『庭師』の称号

うつみきいろ

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序章、第一話

身内を売れと言うのかね

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「この私を呼び出すとは本当に面白い子だ」

 そう言ってやってきたのは鴉族の当主、『ザンヤ』だった。ヨルとそっくりな深い青の瞳と白髪混じりの黒髪。口元には柔和な笑みを浮かべていた。
 後ろにはユウギリも控えている。

「なんでも話があるとか」
「はい」

 スズメは大きく頷いて居住いを正す。単刀直入に言います、と前置きしてスズメは口を開いた。

「鴉族の中でクーデターを企む者達がいると聞きました。貴方の御息女と私兵団長、執事長まで一緒になって昼行性の鳥人へ攻め入る気だとか。私兵団は殆どがそれに賛同しているとも伺っています」
「やれやれユウギリはお喋りだなぁ」
「具体的に何処が襲われるか、情報はあるのですか?」

 スズメの言葉に当主は言葉を詰まらせる。

「それを教えれば君を巻き込むことになる」
「もう充分巻き込まれてますよ」

 トコヤミと私兵団長の会話を聞いた時から、スズメには逃げ道はない。執事長に首を絞められたように命を狙われ続ける。

「私を閉じ込めているのは、私を守るためですね」
「・・・・・・そうだ。君は館の鳥人に命を狙われているからな。縛り上げているのは申し訳ないが、此処でほとぼりが冷めるまでじっとしてもらおうと思っていたんだ」

 当主がスズメを閉じ込めていたのはスズメの命を守るためだった。館の誰も知らない場所に匿ってユウギリに世話をさせたのだ。全く回りくどい方法だが、やはり当主は敵では無かった。これで信頼して話が出来る。

「それで情報はあるのですか?」
「ある」

 当主は短く答えた。

「日時、場所、兵力。全ての情報はおさえている」

 ユウギリが言葉を付け足す。

「しかしそれだけだ。情報はあるのに何も出来ない。こんなに歯痒いことはない」

 当主は悔しそうに顔を歪めた。

「もう私には誰かを諌める力はない。自分で作り上げた武力に殺される。多くの昼行性鳥人と共にな。そしてまた世界は混沌と化す。戦争の始まりだ」
「諦めるのが早いんですね。まだ出来ることをやっていないのに」
「出来ること・・・・・・?」

 スズメの言葉に当主は首を傾げた。当主は本当に手詰まりだと思っているらしい。
 でも手が無いと分かっていても情報収集をやめなかったのは助かった。

「自警団に依頼するんです」
「自警団・・・・・・?」
「要は対抗する武力さえあればいい。自警団は元々クーデターを鎮圧する為に出来た組織です。数さえ揃えられれば私兵団にも対応できる」

 ヨルとロムがいる自警団。助けを求めれば必ず応えてくれる自信があった。

「私に身内を売れと言うのかね」
「戦争を起こすより余程良いでしょう。クーデターを貴方とヨルが先頭に立って鎮圧すれば鴉族の評価もそこまで下がらない」

 酷なことを言っている自覚はある。自分の娘を自警団に突き出せというのと変わらないということは。しかしアウトサイドで毎日生きるか死ぬかという生活を続けていたスズメには分かる。何かを切り捨てなければこの世界では生き抜けない。

「御子息様か御息女。どちらか一方しか選べません。ご決断を」
「・・・・・・っ!」

 スズメの琥珀色の両目に囚われて、当主は息を飲んだ。

 ◆
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