魔法聖戦の女神 〜変幻自在の魔導書は規格外過ぎた〜

水先 冬菜

文字の大きさ
上 下
10 / 54
第一章 キリエ争奪戦

神童一美

しおりを挟む
 婚約者である彼、刀城誠の元を出て行った私、神童一美は女子寮にある私の部屋へと戻るやいなや、ダイニングキッチンにある椅子へと腰掛けた。


 腰掛けてから、先程の婚約者の態度を思い返して憤慨ふんがいした。


(全く、何なのですか!? あの態度は!? 胸が大きくなったな……? ですって!!)


 顔を真っ赤にしながら、ぷうっとハムスターのように可愛らしく頬を膨らませながら、彼女はデーブルの上に置かれた彼の写真立てを睨み付けた。

 嫌味っぽく、凛とした大人びた感じ美女が、今はまるで駄々を捏ねる幼い子供のようだ。

 実を言うと、彼女は許婚である彼の事が好きで仕方ないのだ。

 いつも嫌味を言うのは、彼に構って欲しいから…………。

 色々なコネを使ってまで、彼の部屋へ入り浸るのは彼の寝顔や表情を間近で見たいがため…………。

 彼の全てが欲しい--------

 私以外の女が彼の隣にいるのが嫌--------

 彼のお嫁さんになる以外に私の夢はない。

 彼一筋の彼女は、少々暴走しがちで、不器用な所はあれど、一皮剥けば純粋な恋する女の子なのだ。

 その証拠に--------

(あぁ…………でも、今日の誠も可愛くて、かっこよかったなぁ~…………)

 先程まで、カンカンに怒っていたのに、すぐ様気持ちを切り替えて、別の意味で顔を赤く染めて、トロンととろけそうな瞳で、愛おしそうに彼の写真を見つめ出した。


 それ故か、彼女の寝室は大変な事になっているのだが…………。

 そこは…………ご想像にお任せする…………。


 そんな調子で、しばらく彼の写真を眺めていた彼女だったが…………不意に、悲しげに微笑みだし、ある方へと視線を向けた。

 それはデーブルの上に置かれた写真立ての向こう。

 その写真立ての端に、あるものが視界に入ったのだ。

 それは、衣服を収納している腰ほどの高さの押し入れ…………その上に飾られている赤と青の鞘に収められた二振りの刀だった。

(もう明後日なのか…………)

 ふと、先日の事を思い出し、彼女の気持ちが暗いものになっていく。
 

------------------------------------------

 それは遡る事、数ヶ月前--------

「あなたは聖戦への参加資格を手にしました」
 

 部屋で人形作りに精を出していた時の事だった。

 いきなり、見知らぬ少女が目の前に現れて、聖戦の参加資格たる神器を渡して行ったのだ。

 それがあの二振りの刀だ。

 赤い方は炎の魔法を、青い方は氷の魔法を発動出来る神器で--------私は持ち前の身体能力や才能、神器の性能を駆使して、初戦早々に上位のランカーに食い込んだ。

 それが騎士団の目に止まり、今現在、私は借りながらも王国騎士団の仕事に順次していた。


 それ故か…………一昨日おととい王宮からある依頼があった。

 先日、圧倒的な力で優勝をものにした謎の女性。

 の正体を探り…………可能であれば、スカウトを持ちかけ、ダメなら--------


「……………………」


 確かに、彼女の力は今後の国の情勢を覆しかねない途方もない力を有している。

 前回の聖戦でのフィールドの広さは、この国の王都と然程変わらない町だった。

 もし、あれがこちらの世界で使われたなら…………。

 もし、彼女が敵国の者でその力がこの国に向けられたなら…………。

 想像するだけでも、ゾッとする。

 たがらこそ、国が放置するのは危険だ、と考えるのは当たり前の事だと思う。

 だが、私は彼女の正体を探る--------なんて馬鹿げた事は、そもそも不可能だと考えていた。

 王宮から渡された調査資料では…………。


 年齢は、体格からして十代後半。

 身元不明……。

 経歴不明……。

 魔法は、炎系統の魔法を使用したので、炎に属したものではないかと推測する。

 などと…………。

 全く持って、彼女の足取りを掴めていないどころか。

 何の情報もない。

 噂では、各国の諜報機関も、彼女の事を調べているらしいが、芳しくはないらしい。

 つまるところ、彼女に関して、私は何の情報もない状態で、対策を立てないといけないのだ。

 私は依頼をされた時、思わず頭を抱えたくなった。

 何とかしようにも、相手の情報が全くない。

 これでは、対策など練られる筈がない。

 仕方なく、色々と騎士団や私個人の伝手を頼っては、それこそ死ぬ気で彼女の情報を収集した。

 
 その成果はというと…………。

 はっきり言えば、無駄だった。

 何故なら、情報らしい情報が皆無なのだ。

 突然、姿を現したかと思えばフィールドを全て焼き尽くして、圧勝。

 たった、女性以外これだけしか情報がないのだ。

 悩みに悩んだ私はちょっと息抜きも必要だな…………。

 と思い、気分転換にでもと、彼の元に訪れたのである。

 その相手がまさか、自分の婚約者である事などつゆ知らず…………。

 彼女はこの後、悶々もんもんと悩み続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

鈴蘭には毒がある-見た目に騙されてはいけません-

叶 望
恋愛
自我が芽生え始めた頃から妙な記憶を持っていたリリーナ。 自分が箱入り娘だと認識し、そこからの脱却を試みようとする。 書庫で本の虫となったリリーナは、冒険者に憧れ、家に内緒で冒険に出ていく。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...