8 / 36
第8話 俺の正体
しおりを挟むそれでは刀にもダメージが蓄積しやすいだろう。
彼女もそれが解っているのだろう、それ故に随所に試行錯誤が見られる。
そしてその未完成である立ち回りの隙をつこうとしたところに無詠唱で魔術を放ってくる。
しかもその魔術の属性や種類は多岐に渡り、その全てにおいてまるで過去の自分の姿を見ているようで余計に俺を苛立たせていく。
以前の俺ならば鼻で笑い叩き潰していただろう。
しかし現実という奴を受け入れた今の俺が見る彼女は間違いなく天才であり、即ち間違いなく将来この俺よりも強くなる存在として映る。
彼女こそまさに万色という二つ名が相応しい数百年に一人の逸材である。
「参った。俺の負けだ。降参だ」
そこまで分析すると俺は気のない返事と共に両手を上げこの試合を俺の負けという形で終止符を打つ。
「ば……馬鹿にしているのですか?」
「まさか。お兄さんはもう君についていくだけで精一杯。君を倒す術すら見つからないしここまで圧倒されちまったら成す術無しだ。だから降参だ」
「………まあ良いでしょう。そしてこの試合に何を賭けていたのか忘れた訳ではないですよね?おじさん」
そんな俺のいきなりの降参宣言にレヴィア・ド・ランゲージはどこか煮え切らない、それでいて俺を疑っている素振りを隠しもせずわざと降参したのではないかと聞いてくるが、実力ゆえの降参であると言い、試合で負けた場合の約束も覚えていると返す。
もちろんおじさんではなくお兄さんであると訂正することも忘れない。
むしろ一番大事なので二回訂正した。
これで彼女も今度から俺のことをお兄さんと呼ぶだろう。
「それではあなたの正体を教えて下さい。念のため嘘をつかないように精霊契約をさせていただきます」
「ああ、分った。その代わり一回しか答えないからな」
「良いでしょう……それでは、あなたの正体を教えてください」
そして俺は答える。
まだ若い目の前の少女に人生というくそったれたクソゲーを倍以上経験してきた人生の先輩としてありったけの皮肉を込めて答える。
「俺の正体は……」
「しょ、正体は……」
「人間だ。種族は人間、年齢は二十二歳だが心は永遠の十八歳。泣く子も黙るイケメン数学教師レンブラント・グフタスとは俺の事よ」
その瞬間静寂が辺りを支配する。
すなわち折角のボケも滑り倒した結果と言えよう。
しかしながら俺は嘘はついていないし契約違反によるペナルティーも襲って来ない事から俺の判断はなんら間違っていなかったという何よりもの証拠でもあろう。
何はともあれこの小娘が【万色】の二つ名は知っていてもその本人の名前を知っていない事に救われた形である。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

久遠の魔法使いの弟子
つるしぎ
ファンタジー
人外が差別される貧民街で盗みをして生計をたてていた少年ロボ。
その街に身分を隠して訪れていたエルフの大魔法使いアーロンに出会う。
突如家にやって来た国が管轄する治安維持部隊により、追われる身となったロボは、街の中を逃げまどい、怪我を負いながらもアーロンの手を借りて街を出る事でなんとか逃げ延びる事に成功する。
怪我を負ったロボは他に行く当てもないので、仕方がなくアーロンの家に居候する事になった。
家にはロボと同じく元孤児の子供が4人おり、成り行きで彼等と共同生活をすることとなる。
魔法の才能があったロボは、アーロンの弟子となり、魔法の使い方も学んでいく。
家に来てすぐは誰も信用出来なかったロボだが、次第に心を開いていき、そこでの生活に馴染んでいく。
人よりも長い時を生きるエルフであるアーロンは、今まで何百年も今と同じように手の届く範囲の孤児を引き取り、育てていたらしく、アーロンの元を離れ暮らしている子供たちは沢山いる。
時折手土産を持って家を訪れるアーロンの子供たちは、今現在の自分の生活を楽しそうに語り、アーロンへの感謝の念を述べて帰っていった。
明日を生きるので精一杯の日常を送っていたロボは、自分の未来なんて考える余裕がなかったのだが、自分と似たような境遇だった子供たちが、いきいきとした表情をしているのを見て、自身の将来の事を考え始めた。
他の子供たちとも次第に打ち解けてきて軽口を叩き合えるまでになり、将来のことをぼんやりとだが考えて初めていた時、
アーロンが忽然と姿を消した。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる