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24 ゴットハンドを持つ軍医は、父の悪友
しおりを挟む「軍医ではあるが、名医を紹介しよう」
館内に入ると、軍人たちが伊吹を見ては少将に、敬礼して素通りして行く。
謙三は治療室をノックする。
名札は遠野育
と、ぶらさがっていた。
「遠野?」
「息子は海軍将校だ。会っただろう」
「お父様は知ってらしたのですか?」
「ああ。小さかった頃からな」
謙三はニタリとした。
「どうぞ」
「悪友よ、久し振りだな」
と、父は言った。
握手をして抱き合う。
「おぉ、伊吹お嬢様...、あぁ、違った。今は少尉ですな。ご立派になられた。が、顔が酷い」
「結社に巻き込まれて、ぶた箱に入れられた」
「............バカ息子が」
「ああ、いや、その場所に行って、知り合ったようだ」
軍医は、
「ほぉ」
と、言って、眉根を上げた。
「なんだかんだと縁はあったようだ」
「え? ご縁とは?」
伊吹はキョトンとした。
「あぁ、小さかった頃の話だから」
軍医は笑った。
「あまり覚えてないようだし」
彼は苦笑いをした。
「まったく」
伊吹はそう言うと、彼は目を剥いた。
「そうだったか。あいつも気の毒に」
そして豪快に笑う。
「椅子に座って見せてくれ」
「はい」
「失礼」
と言って、顎を触る。
「やっぱずれてるね。蹴られた衝撃だな」
「ギャアッ」
伊吹の悲鳴。
「痛いじゃないですか!」
「痛いのは一時、話す度に痛かったんじゃないのかね」
「あっ......。そう言えば......」
伊吹は頬に触れる。
「ヤツはゴットハンドを持つ名医だ」
父の謙三は言った。
「名医ですが、乱暴ですよ?」
「はっきり言えば嫌がるだろう」
と、軍医。
「それもそうですね」
伊吹は納得した。
「あと、早く治るための抗生剤入りクリーム。化粧にも使えるぞ」
「ほんとですか!」
「食いついたな。引けるまでしばらく酷いからな。須美ちゃん」
人を呼ぶ。
「はぁーい」
奥の部屋から看護婦がやってきた。30代の女性だ。
「ちょっと、傷の手当てをしてやってくれ」
須美ちゃんと呼ばれた女性は伊吹の顔を見て、
「あれま? どうやったらそんな酷くやられるんだい? いい男が台無しだ」
須美ちゃん、須美ちゃん、遠野軍医は彼女を呼んで、耳元で囁く。
彼女は目を剥いた。
「例の男装軍人さんかい?」
伊吹はムッときた。
「れっきとした軍人であるし、男装をしている訳でもない」
「あら、歌劇団がやっている男装より、とっても素敵じゃない」
「.....そ、そうか?」
「いい男だよ、あんた」
「須美ちゃん、それでも藤宮少将のご令嬢だよ」「知ってるよ。話を聞いてたんだからね」
彼女はキャラキャラ笑った。
「からかうのをやめなさい」
「からかっちゃいないけどねぇ」
そう言うと、彼女はちゃっちゃと治療をしてしまった。
伊吹の顔はガーゼで覆われた。
「全治1ヶ月だな」
「えっ? そんなに......」
伊吹はしょんぼりした。
益々裕太郎に会いたくはない。
二週間後は、
遊園地だったのに......。
「なんかあったの?」
「特に......」
「顔を見れば分かるよ」
彼女は男二人の様子を伺うと、思い出話に花が咲いていた。
「えっと......」
伊吹は裕太郎の事を話し始めた。
「それじゃあ、二週間後にまた来なさい。消し方を教えるから」
「ありがとうございます。あの、父には......」
「内緒でしょ? 大丈夫よ」
伊吹の心が、少し踊った。
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