モダンな財閥令嬢は、立派な軍人です~愛よりも、軍神へと召され.....

逢瀬琴

文字の大きさ
上 下
16 / 78

16 まるで初恋の気分です

しおりを挟む

 半ば脅しのように圧を掛けられてしまったが、裕太郎はそれでもこの邸宅を後にした。
 
 今流行りの歌を鼻唄で歌いながらとぼとぼ歩いていた。もう朝焼けである。

 何冊か写真集やラジオにも出て、それなりに人気が出たと確信はしているが、まだまだ一部の人が知っているくらいだ。

 裕太郎の父親は職人であり、技術を学ばせたかったのだが、
「跡をついで、そこで終わっちまう人生なんて、まっぴらごめんだ!」
 と、両親に啖呵を切り、今にいたる。
 
 5年目で、パトロンを抱えないと生活出来ない【赤いルージュ劇場】の看板俳優か。

 溜め息を吐くと、藤宮一族の邸宅前。
 大きな門で中まで見る事が出来ない。明新時代の先祖は大将として名を果たしていたぐらいだ。
 芸事を毛嫌う事でも有名だったようで。
「マスターもやったもんだ。家族の反対を押しきってあんなきらびやかな世界を作ったのだから......」
 感心するぐらいだ。
「それにくらべて、冴えない俳優か.....。様にならねぇな」
 裕太郎は一人呟いた。

 裕太郎は腕時計を見ると、朝の5時だ。

「なんで来てしまったのか」
 
 待ち合わせをしている訳でもなく、ぶらぶらと来てしまったのだ。
(俺を待ってた訳でもないだろうに、ひょっとしたら)
 なんて思ってしまったら、つい。 
 中性的でよく分からないところもあるが、なんだか面白い人だ。
 
 とぼとぼ門を通り過ぎる。
 すると、門の開く音に裕太郎は振り向いた。
 
「伊吹......さん」

「......」  

「なんだ裕太郎だったか」
 間が空いたものの、伊吹は微笑んだ。
「起きたのです?」
「いや、眠れなかったもでな......」
「そうですか」
「どこかのご令嬢と逢瀬だったか」
(単刀直入だな)
 裕太郎は苦笑する。
「お得意様のご令嬢です」
 と、言った。
「ふーん。色男め」
 伊吹はそう吐き捨てた。
 
(彼女にそう言われると辛いな)

「ごめん」
「え?」
 伊吹が謝ったもので、裕太郎はキョトンとした。
「何だか物悲しい顔をしたからつい...」
「感性が鋭い、と、言われた事はありませんか?」
 つい言ってしまった。
「逆だ。感性がおかしいと言われる」
 伊吹はうーんと考えてから言った。
「それはひどい」
「誰だと思う?」
「え?」
「池山だ。昨日、わたしの隣にいただろう?」
「......ああ、あのハンサムな」
「なんだ。同性でもそう思うのか」
 伊吹は笑った。 
「彼こそどうなんです?」
 伊吹が単刀直入に言うタイプだから、すんなり聞く事が出来た。
「何を?」
 どうやら本気で分かってないらしい。

「いいえ。なんでも......」
「ああ! 池山との関係か?!」
(ほんとうにこの人は...... )
「同期だ」
 と、普通に答えた。
「ははっ」
「なんだ、いきなり笑って......」
「あ、いや、なんか素直過ぎて...」
「そうか...? 散歩でもしないか?」
 伊吹から屈託なくそう言われたが、素直なので、それが素直に頷く事が出来た。

(......初恋の気分だ)

