モダンな財閥令嬢は、立派な軍人です~愛よりも、軍神へと召され.....

逢瀬琴

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19 異性を思って泣く...。

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 思いの他、涙を流してしまい、目は兎のように赤い。
 お陰で家族に心配された。

「不覚だったな」

 大学ではそんな同期はちっとも気づ事もなく安心して過ごせるつもりだったが...。
 講義が終わったあと、

「何があった?」
 と、声を掛けてきたのは、池山中尉だった。
「ヤボな事を聞くか?」
「......珍しいからな...」

 普段なら話してしまうのに、何故か話せない。異性を思って泣く......、なんて。
 初めての行為だし、池山もなんて思うか。

「対した事はないから」
「これから【赤いルージュ劇場】でも行こうか?」
(......行きたくない場所を...)
 池山は泣き腫らした目をしている理由を知らなくて、当然なのだが。
「......行く気分ではない」
「...鶴屋はどうだ?」
 鶴屋。あそこなら裕太郎に会えるかも知れないが...。
(こんな悲しい思いをしたのに、裕太郎に会えるかも知れないって、どうゆう事だ!)
 恋心を知らない伊吹だ。

「...どうした?」
 変な顔をしていた伊吹を心配する池山。
「鶴屋で甘い......」
(鶴屋では裕太郎に会ってしまうか...)
「ん?」
「大前大尉に教わった喫茶店【ローズ】に行かないか」
「ああ、いいね。珈琲が飲みたかった」
 伊吹はその言葉に嬉しくなった。
「いつも付き合わせて悪いな...」
 池山は驚いて、伊吹を見た。
「なんだ?」
「珍しいこともあると思って」
「え?」
「傲慢なところがあるから」
 池山はくすくす笑う。
「......池山が付き合っているだけだろう」
「そこだ」
 伊吹はあぁ、そうか、と、納得した。

 校門前まで来ると、裕太郎がいたのには驚いた。何も知らない池山は、
「えっ?! 裕太郎さん、どうされたのですか?」
 と、胸を踊らせながら言った。
 裕太郎は寂しそうに微笑んだ。
「...藤宮伊吹さんに用があって......」
(わたしを分かってないようだ。このまま抜け切る事が......)
「え? 伊吹なら僕の隣にいますよ?」
(なんて事だ......。話しておけばよかった)
 裕太郎も驚きを隠せないでいるようだ。
「藤宮伊吹という者は知らぬ。人違いだろう」
 いけしゃあしゃあと嘘をついてしまった。
(伊吹は何を言ってるんだろう)
 池山の顔が引きつる。

「...伊吹さん、ですよね」
 裕太郎は困惑しながらも聞いてみる。
 伊吹は諦めて、
「そうだ。何のようだ?」
 と、辛辣に受け答えた。 
 裕太郎は池山を見ると、言いづらそうにした。
「......わたしたちはこれから用があるんだ」
「そうでしたか......」
「出直してくれないか?」
「ここでいいのですか?」
 伊吹は頷き、
「明日」
 の一言だけ。
「分かりました。ここで待ってます」
 裕太郎は微笑んで去って行く。
「あんな対応でよかったのか?」
「勝手にやってきたんだ。それでいい」
 
(嬉しい、とは思わないのか......)
 そして池山は溜め息。

 ※ ※ ※

 喫茶店【ローズ】では、あれ以来伊吹はニタニタしていた。
(不気味な伊吹だな...)
 伊吹はパルフェを食べながらニタニタ。
「旨いか?」
「んぁ? うん、気にしないで」
(急に女っぽい話し方だな)
 クリームを掬い、パクリ。
「うまー」
 伊吹の頬が綻ぶ。
(いや、軍服姿でうまーって...、周囲を見てみろ。笑われてるぞ。ほんと伊吹令嬢か?) 
 池山は珈琲を飲む。

 裕太郎が来てくれた事に、伊吹は嬉しくて仕方なかったのだ。今度はこんなにも胸が踊っている。
「ん?」
 そうして、いきなり素に戻る伊吹に、池山はどうしたんだろう、と、思った。
「今のわたしはどうだ?」
「......おかしいな」
 池山はまた、カップに口をつける。
「どうしたんだろうか」
「春だからなぁ」
「......過ごしやすいし。桜も見頃だ」

 池山はなんとなくジェラシーを感じた。
(...俺ではないな......。あの男が現れてから、おかしくなってる)
 こんな近くにいるのに...。
 と、思い......。
 
 
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