33 / 78
33 ...その夜から、朝②
しおりを挟む
「えっ? ちょっと反対じゃないの?」
裕太郎はすぐ迎いにある停車駅ではなく、反対方向へ歩き出した。
「始発の電車だよ」
「へえ、健全な事をなさる」
「嫌なら来るな」
「あら、見てみたいじゃない」
「くれぐれも、傷つけるような事を言うなよ」
「やっさしいのね」
「......くどいと怒るぞ」
裕太郎は真顔になる。緑里は肩を竦めた。
「え?」
緑里は軍服姿が、停留所で待っているのを見つけて声を出した。
遠くからではあるが、すらりとした姿は、女性なら振り向かざるを得ないほどの、男装の麗人。「まさか......、待っていたのか?」
近づくにつれて、それは伊吹だった。
分厚い本を読んでいるようだ。
「伊吹」
裕太郎は声を掛けた。
どうやら本に集中力しているようだ。
「伊吹っ!」
少し声を上げたら、振り向く。
満面の笑みは、二十歳になる前なのに、少女に見える。
「裕太郎、おはよう」
「待っていたのか......?」
「今度の電車で来なければ、行こうと思っていたんだ」
「ごめんなさいね、伊吹」
緑里がべったりと裕太郎の隣につく。
まるで恋人のように、くっつく。
「おい、やめろ」
「あら、夜を一緒に過ごしたんだから、いいじゃない」
「......緑里」
と言ったのは、伊吹。
「なぁに?」
「裕太郎が、嫌がってるぞ」
緑里はむぅっとした。焼きもちを妬くと思った緑里だ。
「男なんだから......」
「緑里もどうだ? これから出発するぞ」
「いい。歩いて行くから」
「なんだよ......」
と、伊吹。
電車に乗る。
始発でも朝なので混んでいた。
伊吹は黙ったまま、吊り革に捕まっていた。
伊吹から嫌な空気が流れている。
「伊吹......?」
眉間に皺が寄ったまま。
「なんだ」
こちらを見ようとしない。
「その.........」
「次じゃないのか? 降りるの」
「あ、そうか......」
車掌が、停車駅を言うと電車が止まる。
「明日」
と、辛辣に言っただけ。
裕太郎はもどかしさを抱えながらも、電車から降りた。
裕太郎はその電車が見えなくなるまで、見守っていた。
(緑里には見せなかったけど、あれは、なんか怒っていたな。明日は遅刻しないようにしないと)
裕太郎は早足で劇場に向かった。
※ ※ ※
裕太郎が電車から降りたあと、伊吹は泣きたくなった。緑里の香水の香りが、生々しく、鼻腔に付きまとって気持ち悪かったのだ。
あからさま過ぎだ。
男女の関係が、ふしだらにさえ思えた。
(あいつの匂いは、あの独特な劇場の匂いなのに......)
手に届く事のない、とりとめもない感情が、また伊吹を支配した。
裕太郎はすぐ迎いにある停車駅ではなく、反対方向へ歩き出した。
「始発の電車だよ」
「へえ、健全な事をなさる」
「嫌なら来るな」
「あら、見てみたいじゃない」
「くれぐれも、傷つけるような事を言うなよ」
「やっさしいのね」
「......くどいと怒るぞ」
裕太郎は真顔になる。緑里は肩を竦めた。
「え?」
緑里は軍服姿が、停留所で待っているのを見つけて声を出した。
遠くからではあるが、すらりとした姿は、女性なら振り向かざるを得ないほどの、男装の麗人。「まさか......、待っていたのか?」
近づくにつれて、それは伊吹だった。
分厚い本を読んでいるようだ。
「伊吹」
裕太郎は声を掛けた。
どうやら本に集中力しているようだ。
「伊吹っ!」
少し声を上げたら、振り向く。
満面の笑みは、二十歳になる前なのに、少女に見える。
「裕太郎、おはよう」
「待っていたのか......?」
「今度の電車で来なければ、行こうと思っていたんだ」
「ごめんなさいね、伊吹」
緑里がべったりと裕太郎の隣につく。
まるで恋人のように、くっつく。
「おい、やめろ」
「あら、夜を一緒に過ごしたんだから、いいじゃない」
「......緑里」
と言ったのは、伊吹。
「なぁに?」
「裕太郎が、嫌がってるぞ」
緑里はむぅっとした。焼きもちを妬くと思った緑里だ。
「男なんだから......」
「緑里もどうだ? これから出発するぞ」
「いい。歩いて行くから」
「なんだよ......」
と、伊吹。
電車に乗る。
始発でも朝なので混んでいた。
伊吹は黙ったまま、吊り革に捕まっていた。
伊吹から嫌な空気が流れている。
「伊吹......?」
眉間に皺が寄ったまま。
「なんだ」
こちらを見ようとしない。
「その.........」
「次じゃないのか? 降りるの」
「あ、そうか......」
車掌が、停車駅を言うと電車が止まる。
「明日」
と、辛辣に言っただけ。
裕太郎はもどかしさを抱えながらも、電車から降りた。
裕太郎はその電車が見えなくなるまで、見守っていた。
(緑里には見せなかったけど、あれは、なんか怒っていたな。明日は遅刻しないようにしないと)
裕太郎は早足で劇場に向かった。
※ ※ ※
裕太郎が電車から降りたあと、伊吹は泣きたくなった。緑里の香水の香りが、生々しく、鼻腔に付きまとって気持ち悪かったのだ。
あからさま過ぎだ。
男女の関係が、ふしだらにさえ思えた。
(あいつの匂いは、あの独特な劇場の匂いなのに......)
手に届く事のない、とりとめもない感情が、また伊吹を支配した。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
日本には1942年当時世界最強の機動部隊があった!
明日ハレル
歴史・時代
第2次世界大戦に突入した日本帝国に生き残る道はあったのか?模索して行きたいと思います。
当時6隻の空母を集中使用した南雲機動部隊は航空機300余機を持つ世界最強の戦力でした。
ただ彼らにもレーダーを持たない、空母の直掩機との無線連絡が出来ない、ダメージコントロールが未熟である。制空権の確保という理論が判っていない、空母戦術への理解が無い等多くの問題があります。
空母が誕生して戦術的な物を求めても無理があるでしょう。ただどの様に強力な攻撃部隊を持っていても敵地上空での制空権が確保できなけれな、簡単に言えば攻撃隊を守れなけれな無駄だと言う事です。
空母部隊が対峙した場合敵側の直掩機を強力な戦闘機部隊を攻撃の前の送って一掃する手もあります。
日本のゼロ戦は優秀ですが、悪迄軽戦闘機であり大馬力のPー47やF4U等が出てくれば苦戦は免れません。
この為旧式ですが96式陸攻で使われた金星エンジンをチューンナップし、金星3型エンジン1350馬力に再生させこれを積んだ戦闘機、爆撃機、攻撃機、偵察機を陸海軍共通で戦う。
共通と言う所が大事で国力の小さい日本には試作機も絞って開発すべきで、陸海軍別々に開発する余裕は無いのです。
その他数多くの改良点はありますが、本文で少しづつ紹介して行きましょう。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
古色蒼然たる日々
minohigo-
歴史・時代
戦国時代の九州。舞台装置へ堕した肥後とそれを支配する豊後に属する人々の矜持について、諸将は過去と未来のために対話を繰り返す。肥後が独立を失い始めた永正元年(西暦1504年)から、破滅に至る天正十六年(西暦1588年)までを散文的に取り扱う。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる