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17 桜の季節ですが、忍び寄る冬の時代...①
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それから2ヵ月がたちーーー。
桜の舞う季節。
話があると言う事で、休日に大前大尉と、喫茶店へ待ち合わせをする事となった。
「......このワンピースで行ったら逢瀬と勘違いされるしなぁ......」
このワンピースを着たお陰で、裕太郎と出会う事が出来たのだ。
(男装したところで、揶揄されるし......)
着ていく物に悩む。
クローゼットから見ると、ちょうどいいワンピースがあった。えんじ色に青のジャケット。
「うん。好都合だ」
そう言ったら、看板俳優の裕太郎が心に現れた。
(なんであいつが...)
追い払うように頭を振る。
鏡の前で確認してみた。
「この色......」
裕太郎にプレゼントしたネクタイの色。
ワイン色で光沢がかっていたが、なんとなくお揃いに感じた。
「またあいつがっ!」
なんでだろうと、不思議だった。
喫茶店【ローズ】に行くとすでに大前大尉が珈琲を頼んで待っていた。
「やぁ、悪いね。休日に待ち合わせさせて」
「いえ。どうされましたか?」
「座りたまえ」
「はい」
女給がやってくると、伊吹は珈琲を頼んだ。
「あとここのパルフェも有名でね、どうかね? 甘いものが大好きなんだろう?」
「はい。ですが、小遣いゆえ......」
(少しでもとっておいて、裕太郎に会いたいんだよな......)
会いたいというのを自覚なく思っていた。
「え? 財閥令嬢なのに小遣い制なの?」
「そうですね。経済のことも考えないといけませんから」
「頼もしいね。ならば、ここはわたしに奢らせてくれ」
「えっ? それはいけません」
「なぁに。男をたてろ」
伊吹はくすりと笑った。
「それではお言葉に甘えて」
「うん、素直でよろしい。色々あるから、どれがいいか選びたまえ」
と言って、女給にメニューを頼んだ。
(なんだ、このきらびやかなメニューは! ここなら珈琲もあるし、裕太郎を誘えるじゃないか)
やっと裕太郎の事を思う自分に自覚して、頬を赤くしてしまう。
それを見抜いた大前大尉は、
「なんだ、好きな人でもいるのかい?」
と、小声で話してきた。
「好きな人......?」
伊吹は首をかしげた。
「なんだ、自覚ないのかね。確か、19だったね」
「はい」
「軍隊の事もいいが、そればかりではないぞ。時にはそれから、逃げたっていい」
「はぁ......」
「何を言ってるんだ、という顔だな」
大前大尉は笑った。
「わたしにはそれしかございませんから」
「......本気か?」
「覚悟はあります」
(選択視がないのか......。そうしたら...)
するとパルフェがやってきた。
お皿にあいすくりんや、あんこ、果物やビスケットが綺麗に盛り付けてあった。
「おぉ!」
あまりの驚きように大前大尉は笑った。
「初めて?」
「はい。いつも行くのは鶴屋ですから。こんな洒落たところもあるんですね」
そして伊吹はきょろきょろする。
小さい頃、父が姉とよく一緒に連れてこられたのが甘味処の鶴屋だった。行きやすいのもあるし、馴染みの店だったので、今までずっと鶴屋一筋だったのだ。
「......わたしはもう少し色々知ったほうがいいのでしょうか?」
「そうゆう事だ。あぁ、今度はわたしの家族と一緒にここへ行ってみないか?」
大前大尉があるチケットを二枚テーブルに置いた。
「港に出来た遊園地......ですか?」
「ああ。少し遠いがドライブもいいだろう」
「でも、どうして二枚...... ?」
「気になる人でも誘ってみたらどうだい?」
(裕太郎か......?)
「池山君とか」
「いや、彼はただの同期ですから」
(はっきりしているな......)
