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第45話 心臓が止まるかと思いましたわ
しおりを挟むそんな中、マオが殺気を霧散させると周りにいたもの達は頭を上げて空気を求めて水面へ上がる鯉の様に息をし始める。
「それに、本来のトリステンはそんな性格じゃ無いだろう?」
そんな事を言うマオに対して何をふざけた事を言っているのかと、すぐさま謝罪するように言おうとしたその時、皇帝陛下からクツクツという笑い声が聞こえてくるでは無いか。
あぁ、もうおしまいだ。
何もかもおしまいだ。
そう思ったその時、皇帝陛下は腹を抱えて笑い出し始めた。
「面白いっ! 実に面白いっ! 確かに、手紙には魔族の王も来ると書いてあった。にも関わらず確かに我々の態度は無礼が過ぎる。怒りを買ってやり返されても何も文句は言えまいてっ!」
「し、しかし皇帝陛下っ!? 相手は魔族の───」
「黙れ。貴様は我と対等にでもなったつもりか?」
「も、申し訳ございませんっ!!」
「我が側近がすまぬ」
そして次の瞬間、わたくし達は目を見張る。
なんと皇帝陛下がマオの能力ではなく自ら頭を下げてマオに謝罪をしたのだ。
「全く、それをされると抜いた剣を鞘に仕舞わなければならないではないか」
◆
「し、心臓が止まるかと思いましたわっ!」
今わたくしは城下町でマオに詰め寄っていた。
まさかあそこであんな事をしでかすなど誰が想像できようか。
「トリステン皇帝陛下の性格ではあれが一番効率的かつ一気に懐に潜り込むと同時に信頼を勝ち得る方法であったからな。そしてこうなる事は予め予想はついていた」
「でしたら何故わたくしに一言くらいっ───」
マオ曰く、詳しくは教えてもらえなかったのだがある程度未来というか、それに近いものを予測できる能力があるらしい。
そしてこうなる事が初めから分かっていたのならば初めから何故そう言ってくれなかったのか。
そもそも腹立たしいのが、父上や母上達が知っていたという事である。
その事を路地裏に入り抗議しようとしたその瞬間、わたくしの目に前は整った顔立ちのマオの顔があった。
後は壁、前はマオ、逃げ場はない。
ダメだダメだと思っていても高鳴り始める鼓動を抑える事が出来ない。
「だってご主人様は大根役者だという事が滲み出ているからな。教えたら最後、ご主人様の大根役者のせいでこの茶番を見抜かれては敵わないだろう」
あぁ、耳の真横でマオの低い声が響いてゾクゾクしてしまいどうでも良くなって来る。
もうずっとこのマオに詰め寄られた状態でマオの匂いにマオの声に包まれていたい。
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