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46 酒は飲めぬが、すき焼きは食う
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それから二週間近くその訓練は続き、伊吹の筋トレ効果もあってか、池山と対等に向き合えるようになってきた。逃げ腰ではなく、正々堂々としてる。
見ている方も堪えられるくらい。
池山を押し退ける力も蓄えられたみたいだ。
(時代劇を見ているようだ......)
降旗軍曹の感想である。
すると、大前大尉がやってきて、
「おお、噂通り上達したか?」
と、声を上げた。
二人はすぐにやめて、敬礼する。
「なぁに、固い事はいい。これからどうだ? すき焼きでも行かんか?」
「すき焼きですか?!」
伊吹が目を輝かせた。
「みんなで一緒にどうだ?」
「お言葉を返すようで、申し訳ないのですが、自分は妹が用意してくれる夕飯が......」
「なら、妹も誘ったらいい」
池山中尉と降旗軍曹は、伊吹に突っ込みたくなった。
(そこはお前の言う台詞じゃない......)
男二人の妙な空気に気づいた大前大尉は、
「わーっははははっ!」
と、豪快に笑った。
「なぁに、妹さんも誘いなさい」
「で、ですが!」
恐縮してしまう降旗軍曹。
「大前大尉もそう言ってくれてる」
(こんの財閥令嬢!)
降旗軍曹は戦慄いたものの、伊吹がにこっとするだけで帳消しとなってしまう。
「......それでは妹と一緒に参ります」
「うん、場所はな......」
高級すき焼き店、【古河】という店に来ている。完全個室の店だ。
「君ぐらいの階級なら、簡単に予約出きるし、たまにはどうだ? ん?」
と、大前大尉が伊吹に教え込む。
「......酒、飲めませんしね」
「小遣い制だしな」
と、しれっと池山。
その言葉に伊吹はむぅっとする。
すると三十分後に、降旗軍曹と妹のキヨ子がやってきた。
「は、初めまして!」
キヨ子は正座をして頭を下げた。
前崎に鍛えられただけあり、礼儀は人並みになっている。ワンピースも清楚なものに変わっていた。
「君が降旗キヨ子君だね。今は更正して藤宮少尉の屋敷で働いているとか」
「は、はいっ!」
「劇的な進化でよかったよ」
「このワンピースも自分が働いた金で買ったのが嬉しくて」
言葉はなってない時があるが、仕方ない。
嬉しそうに笑うキヨ子を見たのは初めてだ。
(忙しくて、あまり見てなかったなぁ)
「そうか、降旗軍曹もこれで安心だな。おーい、女将、宴の準備だ」
女将は顔を出し、古河の女将と挨拶をした。
「お、お嬢様、お久しぶりです」
「そうだったな。最近は夜も会えない。何か不便な事はないか?」
「め、滅相もないです! よくしてくださっています」
「ゴロツキと会わなくてすむだろう」
「兄ちゃん.........いぇ、お兄さんの面倒見なきゃいけないですし」
キヨ子は嬉しそうに言う。
「そうだな..........」
ブラコンだな、と、思う伊吹だ。
すき焼きが出来ると、
「キヨ子君、遠慮なくどうぞ」
と、もじもじしているキヨ子を見て言う。
「先に大尉殿が箸で積まんでくれないと、手を出せませんよ」
(多少の礼儀はあるもんだな)
と、池山中尉と降旗軍曹。
「あぁ、すまんすまん。それではいただこう」
牛肉を掬い、卵と一緒に絡めて食べ始めた。
「んんーーっ。やっぱ古河の肉は旨いな!」
「ありがとうございます」
「女将、じゃんじゃん持って来てくれ!」
「嬉しいお言葉です」
女将に小さな封筒を渡し、いそいそ部屋から出て行く。
「あれはなんです?」
と、伊吹。
「お心積もりだよ。ああすればよくしてくれるんだ」
「そうなのですか?」
「そうゆう遊び、知らんのだなぁ」
大前大尉はくすくす笑う。
「肉が固まるから、食え」
「頂きます!」
伊吹は池山と降旗が食べるのを待って食べ始めた。キヨ子はそれを見て、真似をする。
(そうか、彼女に礼儀作法を然り気無く教えていたのか.........。普段の伊吹なら真っ先に、飛び付くのに)
池山はそれを観察し、ほくそ笑んで、酒を飲んだ。
「う、旨い! 牛肉なんて初めて食べたよ、兄ちゃん!」
キヨ子は嬉しそうに頬張っている。
「大尉殿、妹までありがとうございます!」
「そんな畏まるな.........。なんだか練習をしているというから、様子を見たくなったんだが、少尉が少し疲れたように見えたからついな.........」
確かに伊吹のすき焼きを食らう食いっプリ、はすごいものがある。
酒を飲まないから尚更で、余計に目立つ。
「お、お嬢様.........、邸宅でも牛の肉を出すように相談しましょうか?」
心配になったほどのキヨ子だ。
「ん? 芳江が許さんだろ」
(しっかり者のメイドがいるのか..........)
と思う三人の男衆だ。
「状況が分かればそんな事ないですよ」
「心配するだろう、みんなが」
「す、すみません」
「腹が減ってるだけだ。池山のせいで」
池山の名前が出たので口にした酒を吹いてしまう。
「そこまで気を遣わなくて悪かったな」
「いや、大前大尉のお陰で、肉が食えた」
「言わなくて言い事を.........」
「お前もな。あ......、飯が終わった.........」
(1人で一合食ったか)
と思う男衆。くったくなく大前大尉は笑いながら、
「女将に頼め。あと、肉と酒の追加もな」
と、付け加えた。
伊吹はニコッと微笑み、襖を開けて、
「女将さーん! 飯と肉と酒の追加お願いしまーす」
と、頼んだ。
女将は、「はーいっ」、と、嬉しそうな声を出した。
見ている方も堪えられるくらい。
池山を押し退ける力も蓄えられたみたいだ。
(時代劇を見ているようだ......)
