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第一章 キリエ争奪戦

幼なじみ

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「疲れたぁ~…………。死ぬぅ~…………」

 俺は授業を終えて、男子寮へ帰るなり、ベットのダイブする様にして倒れ込んだ。

 本当に今日は散々だった。

 登校も、下校も、あの女が腕を組んでくるものだから、一美ファンの生徒あいつらから嫉妬の視線やら、嫌味を陰口のように言われ続け----------------あぁ、何であんなのが許婚なんだろ…………うっ!?

「悪かったわね…………。こんな許婚で…………」

 背中に強い衝撃が入ったかと思えば、おなじみの生徒会長様の登場。

 てか、何堂々と不法侵入しているんでしょうか……?

 しかも、俺の心を読んでくるし…………。

 あなたはエスパーか何かですか……?


「んで……? 今度は何でございましょうか……?」

 俺は心の中で悪態を吐きながらも、殴られた背中を押さえつつ起き上がった。

「別に…………。少しあなたの間抜け面を拝みにね…………」

 そんな俺の心を読んでか、一美は不機嫌そうに顔を背けた。

 見るからにして、お怒りのようだ。

 だが…………。

「ん……?」

 ふと、いつもと一美の様子にある違和感を覚えた。


 気になって、ジッと観察していると--------

「な、何……?」

 俺の視線に気付いた一美が若干顔を赤く染め、珍しく戸惑った反応をした。

「なぁ、一美さんや…………」

 俺が口を開くやいなや、一美の表情は一気に真剣なものになり--------

 またもや、珍しく顔が強張っていた。

 俺もそれに釣られてか、恐らく真剣そのもの…………っと、言った感じで顔を強張らせているのだろう。

 しばし、俺と一美はお互いを見つめ合い…………。

 
 そして、俺は…………勇気を出して、その言葉を紡ぐ。


「お前……………………前より胸がデカくなってねぇか…………」

 きっと、俺は的を得たりと、キメ顔で答えたであろう。

 だが、何故か…………。

 一美は幻滅したような、冷め切った瞳で俺を見ていた。

 すると、俺の頬に強烈な平手打ち----------------もとい、ビンタが炸裂!

 吹っ飛ばされた俺は当然、壁に叩きつけられました。

 ……………………何故……?

「…………バカ…………!!」

 一美は顔をザリガニみたいに真っ赤にしながら、胸を両手で覆い隠しながら出て行った。

「バカはどっちだ…………。馬鹿野郎…………」

 一人寝室に取り残された俺はと言うと、一美が出て行った扉を見つめ--------大きなため息を吐いた。

 ほんと、嫌味たらしくて、面倒くさくて----------------素直じゃない幼なじみだ。
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