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序章、第一話
ヨル・・・!
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◆
スズメは暗闇の中にいた。
(何だ? 周りが騒がしい・・・・・・)
あちこちから上がる怒号、銃声、悲鳴。それらが叩きつけるような雨音に混じり合っては消え、また生まれる。何が起きているんだろう。そもそもどうして眠っているんだっけ。
途轍もなく瞼が重い。ずっとこの暗闇の中を揺蕩っていたいけれど、何故だか目を覚まさないといけない気がした。
深く眠っていた意識が浮上する。
「ここは・・・・・・?」
土砂降りの雨の中。真っ暗な空は厚い雲に覆われて月も星も見えない。少し首を右に向けると大通りに面した雑貨屋が目に入る。そうだ。確か自分は施設に向かう途中だった。そこでトコヤミ達に囲まれて――――
「・・・・・・っ!」
そこまで考えてスズメは飛び起きた。全身に痛みが走る。手足は痺れ、上手く動かせない。でも生きている。
(どうして・・・・・・)
あの時、トコヤミの後ろから突然現れた弓兵の攻撃に対応出来ずに矢に打たれ倒れた筈だった。服は血まみれだし、普通なら生きている訳がないのに。スズメは急いで傷口を確認した。心臓を射抜くはずだった矢は何故か軌道を外れ、胸と腹の中間に刺さったようだった。大きな傷跡が残っている。けれど傷跡があるだけで傷自体は綺麗に塞がっていた。
ああそういえば矢が刺さる瞬間あたたかい何かに包まれたような。徐々に鮮明になっていく記憶にスズメは青ざめる。
カタカタと震えながら恐る恐る傍らを見ると、そこにはヨルが倒れていた。
「ヨル・・・・・・!」
慌てて駆け寄るが返事はない。ヨルの胸には大穴が空いていて、血もたくさん出ていた。脈は無く、息もしていない。
「そんな・・・・・・! ヨル、ヨルっ!」
スズメを庇ったのだとすぐに知れた。矢の軌道が変わったのはヨルがスズメを咄嗟に抱き込んだから。きっと凄く痛かっただろうに、ヨルの顔は安らかで。
「ああ・・・・・・あああ!」
ヨルが死んでしまった。スズメを庇って命を落とした。
大好きだった。本当の兄のように感じていた。
勉強を教えてくれて、たくさん頭を撫でてくれて、スズメの為に泣いたり笑ったり忙しい人だった。
ヨルの役に立ちたくて動いていたのに、そのせいでヨルが死んでしまうなんて。
スズメは現実を受け入れられなかった。
ふと前方を見詰めると、私兵団と自警団が戦っている。私兵団の中には指揮を取るトコヤミの姿も見えた。
ああ、あいつらさえいなければ。
スズメの心にポタリと黒いインクが落ちる。その漆黒はじわじわと広がり飽和してスズメの思考を支配した。
「許さない」
ポツリと呟いた声に呼応するように大通りに植えられた街路樹や色とりどりの花々がぼんやりと光り出した。
◆
スズメは暗闇の中にいた。
(何だ? 周りが騒がしい・・・・・・)
あちこちから上がる怒号、銃声、悲鳴。それらが叩きつけるような雨音に混じり合っては消え、また生まれる。何が起きているんだろう。そもそもどうして眠っているんだっけ。
途轍もなく瞼が重い。ずっとこの暗闇の中を揺蕩っていたいけれど、何故だか目を覚まさないといけない気がした。
深く眠っていた意識が浮上する。
「ここは・・・・・・?」
土砂降りの雨の中。真っ暗な空は厚い雲に覆われて月も星も見えない。少し首を右に向けると大通りに面した雑貨屋が目に入る。そうだ。確か自分は施設に向かう途中だった。そこでトコヤミ達に囲まれて――――
「・・・・・・っ!」
そこまで考えてスズメは飛び起きた。全身に痛みが走る。手足は痺れ、上手く動かせない。でも生きている。
(どうして・・・・・・)
あの時、トコヤミの後ろから突然現れた弓兵の攻撃に対応出来ずに矢に打たれ倒れた筈だった。服は血まみれだし、普通なら生きている訳がないのに。スズメは急いで傷口を確認した。心臓を射抜くはずだった矢は何故か軌道を外れ、胸と腹の中間に刺さったようだった。大きな傷跡が残っている。けれど傷跡があるだけで傷自体は綺麗に塞がっていた。
ああそういえば矢が刺さる瞬間あたたかい何かに包まれたような。徐々に鮮明になっていく記憶にスズメは青ざめる。
カタカタと震えながら恐る恐る傍らを見ると、そこにはヨルが倒れていた。
「ヨル・・・・・・!」
慌てて駆け寄るが返事はない。ヨルの胸には大穴が空いていて、血もたくさん出ていた。脈は無く、息もしていない。
「そんな・・・・・・! ヨル、ヨルっ!」
スズメを庇ったのだとすぐに知れた。矢の軌道が変わったのはヨルがスズメを咄嗟に抱き込んだから。きっと凄く痛かっただろうに、ヨルの顔は安らかで。
「ああ・・・・・・あああ!」
ヨルが死んでしまった。スズメを庇って命を落とした。
大好きだった。本当の兄のように感じていた。
勉強を教えてくれて、たくさん頭を撫でてくれて、スズメの為に泣いたり笑ったり忙しい人だった。
ヨルの役に立ちたくて動いていたのに、そのせいでヨルが死んでしまうなんて。
スズメは現実を受け入れられなかった。
ふと前方を見詰めると、私兵団と自警団が戦っている。私兵団の中には指揮を取るトコヤミの姿も見えた。
ああ、あいつらさえいなければ。
スズメの心にポタリと黒いインクが落ちる。その漆黒はじわじわと広がり飽和してスズメの思考を支配した。
「許さない」
ポツリと呟いた声に呼応するように大通りに植えられた街路樹や色とりどりの花々がぼんやりと光り出した。
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