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40 子どもたちとたわむれる

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 まるで裕太郎を立てるように、運転は裕太郎に変わり、遊園地に着いた。
 二人は手を握って遊園地に入る。
 大前大尉は二人の姿に驚く。
「な、なんだ。ビックカップルだな」
「えっ?」
 伊吹は手を見ると、慌てて手を離した。
「い、いやっ!! そんなつもりは...」
 すると、よそでちょこまかしていた大前大尉の二人の子供たちがやってきた。二人とも女の子だ。名前は長女が愛子、次女が英子。
「わーっ! 伊吹おねえちゃま! あっ! 裕太郎だっ!! わーいっ」
 彼の奥様がやってくる。しおらしい女性だ。
 どうやらお腹に胎児がいるようだ。お腹を手で抱えていた。
「あら、赤いルージュ劇場の裕太郎様。よく見に行きます。雑誌も......」
「そうでしたか。だからお子さんも」
「よくかっこいい、かっこいいと。でも、子どもですから、連れていくのはまだお早いでしょう」
 ふふっと笑うところが上品ではあるが、
(この奥方もなかなかだな)
 と、思ってしまう伊吹だ。
「裕太郎様、初めまして。妻の美千子です」
「初めまして」
 裕太郎は丁寧に二人に頭を下げる。
「まさか伊吹さんの好い人とは、思いませんでしたわ」
(い、好い人なのか......)
 今だに自覚していない、恋に疎い財閥令嬢。
「まぁ、何にせよ...、藤宮君もそれなりに楽しんでいてよかった」
 と、大前大尉。
 彼は伊吹に近づき、
「てっきり池山君を連れてくるかと思っていた」
 と、耳元で囁いた。
「ただの同期です」
 裕太郎に聞こえないよう、ひっそりと呟いた。
 大前大尉はふふっと微笑む。

 子どもたちは次はあれ、これ、と、はしゃぎ回ったり、伊吹は、また、手を繋ぎ始めた。

「今度はあの観覧車!」
 初めて出来たという観覧車だ。
「わたしもあれに乗りたい」
 伊吹は嬉々として言った。
「眺めがよさそうだな」
 裕太郎も嬉しそうに言った。
「わたしはこのベンチで待っていますので、楽しんでらっしゃいな」
 と、美千子。
「それを乗ったら、お昼にしよう」
「お昼......。すっかり忘れていた!」
 と、伊吹。
「お弁当を拵えましたので、安心して下さい」
 美千子はニコッとした。 
「ありがとうございます。そうか、遊園地にはお弁当でしたね。今度はメイドに作って貰おう」
 会話のレベルが違う事に、大人三人は目を丸くする。
「出来たら、伊吹が作ったお弁当がいいんだけど...」
 と、裕太郎。
「わたしに出来るわけないだろう」
「......そうなのかい?」
 裕太郎は肩を落とす。
「料理したことがない」
「生粋のご令嬢だ」
 裕太郎は苦笑した。
 大前大尉と美千子婦人は二人のやり取りに、微笑ましく見ている。
「......裕太郎の好きな食べ物って、なんだ?」
 伊吹は恥ずかしそうに聞く。
「......卵焼き、みそ汁......、きんぴらごぼうとか?」
「オーソドックスだな......」
 伊吹はそれだけ呟いたので、裕太郎は、
「.........?」
 に、なった。

 日も暮れ始め、
「さぁ、そろそろ終わりだ」
 と、大前大尉が声を掛ける。
「えー、まだ遊びたーいっ」
「明日も早いからね」
「裕太郎、かくれんぼしながら駐車場まで帰ろーっ」
 すっかり二人の子どもに懐かれた裕太郎だ。
「どうやって? それなら、鬼ごっこだ!」
 裕太郎はがぉーっと、両腕を上げた。子どもたちは嬉々として、入り口ではない方へ、逃げまくる。
「そっちじゃない!」
 子どもたちの笑い声。
 その光景に伊吹は笑う。
「待てぇー」
 伊吹も追いかける。英子を入り口へとわざと誘導させて、二人とも外へ出てしまう。
「あっ! えいちゃん!」
 見えなくなった妹を心配した愛子は、入り口へ。愛子の姿も見えなくなった裕太郎は、夫妻に、
「どうしたのかな?」
 と、不安になって呟く。
 小走りで見に行くと、

「わーーーっ!」

 と、三人は大声で裕太郎を驚かした。
 ビクリッとなたものの、みんなが笑っていたので、裕太郎も一緒に笑った。
「おにいちゃま、肩車して」
 と、せがんだのは英子。
「よーしっ」
 裕太郎は嬉しそうに、英子に肩車。
「今度はわたし! 今度はわたしっ!」
 と、愛子。 
 
 大前夫妻は微笑ましく伊吹たちを見守っていた。 

 
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