魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

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第一章 キリエ争奪戦

変わらない

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「そういえば、一美ちゃんは彼氏とかいるの?」

 制限時間残り三十分--------


 俺は一美と共に行動しながら、たわいない会話をしつつ、向かって来る敵を薙ぎ払っていた。

「許婚がいますよ…………」

 一美は一人襲い掛かって来た敵を斬り捨てた。


 敵とは、もちろん『マホロバ』とかいうテロ集団だ。

 何故かは分からないが、どうやら、この森林エリアには、マホロバの構成員以外の参加者はもういないらしい。

 何故いないのが分かるかって……?

 そりゃ簡単な話。

 この黒服テロ集団が聞いてもいないのに、教えてくれたからだ。

 この森の連中は全て始末した。

 お前達も同じ場所に送ってやる。

 あの連中、血走ったあの狂気じみた目で、殺気だってそう宣言して来たのだ。

 迫力があり過ぎて説得力あるよ。

 それに、制限時間も残りわずか…………聖戦も大分佳境に入った。

 おそらく、もうこの森林エリアで生き残っているのは俺と一美だけなのだろう。

 そんでもって、あの連中の事だ。

 このエリアで、きっとろくでもない事をやろうとしてんだろう。

 一美もどうやら同じ見解らしい。

 というか、何をやっているのか、知っているっぽい。

 その証拠に…………。

「そうなんだ。なら、こいつら片付け終わったら、色々と教えてよ」

「…………はい…………」

 あからさまに目を逸らしつつ、何か言い掛けて、躊躇いがちに返事を返す。

 こういう時の一美は隠し事が多い。

 それも内容は大抵、自分で解決しなくちゃいけないとか思い込んで、面倒な事に首を突っ込んでいる時だ。


 、同じような事をやらかしているのに、ほんと懲りないね。

 おっと…………。


 俺が心中、呆れ返っていると、突然、マホロバの連中が戦闘中だというのに、何かに反応して、飛び去っていった。 

 一体、どうしたんだ……?

「っ!! まさかっ!?」

 慌てて一美が連中を追って行ったので、俺もその後に続いた。

 しばらくして、見えて来たのは、そびえ立つ高さ数十メートル程ある崖の下に広がる広大な湖だった。

 その湖の中心----------------

 そこに、何やら怪しげな巨大な魔法陣が光を発していた。

 俺は一美に追い付いて、彼女の隣に立ち、顔を覗き込むと…………。

 彼女は見るからに悔しそうに、ある報告を睨み付け、下唇を噛み締めていた。

 その方向にあるのは、湖の水面の魔法陣--------その中心地に佇む一人の男だった。


 ああ、そういう事…………。

 俺はその男を視界に捉えて、納得した。

 何で、一美がボロボロになって倒れていたのか。

 一美が、一体何を隠しているのか。

 何故、慌てて一美がマホロバの連中を追い掛けたのか。


 その全てが一人の男の出現によって、合点がいく解答を俺は得られた。


「カルミラ…………!!」

 一美が憎々しげに湖の上の男の名を呼び、双刀の神器を構える。

 一方、カルミラと呼ばれた男の方はというと、一美の顔を見るなり、明らかな嘲笑の含んだ笑みを見せたが…………。

 俺がその隣にいるのが分かると、死の幻覚を思わず見てしまう程の強烈な殺気を放ち、こちらを鋭い目付きで睨みつけて来る。

「貴様がキリエか…………」

「いえ、人違いです」

 とりあえず、否定してみた。

 その返答は、予測もクソもねえ、敵意き出しの遠距離攻撃だった。

「ちょっ…………!!!?」

 赤い一筋の光が襲って来る。

 俺も一美も間一髪、すんでのところで躱し、無事着地。

 そんで、俺は二、三発くらいまたやられた…………。

 しかも、さっきよりも高出力!!!

 あの、地面やら、森やらが燃えてますよ!!!

 自然破壊反対っ!!!!

「ちょっと、危ないでしょうが!!!」

 何とか、躱し切った俺はもう抗議。

 だが、その相手は「ちっ…………外したか…………」と心底悔しそうに舌打ちをっていた。

「外したか…………。じゃないでしょうが!!! あんた殺す気か!!?」

「そのつもりだが…………! そもそも、お前という害悪を我らが蹂躙しようが、殺そうが文句を言われる筋合いはない!!

