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41 裕太郎の誘い①
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そうして、それぞれ別れたあと、
「車をここに置いておいて、少し歩くか」
「そうだな......」
伊吹は微笑んだ。
港の近くなので、たまに船から汽笛が聞こえてくる。
出征する兵隊が、もじもじしている女性の肩を寄せた。
(恋人か......。ここからだと満天国だろうな......)
裕太郎も神妙な顔付きで、二人の様子を見て
いた。裕太郎は溜め息を吐いて、
「行こう」
と、伊吹を促した。
裕太郎は鼻唄を歌い出した。
「......子どもたち、懐いていたな」
と、伊吹。
「大人というのを忘れてくれる存在だな」
「童心に返るってやつだろう」
伊吹は微笑む。
「......どっちから手を繋いだ?」
「なんだよ、いきなり...」
唐突に言う伊吹に慣れ始めた裕太郎だ。
「いや......、気になってな」
「タイミングじゃないのか......」
「お互い、嫌ではないって事だよな」
「嫌でなければ、遊園地すら興味ないだろ」
珍しく辛辣な口調の裕太郎。
「そ、そうだな」
いつもの裕太郎ではない違った面を見た伊吹は、歩くのを止める。
「あの兵隊......」
伊吹がそっと口を開いた。
「戦争に行くんだな......。新聞にはあまり載っていないけど...、出征した人が......」
その後、言うのをやめた。
裕太郎は、握り拳を作る。
「会えば会うほど辛くなる...かもな......」
と、伊吹。
「いや。会わないと、辛くなる」
「女々しいやつだな......。って、わたしは男か......。戦争にも行った事のない、単なる男装軍人なのにな」
「男装軍人でいいじゃないか」
「軍人としての立場だ。それが嫌なんだ。冷笑されてるようでな」
「放っておけばいいさ」
「生きている間に、名誉が欲しいんだ」
「男装軍人で、世間を賑わせてるじゃないか」
「そんなんじゃなくて、わたしだって戦いたいっ!」
「戦って何になるんだっ! 俺は正直、死にたくないねっ! 伊吹に問うが、何のために戦う」
「何の......ため?」
「そうだ! 何のためにっ!」
「そうやって生きてきたんだ。軍人としての誇りだよ! 貴様には関係ないだろう!」
「関係あるんだよ。伊吹を......知ってしまったために......。遊園地に誘われた時は、嬉しくてたまらなかった......。マスターに酷い仕打ちをされて、伊吹が涙を流した時は、守りたくて仕方なかった! 手を握った時は......、嬉しかったんだ。それなのに、君は関係ないと言って、人の気持ちを無碍にする」
伊吹は裕太郎の言葉に、唇を噛み締めた。
「......お前だって、可愛らしいパトロンがいるくせにっ。それで...、それで.......!」
これ以上言ったら裕太郎を傷付けてしまう。
(抱き締めて欲しい......、抱き締めてくれ......)
伊吹は涙を流し始めた。
涙で詰まる。
「金を貰ってるくせにっ!」
そう言い放すと、裕太郎は伊吹の腕を取り、引き寄せて抱き締める。
「あ......っ」
「酷い事を言ったから、言わせたかったんだ」
「そ...、そんな.........」
「すまない。傷付けた」
その言葉に、伊吹も抱き締めた。
「馬鹿......だな...」
裕太郎のシャツから微かに劇場の匂い。
「ルージュ劇場の匂いがする......」
「そう?」
裕太郎は優しく伊吹の頭を撫でる。
「裕太郎の匂いだ。緑里と一緒にいた時は、緑里の香水が鼻に吐いていて、嫌だったな」
「......あぁ、あの時、なんか怒っているように感じたのはそれだったか 」
裕太郎は苦笑した。
「まぁ、な......。気になっていたのか?」
「ああ」
裕太郎は照れ臭そうに、鼻の上を掻いた。
「裕太郎は赤いルージュ劇場の匂いだ」
恥ずかしげもなく言う伊吹。二人は自然と仲を取り戻していた。喧嘩しても仲良くなる夫婦のように......。
「まだ17時か」
「夜には帰るとは言ってあるんだが......」
「夜でも何時だ?」
「さぁ」
伊吹は首を振る。
「......汚い寮だが、部屋に来ないか?」
「.........え?」
「珈琲を一緒に飲もう」
「それもいいな」
「俺の住むところは知らないだろうし」
「楽しみだ」
「期待するなよ」
ラフな言い方へ変わりつつある裕太郎だ。
伊吹はいじらしく裕太郎の身体に軽くつついた。裕太郎はそれが可愛くて仕方なかった。
「車をここに置いておいて、少し歩くか」
「そうだな......」
伊吹は微笑んだ。
港の近くなので、たまに船から汽笛が聞こえてくる。
出征する兵隊が、もじもじしている女性の肩を寄せた。
(恋人か......。ここからだと満天国だろうな......)