降旗軍曹の感想である。
すると、大前大尉がやってきて、
「おお、噂通り上達したか?」
と、声を上げた。
二人はすぐにやめて、敬礼する。
「なぁに、固い事はいい。これからどうだ? すき焼きでも行かんか?」
「すき焼きですか?!」
伊吹が目を輝かせた。
「みんなで一緒にどうだ?」
「お言葉を返すようで、申し訳ないのですが、自分は妹が用意してくれる夕飯が......」
「なら、妹も誘ったらいい」
池山中尉と降旗軍曹は、伊吹に突っ込みたくなった。
(そこはお前の言う台詞じゃない......)
男二人の妙な空気に気づいた大前大尉は、
「わーっははははっ!」
と、豪快に笑った。
「なぁに、妹さんも誘いなさい」
「で、ですが!」
恐縮してしまう降旗軍曹。
「大前大尉もそう言ってくれてる」
(こんの財閥令嬢!)
降旗軍曹は戦慄いたものの、伊吹がにこっとするだけで帳消しとなってしまう。
「......それでは妹と一緒に参ります」
「うん、場所はな......」
高級すき焼き店、【古河】という店に来ている。完全個室の店だ。
「君ぐらいの階級なら、簡単に予約出きるし、たまにはどうだ? ん?」
と、大前大尉が伊吹に教え込む。
「......酒、飲めませんしね」
「小遣い制だしな」
と、しれっと池山。
その言葉に伊吹はむぅっとする。
すると三十分後に、降旗軍曹と妹のキヨ子がやってきた。
「は、初めまして!」
キヨ子は正座をして頭を下げた。
前崎に鍛えられただけあり、礼儀は人並みになっている。ワンピースも清楚なものに変わっていた。
「君が降旗キヨ子君だね。今は更正して藤宮少尉の屋敷で働いているとか」
「は、はいっ!」
「劇的な進化でよかったよ」
「このワンピースも自分が働いた金で買ったのが嬉しくて」
言葉はなってない時があるが、仕方ない。
嬉しそうに笑うキヨ子を見たのは初めてだ。
(忙しくて、あまり見てなかったなぁ)
「そうか、降旗軍曹もこれで安心だな。おーい、女将、宴の準備だ」
女将は顔を出し、古河の女将と挨拶をした。
「お、お嬢様、お久しぶりです」
「そうだったな。最近は夜も会えない。何か不便な事はないか?」
「め、滅相もないです! よくしてくださっています」
「ゴロツキと会わなくてすむだろう」
「兄ちゃん.........いぇ、お兄さんの面倒見なきゃいけないですし」
キヨ子は嬉しそうに言う。
「そうだな..........」
ブラコンだな、と、思う伊吹だ。
すき焼きが出来ると、
「キヨ子君、遠慮なくどうぞ」
と、もじもじしているキヨ子を見て言う。
「先に大尉殿が箸で積まんでくれないと、手を出せませんよ」
(多少の礼儀はあるもんだな)
と、池山中尉と降旗軍曹。
「あぁ、すまんすまん。それではいただこう」
牛肉を掬い、卵と一緒に絡めて食べ始めた。
「んんーーっ。やっぱ古河の肉は旨いな!」
「ありがとうございます」
「女将、じゃんじゃん持って来てくれ!」
「嬉しいお言葉です」
女将に小さな封筒を渡し、いそいそ部屋から出て行く。
「あれはなんです?」
と、伊吹。
「お心積もりだよ。ああすればよくしてくれるんだ」
「そうなのですか?」
「そうゆう遊び、知らんのだなぁ」
大前大尉はくすくす笑う。
「肉が固まるから、食え」
「頂きます!」
伊吹は池山と降旗が食べるのを待って食べ始めた。キヨ子はそれを見て、真似をする。
(そうか、彼女に礼儀作法を然り気無く教えていたのか.........。普段の伊吹なら真っ先に、飛び付くのに)
池山はそれを観察し、ほくそ笑んで、酒を飲んだ。
「う、旨い! 牛肉なんて初めて食べたよ、兄ちゃん!」
キヨ子は嬉しそうに頬張っている。
「大尉殿、妹までありがとうございます!」
「そんな畏まるな.........。なんだか練習をしているというから、様子を見たくなったんだが、少尉が少し疲れたように見えたからついな.........」
確かに伊吹のすき焼きを食らう食いっプリ、はすごいものがある。
酒を飲まないから尚更で、余計に目立つ。
「お、お嬢様.........、邸宅でも牛の肉を出すように相談しましょうか?」
心配になったほどのキヨ子だ。
「ん? 芳江が許さんだろ」
(しっかり者のメイドがいるのか..........)
と思う三人の男衆だ。
「状況が分かればそんな事ないですよ」
「心配するだろう、みんなが」
「す、すみません」
「腹が減ってるだけだ。池山のせいで」
池山の名前が出たので口にした酒を吹いてしまう。
「そこまで気を遣わなくて悪かったな」
「いや、大前大尉のお陰で、肉が食えた」
「言わなくて言い事を.........」
「お前もな。あ......、飯が終わった.........」
(1人で一合食ったか)
と思う男衆。くったくなく大前大尉は笑いながら、
「女将に頼め。あと、肉と酒の追加もな」
と、付け加えた。
伊吹はニコッと微笑み、襖を開けて、
「女将さーん! 飯と肉と酒の追加お願いしまーす」
と、頼んだ。
女将は、「はーいっ」、と、嬉しそうな声を出した。
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