【下地版】ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜

水先 冬菜

文字の大きさ
上 下
70 / 163
聖戦の始まり

移動要塞

しおりを挟む
「ふう……」

 ホールを抜け、バルコニーに出る。
 秋を迎え、この暖かい王都でも夜となれば吹く風もひんやりと冷たい。

 こっそり持ってきたグラスとオードブルを乗せたお皿を手摺に置いて、自然とため息が出た。
 大きな窓から明かりが漏れるテラスでやっと一息つくと、次の曲が聞こえて来る。
 手を取り合いホールへ出ていく人々の影。
 賑やかな会場から離れたここは、休憩にちょうどいい。
 今年は肩が大きく開いたドレスが流行ったからだろう、風が冷たくなったこの時間にバルコニーに出ている人はいない。
 私はと言うと、首から手首までレースで覆われた、来春発表されるドレスを着て長いフリンジのストールを肩にかけているので、むしろホールは暑いくらいだった。

(さすがにこんな格好の人はいなかったけど、注目はばっちり浴びたわね)

 華やかでボリュームのあるドレスの中で一際浮いているけれど、決して地味ではない私のドレス。
 ドレスの流行に目敏い女性たちはこのレースが上質な物だと見抜き、扇子の向こうからこちらをじっと見つめていた。
 
 私の領地では染料や生地が主産物だ。王都や近隣の街のテーラーでは高級品として取り扱われ、安定した収入を得ている。
 領地で染料となる草花を育て、染料にして糸を染める。最近では紡績工場が建設され、街がとても活気づいてきた。
 社交シーズンラストを飾る、五日間にも及ぶ晩餐会に出席したのも、流行に敏感な貴族たちに実物を見てもらい、販路を拡充するため。
 そのために何着もドレスを作った。これらを見てもらうためにこの晩餐会にやって来たのだから、今夜のように人々の見せ物になるのは全く苦ではない。

 お皿に乗せたピンチョスを一口齧ると、ふわりと燻製の香りが口に広がる。

「おいしい……」

 一口食べれば途端にお腹が空く。

(もっと持ってくればよかったわ)

 白ワインを一口飲むと、これもとても美味しい。
 流石、王家主催の秋の晩餐会だ。

「……食べきってしまったわ」
「何かお持ちしましょうか?」

 突然話しかけられ驚いて振り返ると、濃紺のマントに白い隊服、金の肩章の背の高い騎士がにこにこと人懐っこい笑顔でこちらを見ていた。

「失礼しました、驚かせるつもりはなかったのですが」
「こちらこそ、誰もいないものと思っていて……」
「お声を掛けるつもりはなかったのですが、その、とても美味しそうに食べていらしたので、つい」

 いつから見られていたのかしら。

「どれもとても美味しかったわ」
「そうみたいですね。ワインはどうですか?」
「これも美味しいわ。どこの産地のものかしら」
「ではラベルを確かめてきますね」
「え」
「ついでに何か食べ物もお持ちします。ちょっと待っていてくださいね」
「え、あの騎士様、ま…っ」

 騎士はふにゃりと人懐っこい笑顔を残すと、その場を離れホールへと戻って行った。
 
(確かにもう少し食べたかったけど、騎士に持ってこさせるなんて、誰かに見られたら怒られそうね)
 
 騎士を待つ間に視線を庭へ向けると、夜の闇に浮かぶ黒い木々の向こうに、ぼんやりと明かりのついたガラスの屋根が見えた。

(コンサバトリーだわ)

 明かりがついているということは中に入れるのかもしれない。
 王城にあるコンサバトリーなんて見る機会もないだろうし、何を育てているのか凄く気になる。庭には所々明かりが灯されているし、暗さに目が慣れれば一人でも行けそうだ。

「お待たせしました」

 キイ、と硝子扉の軋む音がして振り返ると、先ほどの騎士が片手にワインのボトルとグラス、片手にオードブルが沢山盛り付けられたお皿を持って現れた。

「ボトルごと?」
「ご自身の目でラベルを見たいかと思って」

 照れくさそうに笑う騎士の手から、器用に持っていたグラスを慌てて受け取る。騎士は「ありがとうございます」と笑顔で礼を言うと、手摺に新しいお皿とカトラリー、ワインのボトルを置いた。お皿のオードブルはかなり多い。

「ありがとう、勤務中なのにお手を煩わせてしまったわ」
「いえ、ちょうど休憩時間なんです。先ほど同僚と交代したばかりで」
「ではよろしければご一緒にいかが? 残してはもったいないもの」

 私がそう言うと、騎士は照れくさそうに笑みを浮かべた。なんだか反応が可愛らしくて微笑ましい。
 
「すみません実は、貴女が食べているのを見たら僕も食べたくなってしまって」
「初めからそのつもりでこの量なのね?」
「はい。すみません」

 頬をポリポリと掻いて恥ずかしそうに視線を落として笑う騎士は、かなり若い。十八……、二十歳前くらいだろうか。
 弟のような雰囲気だけど、それよりも何か違う雰囲気を感じる。
 なんだっけ、何かに似ている気がする。
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...