137 / 163
脅威
好きにしろ
しおりを挟む
「こいつも駄目だな…………」
要塞の復旧作業の合間、自室で休息を取りながら、俺は次々と案をこの世界の用紙に書き込み、何度も、丸めて捨てるという行為を繰り返していた。
「今日も荒れているんですね?」
「あぁ…………?」
不機嫌そうに背後を振り返ると、サンドイッチなどの軽い軽食をトレイに乗せた聖女様の姿があった。
テーブルの上に置かれた簡易的な時計には、既に針が夕方の時刻を指し示していた。
もうこんな時間だったのか。
「こちらをどうぞ」
聖女様が俺の隣に立つと、テーブルの空いたスペースに食器などを丁寧に置いて、ティーカップに紅茶を注いで来る。
ここ最近は、よく飯を食い損ねる俺に、聖女様が差し入れをして来る事が多くなった。
その理由は、何となく、察せられるが-------------
「……………………」
「どうか致しましたか?」
何でもないかのように、自然と尋ねて来る聖女を見て、何でもないと、ティーカップを手に取り、口に含む。
「…………ここの生活には、慣れたのか…………?」
そして、俺はふと、思い付いた事を聖女に向けて、訊いてみた。
「はい。
最初は不慣れな事も多くて、大変でしたが、今ではすっかり慣れました。
ミハエルさんやシスターズの方々も良くしてくださいますので」
「…………そうか…………」
受け答えは普通だ。
不自然な点はない。
だが、あんな話をされちゃ、警戒はしておかないといけない訳で-------------
「まぁ、それなら、良いんだが…………。
実は少々、聞き捨てならない報告があってな…………」
「…………何でしょうか?」
俺が胡乱な目で、聖女の方へと静かな殺気を向けると、一瞬だが、聖女の指先がピクリと動くのを、俺は見逃さなかった。
「聖女様-------------あんた、俺に何か、言う事はないか…………?」
腰掛けていた椅子を回転させ、聖女の方へと向き直って、問い掛ける。
その時の俺は、きっと真剣な面持ちで、聖女へと向き合っていたと思う。
しばらく、聖女は何も言わず、無言で答えようとはしなかったが、観念したのか。
大きなため息を吐いて、両の手を挙げた。
「やっぱり、バレちゃいましたか?」
悪びれた様子もなく、イタズラが見つかった子供のように笑う聖女。
やっぱり、こいつ、記憶が戻ってやがったな…………。
「ちなみに、いつ気付かれたんですか?」
「つい最近だ。
ミハエルの奴が、お前が聖戦の情報を探っている形跡がある、って話を聞いてな…………。
可能性の一つとして、あんたの記憶が戻ったんじゃないかと軽く予測していただけだ。
まぁ、少なからず、確証はあったが…………」
「……………………私をどうしますか?」
聖女様が不安げに問い掛けて来る。
これはまた、お約束なパターンだな。
まぁ、俺の答えは一つだけたから関係はない。
「どうもしねぇよ…………。
ここにいたいなら、好きなだけいろ。
出て行きたいなら、出て行け。
それだけだ」
「…………良いん…………ですか…………?」
俺の返答に思わず、目を見開く聖女。
その姿があまりにも、新鮮で笑えてしまった。
「良いも、悪いもねぇよ。
少なくとも、今のあんたらなら、問題はないだろうしな…………」
あん頃のあんたらは色んな意味でムカついたし。
「だから、情報を流すなり、探すなりするんなら、自分達でどうにかしろ…………。
そんだけだ。
もう下がって良いぞ?」
俺はサンドイッチを一つ取り、咀嚼しながら、作業に戻った。
聖女様は何も言わず、そのまま、部屋の外へと出て行こうとしている。
「そうだ。
こいつをやるよ!」
俺が無造作に、聖女の方へとあるものを放り投げると、危なげなく聖女がそれを受け取った。
「…………これは?」
「今のあんたには、きっと必要になるもんだ。
黙って受け取っておけ…………」
俺はそれ以上、聖女を相手にしなかった。
しばし、聖女が俺の背を眺めた後、静かに部屋を去って行く。
まぁ、頑張れ。
聖女様-------------
