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過去編 神童一美
癒ぬ傷跡
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私、神童一美はベルマール王国の中でも、多くの有能な剣士を排出する名門、神童家の三女として生を受けた。
五歳の頃からベルマール王国最強と謳われる《剣聖》の父の指導の元、剣を振り続けた結果------------幸か不幸か、私には剣術の才がある事が分かった。
それは必然的に、既に王国の騎士だった兄や姉をも凌ぐもので、私が八歳になった頃には剣聖である父以外私に勝てる者はいなくなっていた。
そんなある日だ。
私の家に一人の男の子がやってきた。
それが彼、刀城誠と私の始まりだった。
彼は私と同じで、多くの有能な剣士を排出する家の生まれで、私の家とは協力関係にあった。
だから最初、幼かった私は、彼も私と同じような剣の才能がある凄腕の剣士である、と信じて疑わなかった。
だが、結果は違った。
私は彼に会って早々、勝負を申し込んだ。
だが、彼は面倒だからとその勝負を蹴った挙句、練習するのがダルいと剣の修練を何かと理由を付けてサボっていた。
私はそれが許せなくて、父や指導員の方々に彼のサボりの件を伝え、彼を成敗する為に、無理矢理勝負をねじ込んで貰い----------------失望した。
彼と戦ってすぐに分かったが…………。
彼は剣の才能もなければ、剣士の誇りすら持っていない最低な奴だった。
それどころか、さっさと試合を終えたいが為だけに、技とやられてみせ、何食わぬ顔で治療室のベットで、幸せそうによだれを垂らしながら昼寝をしていた。
当然、私はそんなふざけた結果を許せるはずもなく、何かと理由を付けて、彼に勝負を申し込んだ。
来る日も来る日も、彼に勝負を申し込み、その都度断られ、彼は修練をサボり、昼寝に没頭した。
私はそれが許せなかった。
勝負を受けない事にではない。
名門である家に生まれながら、努力もせず、家の名に泥を塗るように、惰眠を貪る彼が…………。
そんな彼を諫める事もせず、放置し続ける大人達が…………。
家の名に誇りを持ち、剣を愛する私には断じて許せなかった。
だから、怒りに任せて彼に色々と尋ねてみた。
何故、真面目に剣を取り組む事もせず、家の名に泥を塗るような態度を取るのか。
すると、彼は面倒くさそうにしながらも、私にこう答えた。
『天才なんだか知らねえがな…………。少しは周りを警戒しろ。でないと、後で後悔する事になるんだぞ?』
最初は意味が分からなかった。
当時の私は、次期剣聖と期待される程の剣の腕前で、全ての剣の大会でも優秀な成績を納めていた。
出る試合はもちろん、全戦全勝。
今思えば、調子付いていたんだと思う。
どんな敵であろうと、私の力を持ってすれば恐れるものは何もないと思っていた。
そんな私だったから、この後起きる取り返しの付かない失態に、未来永劫苦しめられる事になる。
彼に言われてから数日が経ったある日、私の家に賊が襲って来た。
どうやら、私の命を狙って来たらしい。
家の者達は私に逃げるように諭した。
私はそんな意見を跳ね除け、掛かってこいとばかりに、意気揚々と向かって来る賊を斬り捨てては、家の者達と協力して、順調に撃退していった。
だが、後もう少しの所で、賊を掃討し終えようとした時--------あの悲劇が起きた。
それは、家の者の中に、その賊に組みする裏切り者がいたのだ。
それは、当時、私の剣の相手を務めていた世話役のカルミラだった。
カルミラは私が賊と戦闘している最中、私の隙を突いて、私の背後に何食わぬ顔で近寄ると突然、斬り掛かって来た。
それに気付いた時には、もう刃は振り下ろされていて--------死を覚悟した私は反射的に目を閉じた。
しかし、その刃が私に触れる事は無かった。
何故ならその時、刃が私に触れる寸前、彼が--------誠が身を呈して私を庇ったからだ。