裕太郎も神妙な顔付きで、二人の様子を見て
いた。裕太郎は溜め息を吐いて、
「行こう」
と、伊吹を促した。
裕太郎は鼻唄を歌い出した。
「......子どもたち、懐いていたな」
と、伊吹。
「大人というのを忘れてくれる存在だな」
「童心に返るってやつだろう」
伊吹は微笑む。
「......どっちから手を繋いだ?」
「なんだよ、いきなり...」
唐突に言う伊吹に慣れ始めた裕太郎だ。
「いや......、気になってな」
「タイミングじゃないのか......」
「お互い、嫌ではないって事だよな」
「嫌でなければ、遊園地すら興味ないだろ」
珍しく辛辣な口調の裕太郎。
「そ、そうだな」
いつもの裕太郎ではない違った面を見た伊吹は、歩くのを止める。
「あの兵隊......」
伊吹がそっと口を開いた。
「戦争に行くんだな......。新聞にはあまり載っていないけど...、出征した人が......」
その後、言うのをやめた。
裕太郎は、握り拳を作る。
「会えば会うほど辛くなる...かもな......」
と、伊吹。
「いや。会わないと、辛くなる」
「女々しいやつだな......。って、わたしは男か......。戦争にも行った事のない、単なる男装軍人なのにな」
「男装軍人でいいじゃないか」
「軍人としての立場だ。それが嫌なんだ。冷笑されてるようでな」
「放っておけばいいさ」
「生きている間に、名誉が欲しいんだ」
「男装軍人で、世間を賑わせてるじゃないか」
「そんなんじゃなくて、わたしだって戦いたいっ!」
「戦って何になるんだっ! 俺は正直、死にたくないねっ! 伊吹に問うが、何のために戦う」
「何の......ため?」
「そうだ! 何のためにっ!」
「そうやって生きてきたんだ。軍人としての誇りだよ! 貴様には関係ないだろう!」
「関係あるんだよ。伊吹を......知ってしまったために......。遊園地に誘われた時は、嬉しくてたまらなかった......。マスターに酷い仕打ちをされて、伊吹が涙を流した時は、守りたくて仕方なかった! 手を握った時は......、嬉しかったんだ。それなのに、君は関係ないと言って、人の気持ちを無碍にする」
伊吹は裕太郎の言葉に、唇を噛み締めた。
「......お前だって、可愛らしいパトロンがいるくせにっ。それで...、それで.......!」
これ以上言ったら裕太郎を傷付けてしまう。
(抱き締めて欲しい......、抱き締めてくれ......)
伊吹は涙を流し始めた。
涙で詰まる。
「金を貰ってるくせにっ!」
そう言い放すと、裕太郎は伊吹の腕を取り、引き寄せて抱き締める。
「あ......っ」
「酷い事を言ったから、言わせたかったんだ」
「そ...、そんな.........」
「すまない。傷付けた」
その言葉に、伊吹も抱き締めた。
「馬鹿......だな...」
裕太郎のシャツから微かに劇場の匂い。
「ルージュ劇場の匂いがする......」
「そう?」
裕太郎は優しく伊吹の頭を撫でる。
「裕太郎の匂いだ。緑里と一緒にいた時は、緑里の香水が鼻に吐いていて、嫌だったな」
「......あぁ、あの時、なんか怒っているように感じたのはそれだったか 」
裕太郎は苦笑した。
「まぁ、な......。気になっていたのか?」
「ああ」
裕太郎は照れ臭そうに、鼻の上を掻いた。
「裕太郎は赤いルージュ劇場の匂いだ」
恥ずかしげもなく言う伊吹。二人は自然と仲を取り戻していた。喧嘩しても仲良くなる夫婦のように......。
「まだ17時か」
「夜には帰るとは言ってあるんだが......」
「夜でも何時だ?」
「さぁ」
伊吹は首を振る。
「......汚い寮だが、部屋に来ないか?」
「.........え?」
「珈琲を一緒に飲もう」
「それもいいな」
「俺の住むところは知らないだろうし」
「楽しみだ」
「期待するなよ」
ラフな言い方へ変わりつつある裕太郎だ。
伊吹はいじらしく裕太郎の身体に軽くつついた。裕太郎はそれが可愛くて仕方なかった。
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