不揃いの七勇者〜七人目の勇者は、かつて帝国を裏切った婚約者でした〜

水先 冬菜

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人間嫌いの勇者

女神の憂鬱

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「何で!? 何でよ!? 何で彼は私の言う事を聞いてくれないの!?」

 町で、今も追いかけ回されている彼、龍薙湊を遠くから憤慨しながら見ている者がいた。

 それは、彼を勇者として選び、彼に勇者の証としての《腕輪》を詐欺紛いの手口で、渡したあの女神。

 七柱の女神が一人----------------女神アルテヌスは忌々しげに、彼を睨み付けていた。

「ねえ、自業自得って言葉知ってる……?

 あんな事されて、素直に、お願いを聞いてくれる訳ないじゃない?」

「まあ、あんたに何を言っても無理よね!?

 あんた、何年経っても、お頭の方はからっきしみたいだし!」

「同意…………。アルテヌスはもっと人の気持ちに配慮すべき…………」

 背後にいる三柱------------同じ七柱の女神達に嘲笑され、アルテヌスは不貞腐れた子供のように、頬をプウっと膨らませて、振り返った。

 そして、アルテヌスを見る、仲間達の何とも言えない呆れ切ったような、失望し切ったような、何とも言えない表情に、耐えれなくなり、顔を真っ赤にして俯く。

 女神達が選んだ勇者達には間違いなく、異世界から侵攻して来た魔王を倒す潜在能力とも言うべき、圧倒的な才能がある。

 その才能を私達、女神が力を与える事によって、才能を飛躍的に上げ、開花させた。

 そのおかげで、アルテヌスを除く他の女神達が選んだ勇者は、魔王軍の侵攻を今も最前線で食い止めている。

 だが、アルテヌスが選んだ龍薙湊は他の勇者と同様に、才能や力も申し分ないが、その反面、精神的にを抱えていた。

 それは人間でいう"憎悪"の感情だ。

 彼は訳あって、人という存在に心底、絶望し切っていた。

 詳しくはアルテヌスも知らないが、彼は昔、手非道裏切りに合ったがため、人に冷たくあたるようになったとか…………。

 それには、あの朝香ユカリという聖女も関わっているらしい。


「でも、彼以外には…………!?」

 声を押し殺して、怒りを露わにするアルテヌスに一人の女神が肩に手を置く。

 アルテヌスをあからさまに嘲笑する三柱の女神達と違い、彼女は真剣な面持ちでアルテヌスに語り掛けた。

「あなたが彼に拘る気持ちは分かります。ですが、時間は無限にある訳ではありません。もし彼が使命をこれ以上放置するようなら、その時は…………分かっていますね…………」

「……………………」

 アルテヌスは俯くだけで、答えられなかった。

 彼女の言う通り、自分達にも、世界にも、然程時間は残されていない。

 今、この世界は勇者という新たな英雄達によって、辛うじて支えられている状態だ。

 だけれど、彼はそれを補うばかりか、

 一気に苦境を、優勢へと逆転させ、魔王を追い詰める事が出来る。

 それは他の女神達も充分に理解している。

 しているが、彼が人を見限っている以上、協力は望めない。

 なら、彼より劣るとしても、他の勇者候補に勇者の座を明け渡して、今、最前線で戦っている他の勇者達に合流して貰い、戦線を維持してくれた方が世界のためだ。

 アルテヌス以外の女神達はそう思っている。

 だが、確実に世界を救う。

 それを絶対として掲げているアルテヌスには、戦線維持など許せない。

 許したくなかった。

 魔王を含めた異世界の侵略者共を根絶やしにして、に世界を救い、平和にする。

 だから、彼を見込んで、一番戦線が崩れ掛けているクラウス王国へ向かって貰い、苦境から優勢へと戦線を逆転させようとした。

 だが、彼はアルテヌスが要求した事を完全に無視。

 呪いを掛けて、脅しても、気にする事なく、彼はいつも通りの日常生活を送っている。

 つまり、彼に取っては痛くも痒くもない出来事だったという事だ。

 アルテヌス自身を相手にする気もないという意思表明でもあった。

 それはアルテヌスのプライドを真っ向から否定するかのような行いに見えて来て…………。

「もう良いわ…………」

 アルテヌスの体から、何か黒いモヤのようなものが溢れて来る。

「アルテヌス……?」

 肩に手を置いていた女神がアルテヌスの異変に気付き、訝しげに彼女を見た時だった。

「みんなも、あいつも、ふざけたばかりの事を言いやがって…………!!」

「ア、アルテヌス!?」

「みんな大嫌いだ!! お前らみたいな奴らは世界の平和のため!! 未来のためにこの私が…………!!」

「っ…………!!」

 その瞬間、女神アルテヌスは瞳を黒く染め----------------闇に堕ちた。
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