上 下
89 / 400

第89話鴨が葱

しおりを挟む
 服装はこの世界に馴染むためにストレージからこの世界でもありそうな服をチョイスし来ているのだが、まるで新品かつ富裕層が着そうな服に見え、そんな奴が無防備に観光気分で街をぶらぶらしているのである。

 ……もしかして今の俺って見える人には鴨が葱をしょって無防備に歩いてるように見えるんじゃ…

 そう思うと急に話しかけてきたこの老人のアイコンが赤くなっている理由になんとなく気付き、警戒しているといつの間にかおじさんの左手が俺の懐を探っているではないか。

「【カグチ】」

 というわけでストレージから木刀を取り出すと問答無用でスキルを発動し、この舐め腐っている糞ジジイに喰らわす。

「ったく、油断も隙もねーな…」

 しかし、あの老人が言っていた事は嘘ではないだろう。

 わざわざ調べたらすぐ分かるような事で嘘を付く必要性もないだろうし、むしろ知っているからこそこの街に来る人の方が多いのだろう。

 そう思えてしまうほど周りを見渡せば学生であろう若者やこの街で生活しているであろう住人に混じって観光客らしき人々の姿も数多く目に入ってくる。

 その中でも特に自分は警戒心が薄く平和ボケしてそうな立ち振る舞いでさぞ美味しそうな獲物に見えたことだろう。

 現に、このマップ機能がなければスられた事すら気付かなかったであろう事は間違いない。

 改めて日本という国と国民性は良い意味でも悪い意味でも平和であったのだと思い知らされる。

 この世界は日本ではない。

 そのことを今一度胸に刻みながら、先ほどスキルを撃ち込んだ老人に平和ボケしていた自分に気付かしてくれたお礼と授業料の意味を込めスキル【キュア】を使ってやる。

「……か、金は持ってないぞ」
「金は要らない。そもそも盗みを働くような奴に払えるほどの金銭などはじめから期待していない。わかったらさっさと俺の前から消えろ。目障りだ」

 そしてスキル【キュア】を掛けられた老人が迷惑そうな顔で金の無心を言ってこようとするので、それを制し金が要らない事と、目障りである事を告げると「糞がっ」と悪態を付きながら去っていた。

 そんなことがありこの街の治安の悪さを懸念するのだがどうやら杞憂だったようだ。

 と思いたかったのだが、当初の目的である図書館を探すため辺りを散策するのだが、あのスリがあった時から誰かに後を付けられているので辟易してしまう。

 しかしマップで見たアイコンの色は青色なので敵意ではなく好意を向けられているみたいなのだが、アイコンが青だからといって警戒しない理由にはならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!

エノキスルメ
ファンタジー
ノエイン・アールクヴィストは性格がひねくれている。 大貴族の妾の子として生まれ、成人するとともに辺境の領地と底辺爵位を押しつけられて実家との縁を切られた彼は考えた。 あのクソ親のように卑劣で空虚な人間にはなりたくないと。 たくさんの愛に包まれた幸福な人生を送りたいと。 そのためにノエインは決意した。誰もが褒め称える理想的な領主貴族になろうと。 領民から愛されるために、領民を愛し慈しもう。 隣人領主たちと友好を結び、共存共栄を目指し、自身の幸福のために利用しよう。 これはちょっぴり歪んだ気質を持つ青年が、自分なりに幸福になろうと人生を進む物語。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載させていただいています

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...