魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

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第一章 キリエ争奪戦

素顔を晒して

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「これで全部かな……?」


 俺は周りを見渡すと、黒服に身を包んだ見覚えのある集団『マホロバ』のメンバーを瞬時に切り捨てると、ソッとその場を離れて、洞窟の入り口付近に向かった。

 当然、そこに倒れているのは俺の遺体…………と見せかけた、丸太や木の枝を組み合わせたハリボテの人形だった。

「これは一体…………!?」

「ん……?」

 ふと、その人形に近づいていくと、洞窟から刀を帯刀した一美が現れ、何事かと困惑気味に、俺と人形の交互を見た。

「ヤッホー! さっきぶりだね…………」

「もしかして、キリエさんですか……?」

 そう言って手を振ると、彼女は目を見開くと恐る恐る尋ねて来た。

 俺は「正解!」と、ビシッと人差し指で差し、キリッと言い放った。

 彼女はどう反応したら良いのか、何やら困惑気味だが…………まあ、無理もないか…………。

 何せ、今の俺は晒しているのだから…………。


------------------------------------------
 
「ふむ。やっぱり、こっちの方が落ち着く…………」

「……………………」

 しばらくして、ハリボテ人形に着せていた服を着直して、決めポーズを決めてみた。

 そしたら、何か、一美さんに冷めた眼で引かれて、軽くショックを受けた。

 確かにさっきまで、服は着てなかったよ。

 着ていたとしても、口元に忍びマスク。

 後はだけだったけど、なんだし、問題…………大有りだな…………。

 いかん。

 ちょっと、…………。

 しっかりと意識を保たねぇとな………。

 じゃねぇと、このジャジャ馬に喰われかねない。

 そう愚痴ぐちりながら、左手の中指に嵌められた白銀の指輪に視線を向けた。


 実はこれ、あの分厚かった本こと、俺の神器が変化した姿だ。

 詳細はまだまだ知り得ていない事は多いが、使い方だけは、何となく理解出来てはいる。

 実際、神器その物の形を変えたり、こうやって、女にしたりしている。

 魔法だって、それなりに使える。

 ま、後の説明は後日って事で…………。


 とりあえず、なり行きで共に行動する事になった一美の方が優先だ。

 今現在、俺と一美は森の中を探索中。

 一時的に協力関係もとい--------パーティーを組んで、互いに周辺を警戒しながらの探索だ。

 ちなみに、パーティーを組む方法は、あの万能魔道具、神託くんのパーティー申請機能を使って組んでいる。

 この機能を使用すると、発信者がフレンド登録した相手に申請メールを送って、了承を得ると即座にパーティーへ加入出来る。

 そうすると、パーティー内の参加者は、解散しない限り、互いにダメージを与えられなくなる上、『念話』という能力が付与される。

 そして、その『念話』とは、パーティー内のメンバーにのみにしか効かない高域魔法通信だ。


 これを使用すると、聖戦の戦闘フィールドの何処へいても、心の中で、相手と話す事ができ、戦略や情報収集などに多く使われている。

 ヘルプにそう書かれてた。


 んで、とりあえず、試しに…………。

(私…………綺麗……?)

 某妖怪風の言葉で、一美に念話を送ってみる。

(申し訳ありませんが、仮面で顔が隠れていて、素顔を判別できません。でも、先程は綺麗だな…………と思いましたよ)

 さっきの俺の顔を思い出してか否か。

 一美は照れ臭そうに頬を掻いた。

 まあ、周りからはそう見えるだろうな…………。

 何せ、#お前を参考にした____#訳だし…………。

(あら、そう……? お姉さん嬉しいな…………。そういう一美ちゃんも可愛いわよ?)

