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第3話 暖簾に腕押し糠に釘作戦
しおりを挟むそれは消して美少女だからだけではなく彼女がいわゆる日本人系の美少女だったからであろう。
腰まで伸ばした黒い髪、少し吊り上がったアジア系の目、しかしながら体型はモデル体型なのだが体格は日本人のそれである。
御察しの通り胸は無い。
これでスーツを着て髪をまとめ眼鏡をかければ出来る女上司という言葉がしっくり来るであろう。
まあ、俺には前世も今世も縁が無いクール系美少女であるのは間違いない。
そんな事を思っていると件の美少女と目が合い、美少女の表情が一緒驚いた様な、それでいて探し物が見つかった様な表情を見せたかと思うとその綺麗な黒髪をなびかせズンズンと一直線に俺の方まで来るではないか。
なんなら最後の方は走って来る程である。
「見つけた」
彼女は俺の元まで来ると少し乱れた息と共にそう言った。
「はて、見つけたとは……? この部屋に何かお探しの物でもあるのかな?」
そう言って俺はワザとらしく部屋を見渡す。
乱雑に置かれた書類や本、灰皿に置いたタバコに燻る煙、燻んだ空気、壁に掛けた職員用の黒いロングコート。
実に男らしい部屋と言えよう。
前世と何ら変わらない、まさに俺の部屋である。
違うのはスーツがコートに変わったぐらいである。
「しらばっくれても無駄です」
「何のことかな?お兄さん分からないなー」
そんな俺の小芝居に当然目の前の美少女は引き下がってくれるわけも無く、部屋には一瞬たりとも目線を動かさず俺を一直線に睨んでくる。
というわけで今度はとぼけてみせる。
作戦名は暖簾に腕押し糠に釘作戦だ。
「………お兄さんって見た目では無いけれども、貴方で間違い無い」
「ばっかっ、オメーっまだ俺は二十二だっつのっ!! めっちゃ若いっ! 四捨五入で二十歳って言える年齢はお兄さんなのっ!」
本当に失礼な奴である。
前世と合わせれば五十歳を軽く超える俺からしてみれば二十二歳もまだまだ青二才、クソガキと言える年齢である。
そんなことも知らずにこの世間知らずの美少女は事もあろうに俺の事をまるでおじさんであるかの様な態度と発言である。
確かに、ここ三日ぐらい髭を剃って無いし髪の毛もここ三カ月伸ばし放題であるからお兄さんに見えなかったのかもしれない。
だとしても初対面の人間が「自分まだまだだ見た目だけは若い」と言ったとして、例え実年齢より歳上に見えたとしても肯定するのが礼儀であり人付き合いというものだと俺は思う。
そして目の前の美少女はそんな俺の叫びを聞き「ニヤリ」と口角を上げ、まるでウサギの尻尾を捕まえた狩人の様な表情を浮かべていた。
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