…………。

 私は彼に依存して、自分で動こうとはしてこなかった。

 何があれば、彼への負い目を感じて、こうしなければ、ああしなければと何かと言い訳ばかりしていた。

 今思えば、彼が入院中も、私が彼の為に何かしないといけない。

 そう負い目を感じて、動いていたのは確かだ。

 もしかしたら、彼は初めからそう感じていたのかもしれない。


 だから、彼はさながら呪縛のように、私に巻き付く鎖から解き放とうとして--------

「ふふっ…………」

 思わず、頬が緩んだ。

 その日は、渋々ながら帰る事にしたが、私は諦めなかった。

 何度も何度も通い詰め--------

 あの手この手と策略を巡らせ--------

 彼が首を縦に振るまで、私は執拗に婚約を迫った。

 時には、ババ抜きで…………。

 時には、缶蹴りで…………。

 時には、料理勝負で…………。

 いつしか、この私闘は両家公認となって、私もまた笑えるようになっていた。

 
 そして、遂に彼と婚約をもぎ取って、親公認の許嫁になった。

 といっても、実は彼が釣りをして、気を抜いている時に、騙し討ちのような形で書類に半を押させたのだが…………。

 彼も彼で、満更でも無さそうだったので、特に問題は無い筈だ。

 
 果てさて、今日はどんな彼が見れるかな……?

 私は内心ウキウキしながら、寮を出てると、彼の元へと向かって歩みを進めて行った。


 これが私、神童一美と刀城誠の始まりにして、恋の物語である。
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