魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

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第一章 キリエ争奪戦

神童一美

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 婚約者である彼、刀城誠の元を出て行った私、神童一美は女子寮にある私の部屋へと戻るやいなや、ダイニングキッチンにある椅子へと腰掛けた。


 腰掛けてから、先程の婚約者の態度を思い返して憤慨ふんがいした。


(全く、何なのですか!? あの態度は!? 胸が大きくなったな……? ですって!!)


 顔を真っ赤にしながら、ぷうっとハムスターのように可愛らしく頬を膨らませながら、彼女はデーブルの上に置かれた彼の写真立てを睨み付けた。

 嫌味っぽく、凛とした大人びた感じ美女が、今はまるで駄々を捏ねる幼い子供のようだ。

 実を言うと、彼女は許婚である彼の事が好きで仕方ないのだ。

 いつも嫌味を言うのは、彼に構って欲しいから…………。

 色々なコネを使ってまで、彼の部屋へ入り浸るのは彼の寝顔や表情を間近で見たいがため…………。

 彼の全てが欲しい--------

 私以外の女が彼の隣にいるのが嫌--------

 彼のお嫁さんになる以外に私の夢はない。

 彼一筋の彼女は、少々暴走しがちで、不器用な所はあれど、一皮剥けば純粋な恋する女の子なのだ。

 その証拠に--------

(あぁ…………でも、今日の誠も可愛くて、かっこよかったなぁ~…………)

 先程まで、カンカンに怒っていたのに、すぐ様気持ちを切り替えて、別の意味で顔を赤く染めて、トロンととろけそうな瞳で、愛おしそうに彼の写真を見つめ出した。


 それ故か、彼女の寝室は大変な事になっているのだが…………。

 そこは…………ご想像にお任せする…………。


 そんな調子で、しばらく彼の写真を眺めていた彼女だったが…………不意に、悲しげに微笑みだし、ある方へと視線を向けた。

 それはデーブルの上に置かれた写真立ての向こう。

 その写真立ての端に、あるものが視界に入ったのだ。

 それは、衣服を収納している腰ほどの高さの押し入れ…………その上に飾られている赤と青の鞘に収められた二振りの刀だった。

(もう明後日なのか…………)

 ふと、先日の事を思い出し、彼女の気持ちが暗いものになっていく。
 

------------------------------------------

 それは遡る事、数ヶ月前--------

「あなたは聖戦への参加資格を手にしました」
 

 部屋で人形作りに精を出していた時の事だった。

 いきなり、見知らぬ少女が目の前に現れて、聖戦の参加資格たる神器を渡して行ったのだ。

 それがあの二振りの刀だ。

 赤い方は炎の魔法を、青い方は氷の魔法を発動出来る神器で--------私は持ち前の身体能力や才能、神器の性能を駆使して、初戦早々に上位のランカーに食い込んだ。

 それが騎士団の目に止まり、今現在、私は借りながらも王国騎士団の仕事に順次していた。


 それ故か…………一昨日おととい王宮からある依頼があった。

 先日、圧倒的な力で優勝をものにした謎の女性。

 の正体を探り…………可能であれば、スカウトを持ちかけ、ダメなら--------


「……………………」


 確かに、彼女の力は今後の国の情勢を覆しかねない途方もない力を有している。

 前回の聖戦でのフィールドの広さは、この国の王都と然程変わらない町だった。

 もし、あれがこちらの世界で使われたなら…………。

 もし、彼女が敵国の者でその力がこの国に向けられたなら…………。

 想像するだけでも、ゾッとする。

 たがらこそ、国が放置するのは危険だ、と考えるのは当たり前の事だと思う。

 だが、私は彼女の正体を探る--------なんて馬鹿げた事は、そもそも不可能だと考えていた。

 王宮から渡された調査資料では…………。


 年齢は、体格からして十代後半。

 身元不明……。

 経歴不明……。

 魔法は、炎系統の魔法を使用したので、炎に属したものではないかと推測する。

 などと…………。

 全く持って、彼女の足取りを掴めていないどころか。

 何の情報もない。

 噂では、各国の諜報機関も、彼女の事を調べているらしいが、芳しくはないらしい。

 つまるところ、彼女に関して、私は何の情報もない状態で、対策を立てないといけないのだ。

 私は依頼をされた時、思わず頭を抱えたくなった。

 何とかしようにも、相手の情報が全くない。

 これでは、対策など練られる筈がない。

 仕方なく、色々と騎士団や私個人の伝手を頼っては、それこそ死ぬ気で彼女の情報を収集した。

 
 その成果はというと…………。

 はっきり言えば、無駄だった。

 何故なら、情報らしい情報が皆無なのだ。

 突然、姿を現したかと思えばフィールドを全て焼き尽くして、圧勝。

 たった、女性以外これだけしか情報がないのだ。

 悩みに悩んだ私はちょっと息抜きも必要だな…………。

 と思い、気分転換にでもと、彼の元に訪れたのである。

 その相手がまさか、自分の婚約者である事などつゆ知らず…………。

 彼女はこの後、悶々もんもんと悩み続けた。
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