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4 財閥令嬢、少尉の貫禄をかもし出します。
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相手を見た伊吹は眉間に皺を寄せ、守屋登喜子はがっかりした。
「なんだ。軍人さんたちか......」
登喜子は伊吹へと顔を向けると、
「ちょっと伊吹ッ、顔が怖いっ」
と、注意をした。
「わたしの部下だ」
小声で話す。
「えっ?」
振り向こうとすると止めた。
「見たいじゃない?」
「バレる」
「大丈夫よ。スタイルが全然違うのだから。男言葉にならなきゃ大丈夫」
と言って振り向いた。
降旗軍曹と、降旗軍曹の同期二人だ。
三人は端の方へ腰掛けた。
伊吹は降旗軍曹と目が合ってしまい、目を反らした。
「いや、しっかし、どうしておなごが嗜むような甘味処が無料なんだ」
と、降旗軍曹。
伊吹は眉根を染める。
「腹の嗜みにもならんな」
と、同期。
(それならここへ来るな......)
伊吹は三人の会話が気になって仕方ない。
軍曹ともう一人は確か田舎から出てきて、降旗軍曹と同じく職業軍人として貧困の家族を養っていると聞き、
もう一人は...。
店の前からガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきて、みんなが扉の方へ振り向く。
伊吹は目を剥いた。
入り口にはプロマイドに写っている男性が入ってきたのだ。
登喜子は呑気に鏡を見ていた。
「これだけを楽しみに、頑張っていました」
訛りの強い少女が頬を赤らめながら言った。
「なんだい、それは。夜のショーも頑張ってくれよ」
彼は笑いながら言う。
「千夏ちゃんは食べた事ないんだもの。イキイキとしていたわ」
もう一人の少女が言う。
「【赤いルージュ劇場】の連中じゃないか?!」
もう一人の軍人が声を上げた。
彼はそんなお金には困っておらず、趣味で遊びに行けたりする。名前は金子と言って、確か一等兵だ。
その声にみんな振り向いた。
「えっ? 裕太郎様?!」
登喜子は振り向くと、この店内にプロマイドの男が気まずそうにいた。
登喜子は卒倒する。
降旗軍曹はじっと伊吹を見る。
伊吹は然り気無くクリームあんみつを食べながら、本を読む。
金子一等兵は冷やかす。
「なぁ。一曲歌って踊ってくれよ」
【赤いルージュ劇場】を知っているその軍人は、空気も読まず、そう催促。
「困ります。うちはそんなところではない」
と、裕太郎は少女を守るように自分の背中へ回した。
(ただの看板俳優ではないな)
登喜子を見て見ると、胸に両手を置いて、裕太郎をただぼうっと見て、惚けているだけだ。
「いいじゃないか。俺たちはそんなの見た事がない。どんなものか、ここで楽しませろ」
と、降旗軍曹。
店にいるお客も怯え始めた。
伊吹はやきもきし始めた。
裕太郎ももうどうしたらいいか分からず、ただ二人の踊り子を庇うようにしているだけだ。
少し裕福な軍人が踊り子の腕を取り、引き寄せる。
「キャアッ」
「やめなさいっ」
裕太郎も止めると、降旗軍曹がコップの水を飲み、それをぶちまけた。
「うっ!」
裕太郎は悲鳴を上げた。
(水も滴るいい男とはあれを言うのだろうか)
裕太郎は降旗軍曹を睨み付けた。
(おっ? 優男だけじゃなさそうだな)
裕太郎は前に近づき、降旗軍曹も立ち上がる。
(あっ、まずい!)
「やめないかっ」
伊吹の一喝に店内にいた客たちはざわつく。
スタイルと話し方の違いだ。
裕太郎も驚いて目を剥き、降旗軍曹はニタリとした。
「なんだ。軍人さんたちか......」
登喜子は伊吹へと顔を向けると、
「ちょっと伊吹ッ、顔が怖いっ」
と、注意をした。
「わたしの部下だ」
小声で話す。
「えっ?」
振り向こうとすると止めた。
「見たいじゃない?」
「バレる」
「大丈夫よ。スタイルが全然違うのだから。男言葉にならなきゃ大丈夫」
と言って振り向いた。
降旗軍曹と、降旗軍曹の同期二人だ。
三人は端の方へ腰掛けた。
伊吹は降旗軍曹と目が合ってしまい、目を反らした。
「いや、しっかし、どうしておなごが嗜むような甘味処が無料なんだ」
と、降旗軍曹。
伊吹は眉根を染める。
「腹の嗜みにもならんな」
と、同期。
(それならここへ来るな......)
伊吹は三人の会話が気になって仕方ない。
軍曹ともう一人は確か田舎から出てきて、降旗軍曹と同じく職業軍人として貧困の家族を養っていると聞き、
もう一人は...。
店の前からガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきて、みんなが扉の方へ振り向く。
伊吹は目を剥いた。
入り口にはプロマイドに写っている男性が入ってきたのだ。
登喜子は呑気に鏡を見ていた。
「これだけを楽しみに、頑張っていました」
訛りの強い少女が頬を赤らめながら言った。
「なんだい、それは。夜のショーも頑張ってくれよ」
彼は笑いながら言う。
「千夏ちゃんは食べた事ないんだもの。イキイキとしていたわ」
もう一人の少女が言う。
「【赤いルージュ劇場】の連中じゃないか?!」
もう一人の軍人が声を上げた。
彼はそんなお金には困っておらず、趣味で遊びに行けたりする。名前は金子と言って、確か一等兵だ。
その声にみんな振り向いた。
「えっ? 裕太郎様?!」
登喜子は振り向くと、この店内にプロマイドの男が気まずそうにいた。
登喜子は卒倒する。
降旗軍曹はじっと伊吹を見る。
伊吹は然り気無くクリームあんみつを食べながら、本を読む。
金子一等兵は冷やかす。
「なぁ。一曲歌って踊ってくれよ」
【赤いルージュ劇場】を知っているその軍人は、空気も読まず、そう催促。
「困ります。うちはそんなところではない」
と、裕太郎は少女を守るように自分の背中へ回した。
(ただの看板俳優ではないな)
登喜子を見て見ると、胸に両手を置いて、裕太郎をただぼうっと見て、惚けているだけだ。
「いいじゃないか。俺たちはそんなの見た事がない。どんなものか、ここで楽しませろ」
と、降旗軍曹。
店にいるお客も怯え始めた。
伊吹はやきもきし始めた。
裕太郎ももうどうしたらいいか分からず、ただ二人の踊り子を庇うようにしているだけだ。
少し裕福な軍人が踊り子の腕を取り、引き寄せる。
「キャアッ」
「やめなさいっ」
裕太郎も止めると、降旗軍曹がコップの水を飲み、それをぶちまけた。
「うっ!」
裕太郎は悲鳴を上げた。
(水も滴るいい男とはあれを言うのだろうか)
裕太郎は降旗軍曹を睨み付けた。
(おっ? 優男だけじゃなさそうだな)
裕太郎は前に近づき、降旗軍曹も立ち上がる。
(あっ、まずい!)
「やめないかっ」
伊吹の一喝に店内にいた客たちはざわつく。
スタイルと話し方の違いだ。
裕太郎も驚いて目を剥き、降旗軍曹はニタリとした。
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