魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

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第一章 キリエ争奪戦

バカよりも、大バカな人

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 制限時間残り一時間弱--------


 ある程度、休憩し終えた俺はキャンプ機能をオフにした。

 その結果、いとも簡単に先程まであったテントや焚き火などのものが一瞬にして、消えて無くなる。

 ほんと、便利だなぁ~…………。

 そんな風に思っていると--------

「あ、あの…………」

 控えめで、か細い声がする。

 当然、その声の主は神童一美。

 嫌味ったらしくて、完璧超人たる俺の許嫁だ。

「何かしら……?」

 振り返ってそう返事すると、彼女はどこか申し訳なさそうに顔を俯けていた。

 こいつの事だ。

 助けて貰ったのに、襲い掛かった事に対して、申し訳なさで一杯なのだろう。

「先程は大変申し訳ありませんでした…………」


 それを表すかのように、予想通りというか頭を下げて来た。


「助けて頂いたのにも関わらず、先程は刃を向けてしまって--------」

「はい。そこまで…………」


 また、何やらブツブツと言い訳じみた謝り方し出して来たので一美の頭を小突いた。

「そんな謝る事なんてしなくて良いの良いの…………。私としても、あなたに聞きたい事があって助けただけだから…………」

 そんでもって一美に顔を上げさすと、とりあえず、助けた建前を話だした。

「聞きたい事…………ですか………?」

 一美はきょとんと不思議そうに小首を傾げた。

 おそらく、わざとやってはいないんだろうが…………可愛いい仕草をしやがって…………。

 思わず、ドキッとしたが、何とか冷静を取り繕って話を続けた。

「単刀直入に効くんだけど…………。あなた、神童一美でしょ……? ベルマール王国の騎士見習いの…………」

「えっと…………はい…………」

 一美は一瞬、目を見開いて驚いていてが、戸惑いつつも肯定した。

 騎士国家ベルマール王国。

 それが、俺と一美のいる国の名称だ。

 まあ、おいおい説明するとして、一美はこの国の騎士の中でも、精鋭揃いと謳われる部隊の見習いという形で所属している。


 だが、それは表向きの所属だ。

 最初に話したかもしれないが、聖戦参加者が最も恐れるのは顔バレだ。


 もし顔がバレると参加者の情報を国に探られ、かなりの確率で面倒ごとに巻き込まれ易くなる。

 マホロバとかの狂人テロ集団に命を狙われるとか、そういった面倒ごとに、だ。


 しかし、極少数だが、身を守る為に、国ぐるみで情報を偽造して、暮らしている者達がいる。

 一美はその極少数の者達の中の一人だ。


 表向きだと、まだ入り立てで、精鋭部隊の雑用的な役割しか行っていない、という事になっているが…………。


 実際は、ベルマール王国の五本の指に入る剣豪で、既に主戦力だ。

 王宮からの信頼も厚く、数多くの重要な案件を受けては難なくこなしてくるもんだから、今では国家間の問題にも、首を突っ込んでいるらしい。

 だからこそ、聞いておかないといけない事がある。

 それは----------------

「あなた…………もしかしなくても、王宮から私の素性を探る。もしくは勧誘して引き込むように言われてるんじゃない?」

「……………………」

「無言は肯定として受け取るわよ…………」


 しばらく、一美は何も答えなかったが、不意に、あからさまに俺から目を逸らした。


 やはり、俺の予測は当たっていたようだ。


 ならば、当然、失敗した場合は、俺を始末するように言われている筈だ。


 んで、このバカはそれを一人で背負い込んで、どういう訳かは知らんが、死にかけた、と…………。



 思わず、溜息が出た。


 呆れた…………。

 このバカは…………。


 ほんと、変わらないな…………。

「とりあえず、神託出して…………」


「えっ……?」

「神託をだ・し・て…………!」

 俺がそう語気の強い口調で言い放つと、戸惑いながらも俺に神託を手渡して来た。

 俺はそれを受け取ると、自分の神託と並行して操作。


 そんでもって、作業を終えるとそのまま神託を一美に返した。

「え? あの…………」

「フレンド登録しておいた」

 端的に俺はそう告げた。

「私はどこかの国に属するなんてごめんなのよ。けど、それだと、あなたが困るでしょ……? じゃ、そういう訳だから…………」

 そして、手を振りながら、その場を離れようとする。

「ま、待ってください!!」


 すると、一美は慌てたように声をかけて来た。

「どうして、私なんかを助けてくれたんですか…………?」

 俺は歩みを止めると、振り返る事なく彼女にこう答えた。

「あなたみたいな、おバカな人を放っておけなかっただけよ…………。今も、昔もね…………」

 そんな俺の背中を…………彼女はどんな想いで見ていたのだろう。

 ほんと、あいつがバカなら、俺は大バカだな…………。

 そう心の中でボヤきながらも歩みを進め、洞窟から出た時だった。

「へっ……?」

 突然、目のから何かが飛んで来た。


 それが矢だと認識した時には、もう遅く、それが俺の額を貫き--------私は静かに意識を手放したのだった。
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