モダンな財閥令嬢は、立派な軍人です~愛よりも、軍神へと召され.....

逢瀬琴

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25 降旗軍曹の妹とは?

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「学校はどうする?」
 謙三が聞いてきた。
 官庁で昼食を済ませ、もう2時を回っている。「もう下校ですし」
「そうだな。ああ、そうだ。夕方も、士官学校で活を入れてくれないか、と言う話が来てな」
「他にいらっしゃらないのですか?」
「嫌か?」
「嫌ではありませんが、戦場に行った事もない奴がやったって、説得力ないですよ」
「給金が出る」
「えっ?! 給金ですか?」
「小遣い制で不便だろうからな。夕方のは好きに使っていいぞ」
「いい話ですね」
 胸が踊る。
「少し忙しくなるが、よろしく頼む」
「はい」

 18時から21時の間だ。

「夜は遅くなるから、前崎に使わせよう」
「それは嬉しいです」
 伊吹は微笑んだ。
「今日からでもいいか?」
「えっ?」
 屈託なく言う父である。今日は休みがあるかと思ったのだ。

「戦場に行けば命がけだぞ」

「分かりました」

 それを出されたらどうにもならない。己が甘い証拠であった。
 
 伊吹は答えた。

 邸宅に戻った伊吹は、部屋に入って鏡を見た。
 溜め息を吐き、クローゼットを開けて、見る。
 地味な色ばかり。
「そもそもこんな顔をしていて、遊園地なんかいけるか」
 ふと、目黒三太という名前が浮かぶ。
「くそっ。学校で会ったら、厳しくしてやるからな」
 士官学校なので、会うはずもないのだが。
 
 そうして、姉が帰って来なかった。

 前崎を見つけて聞いてみる。
「ひよりお嬢様でしたら、電話がありまして、今日はお友達のところへ行くからというむねです」
(まさか秘密結社のところではなかろうな)

 あの海軍将校が脳裏に過る。

(分からない事だらけだ。わたしは第三者ではないぞ。なんでもそうだ)
 伊吹は不満な顔をした。

 学校に着くと、池山が早速やってきた。
「酷い顔じゃないか」
 伊吹は苦笑する。
「ああ、酷いだろ」
「結社に巻き込まれて、捕まったんだろう? 酷い話だ」
「そうだ。わたしは悪くないのに。ただ声を上げただけだ」
「え?」
 池山の顔が引きつる。
「自由だと言ったら一緒に捕まった」
「そりゃあ、そうだろう」
「その場にいたら、素直になったんだ」
「そいつらの手だ。そして、その道へ誘い込む」
「一つ気になったのだが」
「なんだ?」
「海軍将校たちもいた」
 池山の表情が急に曇る。
「結社の連中は捕まったのか?」
「いや、奥の方へ逃げきれたらしい。わたしはまんまとそれに釣られた」
「ひょっとして、自分等を盾にしたのかもしれん。最近、取り締まりがうるさいからな」
「そうか」
「伊吹も利用されたんだ。気をつけろよ」
「そうだな」
(姉は利用されやしないだろうか?)
 と、伊吹は不安になった。
 池山に話したところで、心配するだろうと思って話さなかった。 

 
 講堂に近づくと、何やら喧騒が聞こえてきた。

 伊吹と池山は顔を見合わせ、
 講堂へ入った。

 降旗軍曹が部下の襟首を掴んで殴り掛かろうとした。
「やめろ! 何をしてるんだ!」
 池山が二人を引き離す。
「この野郎が俺の妹を馬鹿にしやがったんだ」
「妹?」
 伊吹が聞き返す。
「彼の妹がカフェーでたむろしていた、と」
 他の兵隊が話した。

(まさか、あの少女ではあるまいな?)

 伊吹は眉根を潜めた。
 首にバラの入れ墨をした少女だ。

「そもそもが、首に入れ墨をしている時点でおかしいガキなんだよ」
(やっぱり) 
「てめぇっ!」
 降旗軍曹は襟首を掴んだ。
「やめろ」
 池山が怒鳴り、引き剥がす。
「あれはお前の妹だったか?」
 と、空気も読まずに聞いてくる伊吹だ。

「は?」
 と、降旗軍曹と池山の同時進行。

 空気を読まない伊吹は圧巻であるが、喧嘩も止めてしまう。
「すげー酷い顔をしてますが、何かあったんすか、少尉殿?」
「その少女がたむろしたカフェーに行ってみたら、こうなった」
(これ以上言っても軍曹のメンツがあるだろうしな...) 
「べっぴんさんにひでー事をしやがる」
 降旗軍曹はくくっと喉を鳴らして笑う。
 池山はムゥとした顔をした。

「一度話がしたい」
「どうしてっすか?」
「妹についてなんだが」
「ありがた迷惑」
 ヒラヒラと手で払う。
 
 そうして先生がやってきた。
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