モダンな財閥令嬢は、立派な軍人です~愛よりも、軍神へと召され.....

逢瀬琴

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26 伊吹の嫉妬

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 帰れば十一時を過ぎていた。

 玄関先には芳江が律儀にも待っていた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
 芳江が丁寧にお辞儀をした。
「なんだ。待っていたのか?」
「はい。昨夜から会っておりませんでしたので」
「そうだったな」 
 伊吹は驚いた。
「明日も早いだろうに」
「いえ、大丈夫です。何か軽い物でも召し上がりますか?」
「そうだな。みそ汁がいい」
「かしこまりました」
 にこりと微笑んで、厨房へと向かった。

 部屋に入った伊吹はベットに倒れ込んだ。
「疲れた、な」
 目を閉じると、
 裕太郎が浮かんだ。
(会いたいのに会いたくない)
 涙を浮かべ、芳江の作るみそ汁も待たずに、そのまま眠ってしまった。 

 陸大の授業が終わる。池山は、
「大前大尉と話があるから、先に行っててくれ」
 と行ったので、
 外へ出ると、裕太郎が待っていた。
「裕太郎.........」
「酷い顔だ」 
 裕太郎は伊吹の顔を見て、ラフな言い方になる。
「あんま見るな」
「緑里から聞いたよ。大変な目にあったね」
「.........昨日も、来たのか?」
「約束だったから。あと、約束しなければいけない」
「いや、それはもういいんだ」
「どうして?」
「こんな顔をしているんだ。楽しくないだろう」
「気にしてないよ」
「いや、いい」
「伊吹さんが嫌でも、俺はいいんだよ。ほんとは、すごく嬉しかったんだ」
「こんな顔でも?」
「やられた後でも前でも関係ないさ。やられたんだろう? むしろ心配だよ。すぐに駆けつけたかった」
 伊吹はその言葉を聞いて恥ずかしくなると、髪を耳に掛けた。
「なんだよ。どうせあの可愛らしいご令嬢のところにいたんだろう?」
 意地悪を言ってしまう。
「面目ない。生活が掛かってたから」
「最低だ」
 そんな事を言いたくないのに、
 どうしてだろう。
 困った顔をしてしまう裕太郎だ。

「だけど、そう思ってくれて嬉しい」
 と、裕太郎。
「えっ?」
「焼きもち、でしょ?」
 裕太郎は意地悪くはにかむ。
「これが焼きもちというのか?!」
「え?」
 裕太郎はひきつる。
「結構大変なのだな」
 ふーん、と、納得したように頷いている。

(俺に恋をしている) 

 自惚れでもなく、明確だった。
 分かりやすくて大丈夫だろうかとすら、思ってしまうくらいだ。
「まだ開場には時間あるよな」
 と、伊吹。
 裕太郎は頷く。
「それじゃ、喫茶店に行かないか? そこなら珈琲もある」
 いつも彼女には驚かされる。
 
 伊吹は、裕太郎の表情を見て、
「あっ、すまない。ついうっかり」
 と謝る。
「いや、大丈夫」
「赤いルージュ劇場から近いんだ」
「そうか?」
「ああ」
「いいね」
「だろう?」
 伊吹は微笑むと顔を歪めた。
「大丈夫か?」
「微笑むことも出きんな」
 伊吹は苦笑した。
「無理するな」
 伊吹は裕太郎を見つめると、ドキドキしてしまい目を反らした。 
 
 喫茶店では一部の女性が裕太郎に気づいて、憧れの表情を向ける。
 素敵よね、やはり。もっと活躍なさらない、だとか。そうして、伊吹にも注目が来る。
 裕太郎様のお連れも素敵。エリート大学の将校よ。という会話が届く。

(女と見られなくてよかった)
 裕太郎はそう思った。
 が、
(なんだよ、最低な考えだ)
 とも思ってしまった。

 先程頼んだパルフェに珈琲が届く。
「これを見た時は衝撃だったんだ」
「今まで食べた事あるのかと......」
「いや、そんな事はない」
 スプーンでアイスクリンをすくう。顔が綻んだ。

 見て見て、軍人さん可愛いんだけどー。

 若い女性たちがこそこそ喋っているのが、丸聞こえで、ある意味残酷。
 
 思わず伊吹は吹きこぼしてしまう。

 裕太郎もそれがなんとなく可愛らしくて、愛おしくなってしまう。ハンカチを渡す。
「す、すまない」
「......いや」
「俺も頼んでみよう」
「えっ?」
「うまいか?」
「ああ......」 

 パルフェがやってきた。
「伊吹の好きを共有できる」
 呼び捨てになっていた。
(パトロンがいるのに、そんな事を言うのか? それが裕太郎の手か? わたしは、なんで誘ってしまったんだ)
 伊吹は手を止めた。
  このもやもやはなんなのだろうか。どす黒いものが支配する。
「どうした?」
 裕太郎が聞いてくる。
「所詮、看板スターだよな」
 伊吹の皮肉。  
 裕太郎は伊吹を捉える。
「何を考えた?」 
 咎めるでもなく、優しい口調。
「放っておけ」
 辛辣な一言。
 裕太郎は溜め息をついて、アイスクリンを一口。

「甘い......」
 と言って、顔を歪める。
「甘いの嫌いだったか?......」
「実は」
「無理をするな」
「珈琲を飲むから」

(嫌いなら、同じものを頼まないか......)

 今を楽しめばいいさ。
 
(あのもやもやはなんだ?)
 伊吹は、妙な感情から、
 理性を取り戻した。 

 嫉妬というのを、まだ、伊吹は自覚していない。

 
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