(なっ…………!? からかわないでください)

 一美が更に顔を赤らめさせて、頭からボンっと湯気が上がった。

(からかってないわよぉ~。だって…………)

 ちょっとした悪戯心が芽生えた俺は、仮面と忍びマスクを少しズラして、彼女の耳元に息を吹き掛けた。

「きゃっ…………!?」

 すると、彼女は可愛らしい悲鳴をあげて、飛び退き、ワナワナと狼狽えていた。

(ほら、今だって充分過ぎる程、可愛いから…………)

 そんな彼女の様子に思わず、俺は吹き出してしまった。

 彼女は細やかな抵抗とばかりに、羞恥になりながらも私を頬を膨らませて、睨み付けて来るが、愛らしいだけであまり迫力がない。

 どちらかというと、ハムスターのような小動物にでも、睨みつけられているかのようだ。

 あぁ、ほんとに可愛い…………。


 だがまあ、少しは気晴らしが出来た。


 なので----------------

(ちょっと、お掃除をするとしますかね…………)

(分かりました…………)

 一美の空気が変わった。

 どうやら、彼女も気づいたようだ。

 彼女は帯刀している刀に手を添えると、俺と同様に視界から消え、多くの人の声が森の中にこだまする。

 そして、お互い、先程いた場所に戻ると現状報告。

「私は十七…………。そっちは……?」

「私は残念ながら十二、といった所です…………」

「おおっ…………。流石は"斬姫ざんき"っていったところね。予想以上の腕前だわ」

「そういうキリエさんも見た目に寄らずすごいと思うんですが……?」

「そう……? 自分じゃよく分からないんだけど、かのベルマール王国きっての最強剣士様にはまだまだ及ばないと思うんだけど……?」

「そうでもないですよ…………。それにしても、キリエさんは色々と私の国事情に詳しいんですね…………」

「……………………」

 何気ない感じで話して来たが、これは明らかに探りを入れて来てるな…………。

 まあ、一般的には知らされていない情報を話したからな…………。

 こういう時は…………。

「そりゃそうよ! 王国には、私のとっても仲の良い知り合いがいてねぇ! 色々と教えてくれるんだあ!!」

「……………………」

「ごめん。今の忘れて…………」

 何か元気いっぱいの女の子っぽく、振る舞ってみたが……………………やばい、これ、ちょー恥ずかしい…………。

 一美も一美で、何かこっちを不思議そうに見ているだけで、何も話してこないし…………。

 あぁ、恥ずかしくて、頭が沸騰しそう!!

 死ぬ!!

 羞恥心に耐えきれずに、恥ずかし死にする!!!

「ぷっ…………」

 俺が恥ずかしさのあまり顔を覆っていると、一美が突然吹き出した。

 どうやら、俺の先程の行動がツボに入ったらしい。


「何かしら……?」

 お腹を抱えて笑っている彼女をキッと睨み付ける。

 すると、彼女は--------

「ご、ごめんなさい…………。キリエさんが、その…………ぷっ、私の知人に似ていたものですから…………」

 笑いを堪えながら、そう答えた彼女は、ひとしきり笑い終えると目元の涙を拭き取った。

 知人って…………もしかしなくても、俺の事か……?

 いや、そんな筈はないか…………。

 今は筈だ。

 もしかしたら、神器の制御に失敗した。

 まさか、そんな筈は…………。

「? キリエさん?」
 
「っ!?」

 ふと、考え込んでいたようだ。

 心配したのか、目の前に彼女の顔があって少々驚いたが、とりあえず、まずは今回の聖戦をどう生き残る事か。

 それだけ考えよう。

「ごめん。ちょっと、考え事しちゃってて…………。それより、何……? どうかした……?」

「いえ、残り時間が三十分を切りましたから、今後の事について、もう少し情報交換致しませんか、と思いまして…………」

「うん。その方が良いかもね」


 これはあれだな…………。

 少しでも、俺から自然に情報を聞き出そうって魂胆だな…………。

 まあ、こっちも下手な事を言わなければ、問題はない。

 それどころか、うまくすれば一美から王国の情報を少しは聞き出せるかもしれない上、間違った情報を植え付けられる可能性がある。

 そうなれば、必然的に俺からの注意が逸れて、動き易くなる…………かもしれない。

 ま、やれるだけやってみますかね…………。

「……………………」


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