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56 運命ならば
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裕太郎は伊吹の隣に腰掛けた。
「ただ一度だけだ」
「そうなのか.........」
(軽々しく言えるか)
裕太郎はそう思い、苦笑する。
性格は変わらない。
傲慢に聞こえるのは、素直に話してしまうからだ。
「君は三日月のようだな........」
「三日月か?」
伊吹は笑う。
「尖っているようだけど、無垢な心」
「そうか、それがわたしなのか......?」
裕太郎は頷く。
「それでも...........、好きな気持ちは変わらない」
裕太郎は伊吹の目を見て、はっきりと伝えた。
「.........」
伊吹は何も答えない。
「劇場で言った事を覚えているか?」
「覚えてるよ......」
「残酷な奴だな」
伊吹はふふっと笑う。
「けど、一つだけ言えるのが.........、それでもわたしが好き、なんだな」
裕太郎は黙って頷く。
「帰ろう」
伊吹は裕太郎を誘う。
「明日も早いしな」
「それだ」
伊吹は苦笑しつつ、裕太郎と肩を並べて公園を出た。
好きでいれるか分からない。
それでもこの男は好きだと言う。
自分がこの男に対してどうなってしまうのか、そう考えるとなんだか辛い気もするし、肩を寄せて歩くなんて、
(わたしもどうかしている)
きっと、手を繋いで歩いていた。
「伊吹はどうして、劇場に? 真面目に学校だったじゃないか」
裕太郎が話し掛けてきた。
「男装軍人と三銃士が世間で騒がれただろう」
「ああ」
「劇にしてもらいたいと思ったんだ」
「......俺たちのレビューなんて、ものの十分程度。見て分かっただろう? 大きなところと交渉した方が......」
裕太郎はハッとして、
「何を企んでいる?」
と、訊ねる。
「戦意向上のためさ」
ニタリとする伊吹。
「兵隊たちも来ているだろう? あと、学生たちだって..........」
「ごめんだな」
裕太郎はハッキリ言った。
「死に行くようなところに、誘導させろと?」
「......この国が勝ちたいと思わないのか」
「思うさ」
「思うけど?」
険しい表情を向ける伊吹。
「死ぬ選択しかないのか?」
「..........」
「死ぬ選択を、進めるのか?」
「それは.........」
「それを見て、他の連中がああなりたいと、思わせるのか.........」
「そうだ」
「そんな演技したくない」
裕太郎はキッパリ言った。
「俺は夢を与える仕事をしているんだ」
「その演技もそう出来るだろう?」
「それが、戦意向上のため......」
伊吹は黙って頷く。
裕太郎の険しい表情を見ると、何だか胸が苦しい。
「戦意向上の趣向がないのなら、やってもいい。伊吹のような兵隊を、増やす気にはなれないね」
「おじさんがやれと言っても?」
「野垂れ死ぬ覚悟はあるよ」
「困ったな.........。なら、正一にやらせるか。正一ならすごい喜ぶぞ」
「そうしてくれ」
「裕太郎」
がっかりした声の伊吹。
「戦場で野垂れ死ぬのだけは、ごめんだ」
「分かったよ」
「レギュラーだってそんないないしな」
「ああ、そうだった」
珍しく、やり込まれる伊吹だ。
「考える......と言うのは...?」
「それもない」
「頑固もんが」
伊吹は呆れ、深い溜め息。
「まあ、そんなとこだね。俺を野垂れ死にさせないでくれ、少尉殿」
裕太郎はニタリとした。
「ちっくしょう」
伊吹はそう呟き、困ったように頭を掻いた。
そうして二人は笑う。
「そうだ。今度の日曜日なんだけど」
と、裕太郎。
「なんだ?」
「ある劇場のオーディションがあるんだ」
「......裏切りか?」
伊吹は眉根を潜めた。
「オーディションを受けるだけだ」
裕太郎は肩を竦める。
「それで......?」
「着いてきてくれないか?」
「子どもか」
「いや.........。忘れてくれ」
伊吹は裕太郎の顔色を伺い、
「以前なら......、ついて行ったんだろうな」
と言った。
「分かったよ。何時だ?」
その答えに、裕太郎の顔は明るくなった。
※ ※ ※
翌日には時和音楽会社の部長から電話があった。
「翌日ですか? 講演は10時からですので......。部長さんも見に来られると......。分かりました。二人に歌わせようと思います!」
マスターは電話を切ると、嬉しそうに手を叩き、自ら舞台へ行った。
「マスター、どうしました?」
「時和音楽会社から連絡があって、明日見に来るそうだ! 詳しい話はそれからだぞ」
「この分だと、話が進む可能性ありますね」
裕太郎は嬉しそうな顔をして、
「取り分も考えますからね」
と、言った。
マスターはむにゅむにゅと濁した。