要塞の復旧作業の合間、自室で休息を取りながら、俺は次々と案をこの世界の用紙に書き込み、何度も、丸めて捨てるという行為を繰り返していた。
「今日も荒れているんですね?」
「あぁ…………?」
不機嫌そうに背後を振り返ると、サンドイッチなどの軽い軽食をトレイに乗せた聖女様の姿があった。
テーブルの上に置かれた簡易的な時計には、既に針が夕方の時刻を指し示していた。
もうこんな時間だったのか。
「こちらをどうぞ」
聖女様が俺の隣に立つと、テーブルの空いたスペースに食器などを丁寧に置いて、ティーカップに紅茶を注いで来る。
ここ最近は、よく飯を食い損ねる俺に、聖女様が差し入れをして来る事が多くなった。
その理由は、何となく、察せられるが-------------
「……………………」
「どうか致しましたか?」
何でもないかのように、自然と尋ねて来る聖女を見て、何でもないと、ティーカップを手に取り、口に含む。
「…………ここの生活には、慣れたのか…………?」
そして、俺はふと、思い付いた事を聖女に向けて、訊いてみた。
「はい。
最初は不慣れな事も多くて、大変でしたが、今ではすっかり慣れました。
ミハエルさんやシスターズの方々も良くしてくださいますので」
「…………そうか…………」
受け答えは普通だ。
不自然な点はない。
だが、あんな話をされちゃ、警戒はしておかないといけない訳で-------------
「まぁ、それなら、良いんだが…………。
実は少々、聞き捨てならない報告があってな…………」
「…………何でしょうか?」
俺が胡乱な目で、聖女の方へと静かな殺気を向けると、一瞬だが、聖女の指先がピクリと動くのを、俺は見逃さなかった。
「聖女様-------------あんた、俺に何か、言う事はないか…………?」
腰掛けていた椅子を回転させ、聖女の方へと向き直って、問い掛ける。
その時の俺は、きっと真剣な面持ちで、聖女へと向き合っていたと思う。
しばらく、聖女は何も言わず、無言で答えようとはしなかったが、観念したのか。
大きなため息を吐いて、両の手を挙げた。
「やっぱり、バレちゃいましたか?」
悪びれた様子もなく、イタズラが見つかった子供のように笑う聖女。
やっぱり、こいつ、記憶が戻ってやがったな…………。
「ちなみに、いつ気付かれたんですか?」
「つい最近だ。
ミハエルの奴が、お前が聖戦の情報を探っている形跡がある、って話を聞いてな…………。
可能性の一つとして、あんたの記憶が戻ったんじゃないかと軽く予測していただけだ。
まぁ、少なからず、確証はあったが…………」
「……………………私をどうしますか?」
聖女様が不安げに問い掛けて来る。
これはまた、お約束なパターンだな。
まぁ、俺の答えは一つだけたから関係はない。
「どうもしねぇよ…………。
ここにいたいなら、好きなだけいろ。
出て行きたいなら、出て行け。
それだけだ」
「…………良いん…………ですか…………?」
俺の返答に思わず、目を見開く聖女。
その姿があまりにも、新鮮で笑えてしまった。
「良いも、悪いもねぇよ。
少なくとも、今のあんたらなら、問題はないだろうしな…………」
あん頃のあんたらは色んな意味でムカついたし。
「だから、情報を流すなり、探すなりするんなら、自分達でどうにかしろ…………。
そんだけだ。
もう下がって良いぞ?」
俺はサンドイッチを一つ取り、咀嚼しながら、作業に戻った。
聖女様は何も言わず、そのまま、部屋の外へと出て行こうとしている。
「そうだ。
こいつをやるよ!」
俺が無造作に、聖女の方へとあるものを放り投げると、危なげなく聖女がそれを受け取った。
「…………これは?」
「今のあんたには、きっと必要になるもんだ。
黙って受け取っておけ…………」
俺はそれ以上、聖女を相手にしなかった。
しばし、聖女が俺の背を眺めた後、静かに部屋を去って行く。
まぁ、頑張れ。
聖女様-------------
0
お気に入りに追加
872
あなたにおすすめの小説
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる