モダンな財閥令嬢は、立派な軍人です~愛よりも、軍神へと召され.....

逢瀬琴

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55 裕太郎の意地

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「もうパトロンで生活するのは懲り懲りなんです! 自分の稼いだ金で、好きな女を養いたいんだ!!」

「やだ......」
 と、言ったのは緑里。
 少し赤面している。 

「そ、そうですか」
 三井も返答に困る。

「へぇ......。いい男だな」
 と、言ったのは伊吹。
 裕太郎は伊吹のさりげない言葉に、なんだか力が抜ける。横目で伊吹を見てみると、ニタニタな伊吹の表情。
「惚れ直したっていいんだぞ」
 伊吹の態度で、ついラフな言い方をしていたが気づかない裕太郎。
「傲慢なやつは兵隊でいっぱいみてる。優しい男がいい」
 無垢な答え。

「素直なお方ですね」
 と、言ってきたのは三井だ。
「そうかな」

「......その素直さがたまに傷」
 裕太郎が呟く。
「あら、それが伊吹のいいところじゃない」
 緑里が言う。
「裕太郎さんはよく知ってらっしゃる」
 三井はニタニタしながら言った。
「お気になさらず」
 辛辣な声で言う裕太郎。
 
(君のためにプレゼントだって買いたい。美味しい物だって食べさせたいのに......)

(記憶を消させてしまったのは、この俺なのだが......)

「それで、ご契約は?」
「劇場には何パー入るんだ」
 とマスター。
「............参りましたね。契約してくださらないとお答え出来ないんです」

「そんな怪しいところがあるか」

「こっちも真剣なんですよ」
 三井はそう言い放す。
「分かりました。契約はしないが、他のところにも契約はせん。後日、部長を呼んで来てくれないですか」
 マスターの真顔。
「マスター!!」
 裕太郎は険しい顔をした。
「心配するな! そんな下道じゃない!」

(嘘をつけーーーー!!)
 
 と、叫びたくなった裕太郎だが、我慢した。

「裕太郎」
 伊吹が呼ぶ。
「何です?」
「今のお前、強欲の鬼だな。そんな顔するのか?」
 屈託なく笑う伊吹。

(強欲の鬼......)

「強欲の鬼......ですって? 上手いこと言うわね」
 緑里もクスクス。
「あらやだ、裕太郎。傷付いてるの? お互い様じゃない?」

「なんだよ、わたしにそんな同じようなことを言ったのか? わたしも繊細な部分を持ってるとはな」
「伊吹」
「何?」
「人を恋するっていうのは、繊細になるの。今のあなたは残酷な少女に戻った.....」
「......」
「他の人と恋をしてみるのもよくてよ?」
 誘惑を仕掛ける。
 緑里の嫌がらせ。
「わたしは兵隊だ。相手だって悲しむ。煩いよ。恋なんて」
 伊吹はふふっ、と、悲しそうに笑った。

 三井は気まずそうにポリポリ頭を掻き、
「それでは、予定がつけば、明日にでもお連れしますよ」
 と話し、部屋から去った。

「これが本当なら、明日にでも電話は来る」
 マスターが言う。
「今日の用事はなんだ? 伊吹」
「.........いや、後で話す。今日はなんだか疲れたし......」
 「そうか」
「わたしはもう帰るよ」
「送ろうか?」
「一人で大丈夫だ。襲撃のほうも落ち着いているようだから」
 伊吹は微笑み、部屋から出た。 


 伊吹はとぼとぼ歩いていたが、公園に寄った。
 ベンチに腰掛け、溜め息をつく。

「きらびやかな世界だったな」

 空を見上げたら三日月。

「しばらく、星すらも見ていなかったなぁ」

 ベンチに寝っ転がり、空を見る。
 
「星は見えるか?」
「雲に掛かっていてあまりみえん」
「そう」
(ん? 誰と話してるんだ? わたしは?) 
 腰に吊るしてある拳銃に手を掛けた。

「待て! 俺だっ」
 裕太郎の慌てた声。
「裕太郎か?! 驚いたな」
 伊吹は微笑んだ。
 裕太郎も空を見上げる。
「三日月かぁ......。それでも綺麗だな」
「うん。裕太郎」
「なんです?」

「.........何回、わたしに好きだと言った?」

「え.........?」
 裕太郎はポカンとする。 
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