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3 ときめきは、クリームあんみつです。

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 中庭で散歩をし、昼食を取ってから伊吹は待ち合わせの鶴屋に来ていた。
 鶴屋は老舗の甘味処。
 少し遅くてもいい、と、芳江には言ったが、早く来てしまった。
(本を読みながら、クリームあんみつでも食べて待っていたらいいさ)
 本と言っても軍事論の書かれた分厚い本。
 軍服スタイルとはギャップが違う。
 どこから見てもモダンガール。
 時刻は3時過ぎていて、空になったクリームあんみつの器が2つ...。
「そんな食べてお腹壊さないかい? 伊吹」
 と、店主のおばさんが声を掛ける。
「身体は丈夫に出来ているからな。大丈夫だ。そして、もう1つ」
 伊吹はニコリとする。 
「はいはい」
 おばさんは溜め息を吐きながらも、そんな返事をした。

 それから30分、
 扉が開く。
「裕太郎様と一緒なら死んでもいい」
 物騒な事を言いながら、守屋登喜子は伊吹のいる相向かいへ腰掛けた。
「なんだい、いきなり入ってきて。物騒な。あれかい? 今、話題の、【あなたと共に、天国へ】か」
「あら、知っていたの?」
「警察と一緒に立ち会ったよ。原案を見た」
「原案って何よ」
 と、登喜子は苦笑した。
「映画なんかとまったく違う!」
「...お知り合いだったの?」
「少佐だった。いつも......、ヤスクニへ行けと言ってたのに...! 情死だぞっ! 情死なんて、遺族の恥さらしじゃないか」
「.........嫌になっちゃったんじゃないの?」
「何を?」
「死に行く事だけを考えろなんてさ、虚しいだけよ」
「......どうして? 戦場に行くんだから、当たり前じゃないか」
「これが軍人一家の考えなのかしらね」
 登喜子は肩を竦める。
 藤宮家は明治からの軍人であり、大将を勤めた経歴もある。伊吹の父親は少将だ。
 伊吹は病弱な兄の変わりに、軍人として務めていた。
「それよりもさ、ほら、この写真」
 と言って、ハンドバックから写真を数枚取り出して、伊吹に見せる。
 すべて同じ男性で、色男、と言うのは分かった。
「登喜子が兄よりもうつつを抜かしている看板俳優か?」
「何よ、それ...」
「兄から手紙を貰ってきたんだ。登喜子にと」
 と言って、手紙を渡す。
「や、やだっ! 太一さんったら」
 看板俳優の話をしているより、恥ずかしそうにして、手紙をハンドバックに入れた。
「いつの間に?」
「二回目に会った時、手紙を頂いたの」
「へぇ」
「伊吹、兄想いだから、なかなか切り出せなかったのよ」
「まぁ、兄想いではあるがな」 
「ところで、この写真を見てときめかない?」「わたしのときめきは、このクリームあんみつだけだ」
 と、言って、クリームあんみつを頬張る。
「もう」
 登喜子は呆れて溜め息を吐いた。 
 登喜子もクリームあんみつを頼む。
「伊吹の楽しみはクリームあんみつだけなの?」
「それで十分じゃないか」
「面白みがないわよ。わたしたちは、まだ19才よ。楽しまなきゃ」
「押し付けるな......」
 登喜子はハンドバックからミラーを取り出し、
色々整えている。
「看板俳優が来るわけでもあるまいし」
「身だしなみが肝心よ」
 すると、扉が開く。
「ほら、噂をすればっ」
 と、言って登喜子は振り向いた。
 
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