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第86話 先に倒してしまい

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 それでも嬉しいと思ってしまうのは先に惚れてしまった代償だ。

 甘んじて受けよう。

 そしてわたくしは襲いかかって来る魔獣達をちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りを始める。

 だってマオが自分を隠さない娘が好きと言うので、わたくしも自分を隠さずに生きるだけの事だ。

 しかし何故か頭の中でばぁばが「にしても限度という物が御座いますお嬢様っ! あぁ、いけませんお嬢様っ! それではただの脳味噌が筋肉で出来た雌型のオークでございますお嬢様っ! お嬢様ぁぁあっ!!」と聞こえて来る様な気がしないでも無いのだがきっと気のせいだろう。

 そして目に前には大きな扉にその扉を守る様にいかにも強そうな魔族が二人が居るのが見える。

「ここを通りたくばブヘァあぁっ!?」
「兄者ぁぁぐぼへあぁぁああぁぁくぺっ!?」

 その二人も問答無用で蹴散らしてわたくしは扉を開ける。

 後でマオが「強くし過ぎたかも知れない………ゲームと現実との強さの乖離が分かっていながら万が一を考慮して強くし過ぎたかも知れない。ただのチートじゃんこれ………ゲームバランスもクソも無いよ。もう俺抜きでも問題なく魔王を単機討伐出来るんじゃないかこれ。もうご主人様を止める物が思い付かないんだが………」と何やら呟いているのだが一体何の事を呟いているのかわたくしにはまったくもって見当もつかない。

 兎に角今は魔王に集中である。

「たのもーっ!!」
「最早魔王討伐じゃなくて強者がより強者を求めて道場破りに行くそれじゃん」
「え? 何ですの?」
「あぁ、何でも無いよ」
「………そうですの?」
「あぁ、そうだ。気にするな」

 おかしなマオである。

 そして来る対魔王である。

 目の前には玉座に座るマオとは似ても似つかない二足歩行の羽の生えた山羊と言われた方がしっくりくる魔王が鎮座していた。

「貴様等が一体何をしくさったのか理解しているのか?殺すぞ?」
「あら、普通初対面で話を始める時はまず自己紹介からではなくって?ここの魔王は教養も出来ていないのかしら?」
「ご主人様も今まで魔族と対峙した時名乗らず、そして名乗らせる暇さえ与えず、何なら名乗ってる途中にも関わらず何かしらの攻撃魔術でワンパンで倒していって無かったっけ?」
「嘘です。この者が言っている事は全て嘘でございますわ。このわたくしがその様な教養の無い行いをする筈がございませんもの。ねぇ、マオ」
「いや、本当だぞ」

 どうしましょう。

 この時ばかりは目の前の魔王よりも後ろに控えている魔王の方を先に倒してしまいたいと思ってしまいますわ。
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