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第57話若干可愛く思えて少し腹が立つ

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 今にもクロに襲いかかりそうなほどの形相でクロにまくし立てる男に苛立ち、魔術でぶっ飛ばそうとした瞬間魔王が口をひらく。

「下がれアーゲノーツ」
「し、しかしっ」
「お前に、私とアイツの再会の邪魔をするなといっている」
「……か、かしこまりました」

 そしてアーゲノーツという男は渋々といった感じで魔王の後ろに下がる。

しかしクロに向けるその顔には先ほど同様敵意を隠そうともせず顔に出ていた。

「私の部下が失礼な対応してゴメンね? お兄ちゃん」

 そういうと健康そうな舌をちろっとだす魔王。その姿が若干可愛く思えて少し腹が立つ。

「いや、気にしてないよ。 迅速の床ペロさん。いや、明日香とでも言おうか?」

 明日香と口に出した瞬間アーゲノーツから凄まじい殺気が放たれるのだが無視する。

 そんなことよりも目の前の魔王である。

 今までの受け答えと彼女の姿容姿、そして俺が彼女にあげた限定アイテム、『天使の祝福』というペンダントを胸元に飾っていることで確信した。彼女はギルティー・ブラッドの知り合い『迅速の床ペロ』で、幼馴染で親友の歳の離れた妹で、俺に借金を背負わせ自殺した橘明日香本人なのである。

 彼女が自殺してわかった事は二つ。

 俺に迅速の床ペロだと隠していたことと借金の額が十万だったはずが一千万に跳ね上がっていたことである。

 しかし、そんなことは今はどうだっていい。唯一わからなかった事がこれで分かるかもしれないのだ。

「でも何で明日香…アーシェ・ヘルミオネは人間の領域を攻撃しているんだ?」

 途中明日香が「今私の名前はアーシェ。アーシェ・ヘルミオネよ」と補足してくる。

「何でって、この城が完成したからよ。 ついでにゲームで貯めたお金もスッカラカン。 さらにこれを見越してか人間国が次々に兵を送り腹がたったから頭の悪そうな人間に破壊したら【デモンズゲート】が開くアイテムを持たせて人間の懐に攻め込もうと思ったのだけれど、頭悪い奴はやっぱり頭が悪かったわ。 だってこんな辺境の地で【デモンズゲート】を開くんだもん。 まあおかげでお兄ちゃんに会えたんだけどね」

 淡々と語っている風に見えるが彼女なりに魔族の幸せを真剣に考えた結果なのだろう。

アーシェのその表情を見れば嫌でも伝わってくる。

 どうやら感情や思っている事が顔に出てしまう癖は治ってないらしい。

「だからといって関係ない人を巻き込んでどうする? お前がやった事は人間と変わらないだろ」
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