 我らは神の崇高なる御意志の元、悪を粛清するのみだ!!」

 あぁ…………はいはい…………。

 これ、あれだ。

 話が通じないタイプだ。

 何を話そうが、こいつらは話を聞く気が毛頭ない。

 話すだけ無駄か…………。

 まあ、分かっていたけど…………。

「カルミラ!!!」

 一美が双刀の神器の魔法を起動。

 右の刀には炎が燃え盛り、左の刀にはいくつもの氷のつぶてが刀身の周りを浮遊していた。

 『炎熱冷氷えんねつれいひょう

 それが一美の双刀の神器に内包された魔法の固有名称だ。

 右の『焔』で敵を灰にするまで焼き尽くし、左の『くさび』で敵を氷漬けにして、動きを封じる。

 と謳われる程の高出力系の魔法で、炎と氷の属性を有している。

 
 一美いわく、炎と氷の魔法を自在に使いこなし、実家の双剣術と併用して使っているそうだが…………。

 高出力って、言っても、これはこれで化け物級だろ…………?

 何せ、一美が刀を振って、刀身の周りを浮遊している氷をまるで弾丸のように放ったかと思えば、その氷のつぶてが湖に触れた瞬間----------------一瞬で、湖自体が氷漬けになった。

 しかも、何か寒気がする。

 っていうか、冷気も漂い始めたんですが…………!!!?

 そんでもって、いつの間にか、あのカルミラとの距離を詰めて、斬り掛かっていた。


「今度こそ!! 今度こそっ!!!!」

「邪魔だ!!! ウジ虫!!!!!!」

「ぐっ…………!!!!」

 一美が魔法と剣撃を使いこなし、まるで舞を舞うかのような美しい身体裁きで、何度も攻撃の手を加えていく。

 それを鬱陶しく思ったのか。


 カルミラは身の丈程ある斧を片手で振り、一美を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた一美は何とか双刀をクロスさせて、防いだが、多少なりともダメージがあったようで、森の中に突撃していき、俺が振り返ると--------彼女は苦しげに立ち上がって、そのまま倒れ込むようにして、膝を突いた。

「一美!!」

 俺は慌てて彼女に駆け寄った。

 彼女は辛うじて意識を繋ぎ止めてはいるが、傷口が開いたのだろう。

 腹部を押さえている手からポタポタと血が流れ落ちている。

 はっきり言って、もう一美は戦える状態じゃない。

 ここは引くべきだ。

 だが、戦場とは無情なり--------

「逃げても無駄だ!!!」

 背後からカルミラがする。

 振り返ると、嘲笑を浮かべたカルミラと視線が合った。

 嫌な予感がする。

「愚かな咎人キリエ!! 

 お前に一つ教えておいてやる。

 今、俺の真下に描かれたこの魔法陣はなあ…………!! 

 広域爆炎系の爆破術式だ!!」

「っ!?」

 おいおい…………。

 広域爆炎系の爆破術式って言えば…………。

「流石に咎人たるお前にでも、理解は出来るか…………。

 そうだ!!!

 この術式は遥か昔、ある国が独自に開発し、あまりにも高過ぎた威力故、敵国のみならず、自国すら滅ぼした悪魔にして、禁忌の術式。
 

 『終焉しゅうえん魔法ラグナロク』

 死と破壊を象徴する忌むべき魔法だ!!!」

 はい、予感的中…………。

 というか、ラグナロクって、確かどの国でも、最重要危険指定の魔法じゃなかったか…………?

 何で、このテロリスト共がそんな事知ってるんだ……?

 内通者とか、どっかの国に紛れ込んでるんじゃないのか……?

「…………止めないと…………」

 ん……?

「止めないと…………。うっ…………!!」

 一美の方に視線を移した。

 すると、一美が傷を押さえながら、無理に立ち上がろうとして、また、膝を突く。

 息も荒く、満身創痍って感じだ。

 だが、目は諦めていない。

「はあ…………。全くお前って奴は…………」

 そんな彼女を見て、自分でも頬が緩んでいくのが分かる。

 あぁ、ほんと、お前には叶わねぇよ。

 そして、自然と彼女の頭を俺は優しく撫でた。

 彼女は終始、不思議そうに俺を見ていたが、次の瞬間--------その顔が驚愕に染まった。

「天才なんだか知らねえがな…………。少しは周りを警戒しろ。でないと、後で後悔する事になるんだぞ?」

「っ!?」

「分かったなら、そこでジッとしてろ…………。後はだ」

 今も昔も、な…………。

 俺は一美の頭から手を離し、面倒くさそうに立ち上がるとあのクソ野郎に向き直る。

 そして、右手を軽く振るい、突き出すと、ある言葉を口にした。

「描け! 永久図書館エンドレス・レコード!」

 それは魔法でいう『省略詠唱』と呼ばれるもの。

 特定のキーワードを神器に記憶させて、神器そのものを呼び出す召喚魔法の一種だ。

 その呼び応えに応じて、一冊の本が俺の目の前に姿を現す。

 そして、その本がパラパラと開かれ、とあるページで止まり、光を放ち、俺は仮面越しに笑った。

 静かな、反撃の狼煙のろしを上げて…………。
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