モダンな財閥令嬢は、立派な軍人です~愛よりも、軍神へと召され.....

逢瀬琴

文字の大きさ
上 下
58 / 78

58 家族よりも大義のため

しおりを挟む
 明和に建てられた古風の洋館。
 今はレストラン兼宿泊施設になっていた。
 モダンな雰囲気が今でも残っている。
 
「すごいなここは」
「官僚たちが会談する場所でもある。そこに将校たちも呼ばれたらしい」
「伊吹は?」
 裕太郎はニタリとする。
「わたしはまだ一年だからな」
「そうかい」
 裕太郎はクスクス笑う。 

 入り口は警察官が門番をしているが、特に何も起きていないようだ。
 警察官に、
「藤宮少将の娘なのだが、なかに入れてくれるか?」
 と、問うた。
「あー? そんなわけなかろう。行った行った」
 と、払いのけられた。

「おい......」
「そりゃあそうさ」
「参ったな......」
「戻ろう」   

 すると館内で、空の弾ける音が二発、パァーン、パァーンッと響いてきて、外にいたみんなは耳をふさいだ。  
「な、なんだぁ?!」 
 警察官は凄い形相で、館内に入る。
 伊吹は、
「裕太郎は帰るんだ。もう、手に終えん」
「いや、俺も行く!」
「勝手にしろ」
 伊吹はハンドバックから拳銃を取り出した。

 裕太郎は怯んだ。
 伊吹は呆れて、裕太郎を置いていく。

 あとから、
「待ってくれ」
 と、言う声。
 伊吹は構わず、向かう。
 客と逃げて行くのと反対方向。 

 一人の警官が慌ててやってくる。
「た、大変だ!」
「何があったんだ」
 伊吹はその警官を呼び止める。
「あんたは?」
「藤宮伊吹陸軍少尉だ」
「藤宮少将のご令嬢ですか!!」
 警官は敬礼する。

(最初からそう名乗ればよかった)

「それどころではなく、救急です!! 首相が撃たれました!!」

「えっ?! 中にいる者は?!」
「怪我をしている人も出ていて!」
「銀行爆発といい、どうゆう事だ」
 裕太郎がやってくる。
 裕太郎を見た伊吹は、
「帰れと言っただろう!」
「だが!」
「拳銃を見て怯むような奴は、ここにいては危険だ!」
 裕太郎は動揺した。
「......」
「怪我を......負わせたくないんだ......」
「......俺も同じだよ」

「わたしを酷い目で見ていたくせに.........」

「.........え?」

 血だらけになった大前大尉がふらりと現れる。
 片手には拳銃。
 銃口からは煙。

「大前大尉どの............?」
 裕太郎も遊園地で会ったので、そう呼んだ。

「あなたの血ではない。誰の血ですか?」
 と、伊吹。

「これから......大きな戦争が始まる.........。勝つためには......こうするしかないんだ」
「は?」
「それが、わたしの大義だ。藤宮少尉」
 大前大尉は拳銃を伊吹に向ける。
 裕太郎はすぐさま前に出る。

「大前大尉!」
 池山中尉と父の謙造がやってきた。
「これが、戦争と言うものだ! 藤宮少尉!!」
 大前大尉は銃口をこめかみに突き付け、引き金を引いた。

 ドサリ 

 目の前は大前大尉ではなく、池山中尉と謙造が視界に入る。

「あ......」
 さっきまで動いていた人間が、頭から血を流して息絶えているのを見て、震える裕太郎。
 青ざめてきた。
「しっかりしろ、裕太郎」 
 伊吹は耳元で囁く。

「伊吹......」
 池山中尉が声を掛けた。池山中尉は裕太郎を見るとあからさまに嫌な顔をした。

「銀行爆発に巻き込まれそうになってから、嫌な予感しかしなくて」
「その予感、的中だったな」
 と、池山中尉。  

「なんだって大前大尉がこんな事を......」
 伊吹は嫁のお腹に子どもがいるのを思い出す。

「誰かを襲撃するとゆう情報を探していて、それで小松のところで探っていたんだ」
「.........だからあの拳銃」
「身を守るためだった」
 池山中尉は悲しそうに微笑んだ。
「降旗軍曹も色々、こっそりと跡をつけてたが、あれじゃバレバレだった」

「あれだけ念を押していたのにっ。でも、なんだって危険な......」

「彼はその任務にたけているんだ」
「お父様......」
「スパイみたいなもんだよ」
 と、池山中尉。
「防げるものなら防ぎたいけど.......。止める事が出来なかった」
 と、謙造。

「まだ子どもがいるのにっ!」
 池山中尉は吐き捨てるように叫んだ。その声はこの会館に切なくも響いた。

 伊吹はただ黙って見ていた。
 それしか、出来なかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―

馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。 新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。 武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。 ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。 否、ここで滅ぶわけにはいかない。 士魂は花と咲き、決して散らない。 冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。 あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。 schedule 公開:2019.4.1 連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

水野勝成 居候報恩記

尾方佐羽
歴史・時代
⭐タイトルを替えました。 ⭐『福山ご城下開端の記』もよろしくお願いします。 ⭐福山城さま令和の大普請、完成おめでとうございます。 ⭐2020年1月21日、5月4日に福山市の『福山城築城400年』Facebookでご紹介いただきました。https://m.facebook.com/fukuyama400/ 備後福山藩初代藩主、水野勝成が若い頃放浪を重ねたあと、備中(現在の岡山県)の片隅で居候をすることになるお話です。一番鑓しかしたくない、天下無双の暴れ者が、備中の片隅で居候した末に見つけたものは何だったのでしょうか。 →本編は完結、関連の話題を適宜更新。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

よあけまえのキミへ

三咲ゆま
歴史・時代
時は幕末。二月前に父を亡くした少女、天野美湖(あまのみこ)は、ある日川辺で一枚の写真を拾った。 落とし主を探すべく奔走するうちに、拾い物が次々と縁をつなぎ、彼女の前にはやがて導かれるように六人の志士が集う。 広がる人脈に胸を弾ませていた美湖だったが、そんな日常は、やがてゆるやかに崩れ始めるのだった。 京の町を揺るがす不穏な連続放火事件を軸に、幕末に生きる人々の日常と非日常を描いた物語。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...