その後の事は正直、あまり覚えているいない。
唯一覚えているのは、私に覆い被さる彼の血の気の引いた顔と地面に広がる赤い液体。
思考が停止した私はそれが彼の血だと認識出来ず、ただただ呆然とその光景を眺めていた。
後から母に聞いた話だと、彼が斬られてから間もない内に、父が駆け付けてカルミラを追い払ったのだそうだ。
そして、私を庇った彼はすぐ様病院に搬送され、緊急手術が行われた。
結果、手術は無事成功した。
だけれど、私を庇った彼への代償はとても大きくて…………。
彼は二度と剣を握れない身体になった、と父から聞いた。
治療を担当した者の話では、私を庇った際、背中を深く斬られた上、刃には未知の毒が塗られていたらしく。
その影響か、神経系に多大なダメージが残り、腕が痺れたりなどの後遺症が残るらしい。
医師の話では、もうまともに剣を握る事は出来ないだろう、との事だ。
私は崖の上から転げ落ちるような錯覚を覚え、激しく後悔した。
最初から皆の言う通り、あの場から逃げていれば、彼が傷付く事は無かった。
身近な者の裏切りに気付かず、自分の思い上がりが原因で、彼の剣士としての道を閉ざしてしまった。
彼の人生を台無しにしてしまったのだ。
『天才なんだか知らねえがな…………。少しは周りを警戒しろ。でないと、後で後悔する事になるんだぞ?』
ふと、彼の言葉が頭を過った。
確かに彼の言う通りだった。
私は自分の力を過信し、周りを見ようとはしなかった。
それが原因で、大きな失敗をして、彼に取り返しの付かない傷を負わせてしまった。
そして、後日、彼が長期療養を理由に、分家である刀城家に移籍した、と風の噂で聞いた。
私はすぐに「彼のお見舞いに行きたい」と、父に願い出て、彼の元へ向かった。
あの時、私を救ってくれた事に対してお礼を言う為に…………。
剣士としての道を奪ってしまった事を謝りに行く為に…………。
そして、父からの許可を頂いた私は、父に連れられて彼が入院している病院へと足を運んだ。
そこで私が目にしたのは、多くの機器を取り付けられ、辛うじて生きている。
見るからに痩せ細った彼のみすぼらしい姿だった。
五歳の頃からベルマール王国最強と謳われる《剣聖》の父の指導の元、剣を振り続けた結果------------幸か不幸か、私には剣術の才がある事が分かった。
それは必然的に、既に王国の騎士だった兄や姉をも凌ぐもので、私が八歳になった頃には剣聖である父以外私に勝てる者はいなくなっていた。
そんなある日だ。
私の家に一人の男の子がやってきた。
それが彼、刀城誠と私の始まりだった。
彼は私と同じで、多くの有能な剣士を排出する家の生まれで、私の家とは協力関係にあった。
だから最初、幼かった私は、彼も私と同じような剣の才能がある凄腕の剣士である、と信じて疑わなかった。
だが、結果は違った。
私は彼に会って早々、勝負を申し込んだ。
だが、彼は面倒だからとその勝負を蹴った挙句、練習するのがダルいと剣の修練を何かと理由を付けてサボっていた。
私はそれが許せなくて、父や指導員の方々に彼のサボりの件を伝え、彼を成敗する為に、無理矢理勝負をねじ込んで貰い----------------失望した。
彼と戦ってすぐに分かったが…………。
彼は剣の才能もなければ、剣士の誇りすら持っていない最低な奴だった。
それどころか、さっさと試合を終えたいが為だけに、技とやられてみせ、何食わぬ顔で治療室のベットで、幸せそうによだれを垂らしながら昼寝をしていた。
当然、私はそんなふざけた結果を許せるはずもなく、何かと理由を付けて、彼に勝負を申し込んだ。
来る日も来る日も、彼に勝負を申し込み、その都度断られ、彼は修練をサボり、昼寝に没頭した。
私はそれが許せなかった。
勝負を受けない事にではない。
名門である家に生まれながら、努力もせず、家の名に泥を塗るように、惰眠を貪る彼が…………。
そんな彼を諫める事もせず、放置し続ける大人達が…………。
家の名に誇りを持ち、剣を愛する私には断じて許せなかった。
