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第一章 キリエ争奪戦

神託の使い方

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 しばらく洞窟の中を進み、ちょうど身を隠せそうなくぼみを発見した俺は神託を取り出して、ある機能を起動させた。


 それは『簡易キャンプ機能』というものだ。


 これを使えば、焚き火やテントといったキャンプ道具一式が既に組み立てられ、配置された状態で出てくるらしい。


 ディスプレイを操作すると、ほんとに目の前にテントや焚き火といった道具が組み立てられて出て来た。

 それも、俺が思った通りの場所に、だ。


 テントを壁がある奥の方へ、その手前に焚き火やら、飯盒やフライパンといった簡単な調理道具が置かれている。


 テントは大きさからして、大体二人ぐらいが入れる大きさか……?

 丁度良いや、そう思い、テントの中へ一美を寝かせようとして…………ある事に気付いた。


「……………………」


 テントの中に何か、白い箱のような者がある。

 とりあえず、それを退かして…………一美をテントの中に寝かせると、その箱を手に取り、中を確認した。


「……………………」


 中身は医療キットだった。

 包帯やら消毒液やら、何か都合の良さげなものばかりが入っている。

 ちょっと、これは調べた方が良さそうだな…………。


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 あれから、一美の治療を終えた俺は焚き火を絶やさないよう薪を焼べつつ…………神託の機能について調べていた。


 とりあえず、今分かっている事といえば、現在使われているのはこの二つ--------


・マップ機能

・簡易キャンプ機能


 --------だ。


 他には、俺がまだ使っていない。

 ろくに調べていないだけで--------

・鑑定機能

・探索機能

・申請機能

・通信機能

・治療キット機能

 などがある。


 調べている内にいくつか知らない機能がある事が分かった。


 流し目で、適当にヘルプって奴を読んだもんだから、知らなかったが、よくよく見れば、『ポーション作成機能』の文字が…………。

 どうやら、これを使っていたから、一美はポーションを持っていたのだろう。

 聖戦のフィールド内なら材料さえ集めれば一秒かからず、一瞬で作れるみたいだし…………。

 って、『アイテムボックス機能』……?

 収集空間と呼ばれる異空間へとあらゆるものを収納したり、出したりする機能。

 持ち運びなど、困った時に使うと便利…………って、こんなのがあったのか……?


 それなら、色々と持ってこれたのに…………。


 思わず、頭を抱えたくなった。

 その時--------

「動かないで…………」


 聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、いかなり首筋にナイフの刃を突きつけられた。

 先程、治療の際、服を脱がせた時はなかったし…………。


 おそらく、このアイテムボックスに収納してあった物だろう。

 まあ、気配でこっちに近づいて来てるのは分かってたし、そこまで動揺はしなかったが…………。

 一美はそうもいかない。

「あなたは誰……? 私をどうするつもり……?」

 そう問う声には、明らかな焦りや恐怖が入り混じっていた。
 

 まあ、当然か…………。

 起きたら突然、見知らぬ場所にいて…………。

 身ぐるみ剥がされて…………。

 いかにも怪しい奴が近くにいるんだから…………。


 よくよく考えたら、盗賊っぽいな…………。

 一応、治療した後は服も着せたよ?

 ちゃんと寝袋に寝かせて…………。


 でも、中々に良い体だった。


 眼福眼福…………。

「質問に答えない…………!」


「キリエよ…………。たまたまここを通りかかったらお前が倒れていたから治療しただけよ…………」


 何か、そろそろ答えないと、本気で切り付けて来そうだったので、とりあえず、ぶっきら棒にそう答えておいた。


「あなたが…………!?」

 俺は一美が驚いた一瞬の隙を見逃さず、ナイフ持っている方の手首を掴むと同時に、地面を強く蹴って、背中から一美に体当たりをぶちかました。

 体当たりされた一美は、俺に押し潰される形で、地面に接触すると、苦痛で顔を歪めた。

 そして、俺はゆっくりと起き上がり、地面にぶつかった際、一美が手放したナイフを拾うとその切っ先を喉元に突き付ける。

「チェックメイト、ね…………」

 一美はいかにも悔しそうに俺を睨みつけつつ、先程治療した際に最も傷が深かった場所…………腹部を押さえていた。

 やっぱり、痩せ我慢してやがったか…………。

 俺は喉元からナイフを離すと、焚き火の横あたりに適当に投げつけ、一美の傷を見る。

 傷がまた開いたのか、包帯が見る見る赤く染まっていくのが分かる。

「とりあえず、包帯を取り替えるから動かないでねぇ…………」

 俺は地面に転がっていた自分の神託を拾い上げると、治療キット機能を使用した。

 ディスプレイをタッチすると、目の前に先程と同じ医療キットが現れたので、遠慮なくそれを使って治療を行った。

「……………………」

 一美は黙って俺にやられるがまま、治療を受けた。

 まあ、単純に疲弊し過ぎて、もう動けなかったという可能性もあるが…………。

 とりあえず、邪魔が入らないのはそれはそれで良い。

 スムーズに作業を終えた俺は「休んでなさい」とテントへと運び直した後、優しくそう語りかけた。

 すると、余程疲れていたのか。

 一美は安心し切ったように、穏やかな寝息を立て始めた。

 その寝顔があまりにも、子供みたいで、可愛らしく思えたからか。

 思わず、笑ってしまった。

 まあ、眠っている間は守って差し上げますよ。


 我が愛しの眠り姫…………。
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