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第4話 逃げに徹する
しおりを挟む「へー……やっぱり二十二歳なんだ。あの絶色と同い年なんですね」
「ありゃ、それは光栄だね」
これで確信した。
コイツは何故か、過去俺に関する資料や記録などを全力で消したにも関わらず俺の事を知っており、その上で俺に会いに来たのだと。
前世で例えるならば四年前に甲子園で活躍し、注目を浴びるも地味なエラーによりプロにすら成れなかった高校球児を、しかもその資料や記録は何故か綺麗に消されている状態で覚えている者などそれこそ人口の一%も満たないであろう。
だからこそそんな奴と関わりたく無いと思うのは仕方の無い事だと、俺は思う。
「顔の左側目の上、縦に切り傷」
「あ、これ? なんでもない事で出来た傷なんだよなー。階段でこけて出来たなんて情けないだろ?」
「珍しい黒髪に黒目の持ち主」
「確かに珍しいけど、探せば以外といるんだよなー」
「二十二歳、左眼に縦傷、黒髪黒目。そんな人間はこの大陸中探しても一人しかいません」
「本当に探してから言ってみろってんだ」
なので全力で逃げに徹する。
せっかく手に入れた平穏な日々なのだ。
前世で言うと土日祝日休み冬休み夏休みあり、実労八時間休憩一時間合計九時間勤務、残業無し、ボーナス有り、退職金有り、昇給あり、各種保険有り、年収3000万、そしてこの糞楽な仕事環境である。
今更手放してなるものか。
そんなこんなでのらりくらりと美少女の指摘を交わしていると鐘の音が三回響き渡る。
「ほら、授業が始まるから早く行きなさい。君が俺を誰と勘違いしているかは知らないが人違い他人の空似だ」
「放課後、首を洗って待っている事ね」
そんな物騒な事を言い残して美少女は校舎の奥、一年の教室がある方向へ歩いて行く。
ほんと、やっと平穏な日々を過ごせると思っていたのだが、まだ俺には難しいのかもしれない。
日本で過ごしていた時は刺激が欲しいなどと愚かにも思っていたのだが失って気づくとは本当に凡人であったと再度思い知らされる気分である。
◆
放課後の鐘が学園に響き渡る時、校舎内にある俺の部屋では鐘の音と俺の身体の一部を愛しそうに舐める音が部屋を満たしていた。
「……あの娘もご主人様の奴隷になさるのですか?」
褐色の肌に輝く銀髪、吊り上がった目に眼鏡をかけており気の強そうな雰囲気を出しているのだが、そんな事すら気に留めない程の美貌と尖った長い耳。
そしてすらりと長い足にくびれたお腹には薄っすら筋肉の筋が浮き出ており健康的な身体であると分かる。
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