(もし、そうしなければ、考えたっていい)
裕太郎は決意していた。
「ただ一度だけだ」
「そうなのか.........」
(軽々しく言えるか)
裕太郎はそう思い、苦笑する。
性格は変わらない。
傲慢に聞こえるのは、素直に話してしまうからだ。
「君は三日月のようだな........」
「三日月か?」
伊吹は笑う。
「尖っているようだけど、無垢な心」
「そうか、それがわたしなのか......?」
裕太郎は頷く。
「それでも...........、好きな気持ちは変わらない」
裕太郎は伊吹の目を見て、はっきりと伝えた。
「.........」
伊吹は何も答えない。
「劇場で言った事を覚えているか?」
「覚えてるよ......」
「残酷な奴だな」
伊吹はふふっと笑う。
「けど、一つだけ言えるのが.........、それでもわたしが好き、なんだな」
裕太郎は黙って頷く。
「帰ろう」
伊吹は裕太郎を誘う。
「明日も早いしな」
「それだ」
伊吹は苦笑しつつ、裕太郎と肩を並べて公園を出た。
好きでいれるか分からない。
それでもこの男は好きだと言う。
自分がこの男に対してどうなってしまうのか、そう考えるとなんだか辛い気もするし、肩を寄せて歩くなんて、
(わたしもどうかしている)
きっと、手を繋いで歩いていた。
「伊吹はどうして、劇場に? 真面目に学校だったじゃないか」
裕太郎が話し掛けてきた。
「男装軍人と三銃士が世間で騒がれただろう」
「ああ」
「劇にしてもらいたいと思ったんだ」
「......俺たちのレビューなんて、ものの十分程度。見て分かっただろう? 大きなところと交渉した方が......」
裕太郎はハッとして、
「何を企んでいる?」
と、訊ねる。
「戦意向上のためさ」
ニタリとする伊吹。
「兵隊たちも来ているだろう? あと、学生たちだって..........」
「ごめんだな」
裕太郎はハッキリ言った。
「死に行くようなところに、誘導させろと?」
「......この国が勝ちたいと思わないのか」
「思うさ」
「思うけど?」
険しい表情を向ける伊吹。
「死ぬ選択しかないのか?」
「..........」
「死ぬ選択を、進めるのか?」
「それは.........」
「それを見て、他の連中がああなりたいと、思わせるのか.........」
「そうだ」
「そんな演技したくない」
裕太郎はキッパリ言った。
「俺は夢を与える仕事をしているんだ」
「その演技もそう出来るだろう?」
「それが、戦意向上のため......」
伊吹は黙って頷く。
裕太郎の険しい表情を見ると、何だか胸が苦しい。
「戦意向上の趣向がないのなら、やってもいい。伊吹のような兵隊を、増やす気にはなれないね」
「おじさんがやれと言っても?」
「野垂れ死ぬ覚悟はあるよ」
「困ったな.........。なら、正一にやらせるか。正一ならすごい喜ぶぞ」
「そうしてくれ」
「裕太郎」
がっかりした声の伊吹。
「戦場で野垂れ死ぬのだけは、ごめんだ」
「分かったよ」
「レギュラーだってそんないないしな」
「ああ、そうだった」
珍しく、やり込まれる伊吹だ。
「考える......と言うのは...?」
「それもない」
「頑固もんが」
伊吹は呆れ、深い溜め息。
「まあ、そんなとこだね。俺を野垂れ死にさせないでくれ、少尉殿」
裕太郎はニタリとした。
「ちっくしょう」
伊吹はそう呟き、困ったように頭を掻いた。
そうして二人は笑う。
「そうだ。今度の日曜日なんだけど」
と、裕太郎。
「なんだ?」
「ある劇場のオーディションがあるんだ」
「......裏切りか?」
伊吹は眉根を潜めた。
「オーディションを受けるだけだ」
裕太郎は肩を竦める。
「それで......?」
「着いてきてくれないか?」
「子どもか」
「いや.........。忘れてくれ」
伊吹は裕太郎の顔色を伺い、
「以前なら......、ついて行ったんだろうな」
と言った。
「分かったよ。何時だ?」
その答えに、裕太郎の顔は明るくなった。
※ ※ ※
翌日には時和音楽会社の部長から電話があった。
「翌日ですか? 講演は10時からですので......。部長さんも見に来られると......。分かりました。二人に歌わせようと思います!」
マスターは電話を切ると、嬉しそうに手を叩き、自ら舞台へ行った。
「マスター、どうしました?」
「時和音楽会社から連絡があって、明日見に来るそうだ! 詳しい話はそれからだぞ」
「この分だと、話が進む可能性ありますね」
裕太郎は嬉しそうな顔をして、
「取り分も考えますからね」
と、言った。
マスターはむにゅむにゅと濁した。
(もし、そうしなければ、考えたっていい)
裕太郎は決意していた。
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