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63 歌劇団のマルチスター、登場!
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伊吹の熱もすっかり癒えてから一週間が経つ。
裕太郎と緑里は雑誌の表紙に飾るほどになっていた。二人が表紙に載れば、その雑誌はあっという間に売り切れてしまうほど。
(あのお嬢様がいなくなったとて、肥やしにはなったなぁ)
と、思うのはマスターの和雄。
ベルトには金の懐中時計がぶら下がっていて、指輪も嵌めていた。
(この机も、新調したいなぁ)
ニタニタが止まらないマスター。
するとドアのノックする音。
「どうぞ」
「アポなしで失礼しますわ」
意外なお客様に目を剥くマスターだ。
「これは......歌劇団の男役、花形スター、マルチにこなせる響わたるさんではないですか」
「お久しぶりだわ」
「そうだな」
何故か訳ありのような口調。
「気まずかったけど、これだけ緑里が人気ともなれば大丈夫かと思ったの」
「ふん。そうか......」
「二人でやるつもりだったけど、なんだか......」
そう話したところで、ノックもなしにドアを開ける音といえば......。
「おじさん!」
彼女は振り向くと嬉しそうに伊吹に声を掛けた。
「初めまして!! あなたがお噂の男装軍人である藤宮伊吹少尉ですか!」
「なんかどこかで聞いたような会話だな」
伊吹は苦情した。
「あれほどノックしろと言っただろう」
マスターは呆れた。
「お会いできて光栄です」
彼女は伊吹の手を取り、軽くキスをした。
まさに花形男役だ。
(すごいやつだな......。いきなり出会ったやつにこんな事をするなんて)
「誰もが喜ぶと思うな」
と、伊吹は忠告する。わたるは微笑む。
「海外の挨拶ですよ」
「ここは日本だ」
「申し訳ございません」
わたるは肩を竦めた。
「何か用があって来たんじゃないのか?」
「そうでした。裕太郎さんにお話があって、お会いしたいのですが」
「そうか......。どうした?」
「男装軍人と三銃士の件です」
「ほう」
伊吹は興味を持った。
「呼んでこようか?」
と、伊吹。
「今は稽古中だからな、俺も行く」
「なら、わたくしも」
と、わたる。
響わたるが稽古場に入ると、みんながざわつく。中には冷たい視線を向ける者もいた。
「わたる......」
緑里が呟く。
「元気そうでよかった」
「所詮は演技でしょ、そのセリフ」
緑里はタオルを取って、汗を拭く。
「相変わらず、冷たいのね」
「誰が冷たくしたのよ、あんたじゃない。裏切り者がよく来れたわね」
「まぁ、そう言うな。緑里」
と、マスター。
「あんたの顔を見るだけでも、吐きそう。休んでくるわ」
緑里はそう吐き捨てて、稽古場から出て行こうとすると、
「緑里!」
と、わたるが呼び止める。
「あんたなんか大嫌い!! 軽々しく呼ばないで!」
「裕太郎さんを、こちらへ呼びたいんだ!」
それは突然で、伊吹は無論、みんなが氷ついた。
裕太郎と緑里は雑誌の表紙に飾るほどになっていた。二人が表紙に載れば、その雑誌はあっという間に売り切れてしまうほど。
(あのお嬢様がいなくなったとて、肥やしにはなったなぁ)
と、思うのはマスターの和雄。
ベルトには金の懐中時計がぶら下がっていて、指輪も嵌めていた。
(この机も、新調したいなぁ)
ニタニタが止まらないマスター。
するとドアのノックする音。
「どうぞ」
「アポなしで失礼しますわ」
意外なお客様に目を剥くマスターだ。
「これは......歌劇団の男役、花形スター、マルチにこなせる響わたるさんではないですか」
「お久しぶりだわ」
「そうだな」
何故か訳ありのような口調。
「気まずかったけど、これだけ緑里が人気ともなれば大丈夫かと思ったの」
「ふん。そうか......」
「二人でやるつもりだったけど、なんだか......」
そう話したところで、ノックもなしにドアを開ける音といえば......。
「おじさん!」
彼女は振り向くと嬉しそうに伊吹に声を掛けた。
「初めまして!! あなたがお噂の男装軍人である藤宮伊吹少尉ですか!」
「なんかどこかで聞いたような会話だな」
伊吹は苦情した。
「あれほどノックしろと言っただろう」
マスターは呆れた。
「お会いできて光栄です」
彼女は伊吹の手を取り、軽くキスをした。
まさに花形男役だ。
(すごいやつだな......。いきなり出会ったやつにこんな事をするなんて)
「誰もが喜ぶと思うな」
と、伊吹は忠告する。わたるは微笑む。
「海外の挨拶ですよ」
「ここは日本だ」
「申し訳ございません」
わたるは肩を竦めた。
「何か用があって来たんじゃないのか?」
「そうでした。裕太郎さんにお話があって、お会いしたいのですが」
「そうか......。どうした?」
「男装軍人と三銃士の件です」
「ほう」
伊吹は興味を持った。
「呼んでこようか?」
と、伊吹。
「今は稽古中だからな、俺も行く」
「なら、わたくしも」
と、わたる。
響わたるが稽古場に入ると、みんながざわつく。中には冷たい視線を向ける者もいた。
「わたる......」
緑里が呟く。
「元気そうでよかった」
「所詮は演技でしょ、そのセリフ」
緑里はタオルを取って、汗を拭く。
「相変わらず、冷たいのね」
「誰が冷たくしたのよ、あんたじゃない。裏切り者がよく来れたわね」
「まぁ、そう言うな。緑里」
と、マスター。
「あんたの顔を見るだけでも、吐きそう。休んでくるわ」
緑里はそう吐き捨てて、稽古場から出て行こうとすると、
「緑里!」
と、わたるが呼び止める。
「あんたなんか大嫌い!! 軽々しく呼ばないで!」
「裕太郎さんを、こちらへ呼びたいんだ!」
それは突然で、伊吹は無論、みんなが氷ついた。
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作品から漂う大正ロマンのような雰囲気が好みです。
恋模様が切ないですね。
令嬢で軍人は斬新です。思わず投票してしまいました。