だから、怒りに任せて彼に色々と尋ねてみた。
何故、真面目に剣を取り組む事もせず、家の名に泥を塗るような態度を取るのか。
すると、彼は面倒くさそうにしながらも、私にこう答えた。
『天才なんだか知らねえがな…………。少しは周りを警戒しろ。でないと、後で後悔する事になるんだぞ?』
最初は意味が分からなかった。
当時の私は、次期剣聖と期待される程の剣の腕前で、全ての剣の大会でも優秀な成績を納めていた。
出る試合はもちろん、全戦全勝。
今思えば、調子付いていたんだと思う。
どんな敵であろうと、私の力を持ってすれば恐れるものは何もないと思っていた。
そんな私だったから、この後起きる取り返しの付かない失態に、未来永劫苦しめられる事になる。
彼に言われてから数日が経ったある日、私の家に賊が襲って来た。
どうやら、私の命を狙って来たらしい。
家の者達は私に逃げるように諭した。
私はそんな意見を跳ね除け、掛かってこいとばかりに、意気揚々と向かって来る賊を斬り捨てては、家の者達と協力して、順調に撃退していった。
だが、後もう少しの所で、賊を掃討し終えようとした時--------あの悲劇が起きた。
それは、家の者の中に、その賊に組みする裏切り者がいたのだ。
それは、当時、私の剣の相手を務めていた世話役のカルミラだった。
カルミラは私が賊と戦闘している最中、私の隙を突いて、私の背後に何食わぬ顔で近寄ると突然、斬り掛かって来た。
それに気付いた時には、もう刃は振り下ろされていて--------死を覚悟した私は反射的に目を閉じた。
しかし、その刃が私に触れる事は無かった。
何故ならその時、刃が私に触れる寸前、彼が--------誠が身を呈して私を庇ったからだ。
その後の事は正直、あまり覚えているいない。
唯一覚えているのは、私に覆い被さる彼の血の気の引いた顔と地面に広がる赤い液体。
思考が停止した私はそれが彼の血だと認識出来ず、ただただ呆然とその光景を眺めていた。
後から母に聞いた話だと、彼が斬られてから間もない内に、父が駆け付けてカルミラを追い払ったのだそうだ。
そして、私を庇った彼はすぐ様病院に搬送され、緊急手術が行われた。
結果、手術は無事成功した。
だけれど、私を庇った彼への代償はとても大きくて…………。
彼は二度と剣を握れない身体になった、と父から聞いた。
治療を担当した者の話では、私を庇った際、背中を深く斬られた上、刃には未知の毒が塗られていたらしく。
その影響か、神経系に多大なダメージが残り、腕が痺れたりなどの後遺症が残るらしい。
医師の話では、もうまともに剣を握る事は出来ないだろう、との事だ。
私は崖の上から転げ落ちるような錯覚を覚え、激しく後悔した。
最初から皆の言う通り、あの場から逃げていれば、彼が傷付く事は無かった。
身近な者の裏切りに気付かず、自分の思い上がりが原因で、彼の剣士としての道を閉ざしてしまった。
彼の人生を台無しにしてしまったのだ。
『天才なんだか知らねえがな…………。少しは周りを警戒しろ。でないと、後で後悔する事になるんだぞ?』
ふと、彼の言葉が頭を過った。
確かに彼の言う通りだった。
私は自分の力を過信し、周りを見ようとはしなかった。
それが原因で、大きな失敗をして、彼に取り返しの付かない傷を負わせてしまった。
そして、後日、彼が長期療養を理由に、分家である刀城家に移籍した、と風の噂で聞いた。
私はすぐに「彼のお見舞いに行きたい」と、父に願い出て、彼の元へ向かった。
あの時、私を救ってくれた事に対してお礼を言う為に…………。
剣士としての道を奪ってしまった事を謝りに行く為に…………。
そして、父からの許可を頂いた私は、父に連れられて彼が入院している病院へと足を運んだ。
そこで私が目にしたのは、多くの機器を取り付けられ、辛うじて生きている。
見るからに痩せ細った彼のみすぼらしい姿だった。
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