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プロローグ

聖戦の後

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 聖戦は俺の圧勝にして、優勝で幕を閉じた。

 《聖戦》やら、優勝者インタビューやらが終わって早々、俺は飛ばされた家に戻り、冷め切った夕食を温め直した。


 そんでもって、やけ食いとばかりに夕食をかき込んで--------そのまま寝た。


 そして、次の日の朝--------

 町は昨日の《聖戦》の話題で持ちきりだった。

「おい、お前ら見たか? 昨日の…………」

「見た見た。何だよあのとんでもねえ威力!」

「確か、……? だっけか…………。

 顔を隠してはいたからよく分からんが、あの我がままなスタイルからして、俺は中々に良いだと思うぜ?」

「「ちげぇねぇ!!」」

 そんな下卑げびた笑いをする男達一向。

 正直、聞いている俺からしたら、おぞましい話だ。

 もちろん、『キリエ』とはその場で咄嗟に言った偽名だ。

 体の方も、ちょっとした方法を用いて騙した。

 聖戦を終えた後、実を言うと、別の空間に転送された俺はその先にいた記者達のインタビューを受ける事になった。

 だが、さっさと飯食って、寝たい、と面倒くさがった俺は名前だけを言い残し、インタビューを断固拒否。

 早々にその場から立ち去った。

 その影響もあるのか。

 記者達は血眼になって、俺の情報を探っているらしい。

「……………………」


 うん。

 町の反応を見る限り、誰もあれが俺だとは気付いていないみたいだ。


 何故、そんな事をしたのかって……?

 それは前話した通り、厄介ごとに巻き込まれないためだ。

 特に今回、俺は先の聖戦で力を見せつけ過ぎた。

 恐らく、今頃、王宮や騎士団といった所は俺を勧誘する為に、躍起になって、西や東へと走り回っている事だろう。


 だが、残念な事に俺を見つける事は不可能だ。


 何せ、聖戦に参加した者の情報はない。

 ただ、一方的に、町の空に、観戦する為の映像が流れるだけで、その後は、自ら名乗る以外は独自に国が調査をして、身元割り出すしか方法がない。


 しかしだ。

 俺は顔を含めた全身を隠し、とある方法で女だと騙して、キリエという偽名を名乗った。

 正体不明。

 嘘だらけ。

 一切の情報がない。

 戸籍すら無い。

 さて、どうやって俺を見つけられる?

 答えは不可能だ。

 どう足掻いても、俺に繋がる情報がない。

 の方法を除いて、俺がこっちの世界でヘマをしなければ、何事もなく、平凡に過ごせる筈だ。

「よし! 頑張りますか、ね…………」

 俺は大きく背を伸ばすと、学園の門を潜った。

 これが、俺、刀城誠とうじょうまことの始まりにして、面倒事の始まりでもあった。
 
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