「それなら、まぁ、ヤボな事は言わん。当日、誰だか分かる」
大前大尉は微笑んだ。
「......誰も連れて来なかったら...?」
「それはそれで楽しんだらいいさ」
(なんで、誰かと付けたがるんだろう)
と伊吹は、思うばかりだった。
伊吹は大前大尉と別れたあと、【赤いルージュ劇場】へと向かっていた。
桜の舞う季節。
話があると言う事で、休日に大前大尉と、喫茶店へ待ち合わせをする事となった。
「......このワンピースで行ったら逢瀬と勘違いされるしなぁ......」
このワンピースを着たお陰で、裕太郎と出会う事が出来たのだ。
(男装したところで、揶揄されるし......)
着ていく物に悩む。
クローゼットから見ると、ちょうどいいワンピースがあった。えんじ色に青のジャケット。
「うん。好都合だ」
そう言ったら、看板俳優の裕太郎が心に現れた。
(なんであいつが...)
追い払うように頭を振る。
鏡の前で確認してみた。
「この色......」
裕太郎にプレゼントしたネクタイの色。
ワイン色で光沢がかっていたが、なんとなくお揃いに感じた。
「またあいつがっ!」
なんでだろうと、不思議だった。
喫茶店【ローズ】に行くとすでに大前大尉が珈琲を頼んで待っていた。
「やぁ、悪いね。休日に待ち合わせさせて」
「いえ。どうされましたか?」
「座りたまえ」
「はい」
女給がやってくると、伊吹は珈琲を頼んだ。
「あとここのパルフェも有名でね、どうかね? 甘いものが大好きなんだろう?」
「はい。ですが、小遣いゆえ......」
(少しでもとっておいて、裕太郎に会いたいんだよな......)
会いたいというのを自覚なく思っていた。
「え? 財閥令嬢なのに小遣い制なの?」
「そうですね。経済のことも考えないといけませんから」
「頼もしいね。ならば、ここはわたしに奢らせてくれ」
「えっ? それはいけません」
「なぁに。男をたてろ」
伊吹はくすりと笑った。
「それではお言葉に甘えて」
「うん、素直でよろしい。色々あるから、どれがいいか選びたまえ」
と言って、女給にメニューを頼んだ。
(なんだ、このきらびやかなメニューは! ここなら珈琲もあるし、裕太郎を誘えるじゃないか)
やっと裕太郎の事を思う自分に自覚して、頬を赤くしてしまう。
それを見抜いた大前大尉は、
「なんだ、好きな人でもいるのかい?」
と、小声で話してきた。
「好きな人......?」
伊吹は首をかしげた。
「なんだ、自覚ないのかね。確か、19だったね」
「はい」
「軍隊の事もいいが、そればかりではないぞ。時にはそれから、逃げたっていい」
「はぁ......」
「何を言ってるんだ、という顔だな」
大前大尉は笑った。
「わたしにはそれしかございませんから」
「......本気か?」
「覚悟はあります」
(選択視がないのか......。そうしたら...)
するとパルフェがやってきた。
お皿にあいすくりんや、あんこ、果物やビスケットが綺麗に盛り付けてあった。
「おぉ!」
あまりの驚きように大前大尉は笑った。
「初めて?」
「はい。いつも行くのは鶴屋ですから。こんな洒落たところもあるんですね」
そして伊吹はきょろきょろする。
小さい頃、父が姉とよく一緒に連れてこられたのが甘味処の鶴屋だった。行きやすいのもあるし、馴染みの店だったので、今までずっと鶴屋一筋だったのだ。
「......わたしはもう少し色々知ったほうがいいのでしょうか?」
「そうゆう事だ。あぁ、今度はわたしの家族と一緒にここへ行ってみないか?」
大前大尉があるチケットを二枚テーブルに置いた。
「港に出来た遊園地......ですか?」
「ああ。少し遠いがドライブもいいだろう」
「でも、どうして二枚...... ?」
「気になる人でも誘ってみたらどうだい?」
(裕太郎か......?)
「池山君とか」
「いや、彼はただの同期ですから」
(はっきりしているな......)
「それなら、まぁ、ヤボな事は言わん。当日、誰だか分かる」
大前大尉は微笑んだ。
「......誰も連れて来なかったら...?」
「それはそれで楽しんだらいいさ」
(なんで、誰かと付けたがるんだろう)
と伊吹は、思うばかりだった。
伊吹は大前大尉と別れたあと、【赤いルージュ劇場】へと向かっていた。
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