 裕太郎はそう感じた。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

画仙紙に揺れる影ー幕末因幡に青梅の残香

冬樹 まさ
歴史・時代
米村誠三郎は鳥取藩お抱え絵師、小畑稲升の弟子である。 文久三年(一八六三年)八月に京で起きて鳥取の地に激震が走った本圀寺事件の後、御用絵師を目指す誠三郎は画技が伸び悩んだままで心を乱していた。大事件を起こした尊攘派の一人で、藩屈指の剣士である詫間樊六は竹馬の友であった。 幕末の鳥取藩政下、水戸出身の藩主の下で若手尊皇派が庇護される形となっていた。また鳥取では、家筋を限定せず実力のある優れた画工が御用絵師として藩に召しだされる伝統があった。 ーーその因幡の地で激動する時勢のうねりに翻弄されながら、歩むべき新たな道を模索して生きる侍たちの魂の交流を描いた幕末時代小説! 作中に出てくる因幡二十士事件周辺の出来事、鳥取藩御用絵師については史実に基づいています。 1人でも多くの読者に、幕末の鳥取藩有志たちの躍動を体感していただきたいです。

ふたりの旅路

三矢由巳
歴史・時代
第三章開始しました。以下は第一章のあらすじです。 志緒(しお)のいいなずけ駒井幸之助は文武両道に秀でた明るく心優しい青年だった。祝言を三カ月後に控え幸之助が急死した。幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた志緒と駒井家の人々。一周忌の後、家の存続のため駒井家は遠縁の山中家から源治郎を養子に迎えることに。志緒は源治郎と幸之助の妹佐江が結婚すると思っていたが、駒井家の人々は志緒に嫁に来て欲しいと言う。 無口で何を考えているかわからない源治郎との結婚に不安を感じる志緒。果たしてふたりの運命は……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

狂乱の桜(表紙イラスト・挿絵あり)

東郷しのぶ
歴史・時代
 戦国の世。十六歳の少女、万は築山御前の侍女となる。  御前は、三河の太守である徳川家康の正妻。万は、気高い貴婦人の御前を一心に慕うようになるのだが……? ※表紙イラスト・挿絵7枚を、ますこ様より頂きました! ありがとうございます!(各ページに掲載しています)  他サイトにも投稿中。

【淀屋橋心中】公儀御用瓦師・おとき事件帖  豪商 VS おとき VS 幕府隠密!三つ巴の闘いを制するのは誰?

海善紙葉
歴史・時代
●青春真っ盛り・話題てんこ盛り時代小説 現在、アルファポリスのみで公開中。 *️⃣表紙イラスト︰武藤 径 さん。ありがとうございます、感謝です🤗 武藤径さん https://estar.jp/users/157026694 タイトル等は紙葉が挿入しました😊 ●おとき。17歳。「世直しおとき」の異名を持つ。 ●おときの幼馴染のお民が殺された。役人は、心中事件として処理しようとするが、おときはどうしても納得できない。 お民は、大坂の豪商・淀屋辰五郎の妾になっていたという。おときは、この淀辰が怪しいとにらんで、捜査を開始。 ●一方、幕閣の柳沢吉保も、淀屋失脚を画策。実在(史実)の淀屋辰五郎没落の謎をも巻き込みながら、おときは、モン様こと「近松門左衛門」と二人で、事の真相に迫っていく。 ✳おおさか 江戸時代は「大坂」の表記。明治以降「大阪」表記に。物語では、「大坂」で統一しています。 □主な登場人物□ おとき︰主人公 お民︰おときの幼馴染 伊左次(いさじ)︰寺島家の職人頭。おときの用心棒、元武士 寺島惣右衛門︰公儀御用瓦師・寺島家の当主。おときの父。 モン様︰近松門左衛門。おときは「モン様」と呼んでいる。 久富大志郎︰23歳。大坂西町奉行所同心 分部宗一郎︰大坂城代土岐家の家臣。城代直属の市中探索目附 淀屋辰五郎︰なにわ長者と呼ばれた淀屋の五代目。淀辰と呼ばれる。 大曽根兵庫︰分部とは因縁のある武士。 福島源蔵︰江戸からやってきた侍。伊左次を仇と付け狙う。 西海屋徳右衛門︰ 清兵衛︰墨屋の職人 ゴロさん︰近松門左衛門がよく口にする謎の人物 お駒︰淀辰の妾

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

処理中です...