よわよわ魔王がレベチ勇者にロックオンされました～コマンド「にげる」はどこですか～

＃４：宿泊研修～準備編

＃４－余談６②．前世は社畜日本人

　……って、あれ？
　ちょっと待って。

（ふおおおおーーーー、私ぃ、社長が愛人会いたさにすっ飛ばした会合のリスケを室長に押し付けられて、残業してたんじゃなかったっけ？で、時計が０時回って『ああ今日誕生日なのになー』なんて思いながら自販機でコーヒー買っ……たんだよね？）

　慌てて手のひらを見るも買ったコーヒーの紙コップはなく、少しカサついた小さな手のひらが見えるのみ。
　顔を上げると、緩やかなウェーブを描いた艷やかな黒髪の美少女が、薄紫の宝石のような瞳を煌めかせながら私の頭を優しく撫でている。

（これ、どんな状況ーーーーー！？）

「ねえ、あなた良かったらウチに来ない？」

　私は、突然頭の中に流れ込んできた別の誰かの記憶と、今までこの孤児院で過ごしてきた数年の記憶がごちゃまぜになって、目の前の美少女に言われた意味がわかりませんでした。

「わたしはマリネッテ、あなたは？」
「……シノブ」

　かろうじて名前だけは言えましたが、これって私の名前？誰かの名前？

「そう、わたしのことは『マリナ』って呼んで、あなたのことは『シノ』って呼ぶわ」
「はい、マリナ様」

　そうして私は、５年間お世話になった孤児院に別れを告げ、マリナ様のお屋敷へ住むことになったのです。