8 / 49
子供たちは私の宝物です。奪わせるわけにはいきません。
しおりを挟む産まれた子はイクスによく似た色をした息子でした。
ライナスと名付けられた弟を双子たちはそれはもう喜んで可愛がっています。イクスも。
私とイクスは簡易な式を挙げ……たかったんですが、兄や屋敷のみんな、領民の意向もありちょっとしたお祭り騒ぎになりました。
多くの人に祝福されて本当に幸せな一日でした。領民も喜んでいたのでちょっと照れはありましたけど結婚式を挙げて良かったと思います。
日々子供たちの成長を見ていると時が経つのはあっという間です。
リオンとルイスもそろそろ自分の将来を決める時期になりました。
このまま冒険者になるのではないかと予想しています。
私やイクスはもちろん、兄も屋敷のみんなも二人がどんな未来を進むのかを楽しみに見守っています。
二人の将来の邪魔をする者はいない、はずでした。
騒ぐ音が聞こえてすぐライナスを侍女に預けて外に出ました。
招いてもいないのにやって来た元夫がこちらを見てまた騒ぎ出します。
台所にいるリオンとルイスが気づく前に対処しないと。ちょうどライナスのためにリンゴを擦り下ろしに行っていて良かったと思います。擦り終えるにはもう少し時間がかかるでしょう。毎回どのリンゴを採るかというところから真剣に選んでいますからね。
「おい、お前! 子供たちはどこだ!」
「いきなりそれですか、相変わらず無礼な人ですね」
元妻とはいえ今は他人になった相手に向かってお前という呼び方はいかがなものでしょう。
少し前に手紙が来ていたのでそのうち来るとは思っていましたが、こうして顔を合わせても懐かしさよりも不快感の方を強く感じます。
「用向きはわかっていますが手紙でお断りしましたよね。
突然押しかけてくるような礼を失した行為は止めてほしかったのですが」
「お前が俺を騙して子供たちの親権を奪い取ったのが原因だろ!」
「何を言っているんですか、あなたが身重の私を身一つで追い出したのではないですか。
離縁する際にもちゃんと子供たちはあなたの子であると伝えましたし、その上で一目会ってもらえないかとも聞きました。
全て断ったのはあなたの方でしょう」
親権をこちらの家にすることもちゃんと文書を交わして決めたことで今更どうこう言われても変えるつもりはない。
まったく、今更なんなのでしょう。理由はわかっていますが。
「うるさい! 後継ぎがいないと困るのはお前もわかるだろ!
二人いるんだから一人寄越せ!!」
身体が震えました。怒りに。
ああ、周囲の空気も震えていますね。私の魔力に呼応しているんでしょうか。
「今、何と言いました?
【ふたりいるならひとりよこせ?】」
何もない空中に水の塊が出現します。
怒りに冷えた頭で考えるのはあの子たちに気づかせないように素早く始末することだけでした。
水塊を投げつけ元夫の呼吸を奪う。もがく元夫は満足に反撃もできないようでした。
私が直接的な反撃に出るとは思わなかったのでしょうね。
水の塊を喉の奥に押し込んだところで水塊の制御を外します。
激しく咽る元夫を見下ろして諦めて出て行くよう伝えました。
「このまま帰れば突然押しかけてきたことは不問にしてあげます。
どうしますか?」
他領に押しかけてきて子供を連れて行こうとしたことが知られるのは向こうも都合が悪いはず。
ここで引けば大事にはせずに済ませようと思っていた。ここまで来ておいてそんなことで引くとも思いませんが。
「そんな口を聞いていいのか?
お前が『精霊のいとし子』を秘匿したことを国に報告すればどうなるか。
大人しく一人をこちらに渡せ。
そうすればお互いの家にとって損はない」
国にも黙っておいてやると言われて呆れて口が塞がらない。
「本当にどうしようもないほどに愚かですね」
なぜこんな人と縁を繋いだのかと思った日も過去にはありましたが、子供たちに会うためにあったのだと思います。
だから後悔とかはないんです。本当ですよ。
それはそれとして夫としたことがある人がこんなにどうしようもない人間であったことがとてつもなく残念です。
本当に離婚してよかった。子供たちがあんなに素直で良い子に育ったのは悪い見本が周りにいなかったからに違いありません。
「国に報告なんてしてあるに決まってるじゃないですか」
「何!?」
頭が痛い。もうこの人と会話してるの嫌になってきました。
「いいですか、『精霊のいとし子』の報告は義務です。
可能性が出た段階で報告しなければならないんですよ。
当然我が家も報告しています」
「ならどうして子供たちが『精霊のいとし子』と私に隠していたんだ!」
「教えるわけがないでしょう、子供たちを殺そうとした人になんか」
「なっ!?」
そんなことはしていないと叫ぶ元夫に呆れた目を送ります。
よく言えますね、そんなこと。
「子供たちを宿した私を身一つで放り出したことを忘れてるんですか?
運良く助けを得て生きてますがそのまま死んでいた可能性だってあります。
その経緯も含めて国には報告してあるんですよ。
『精霊のいとし子』を危険に合わせる可能性があるあなたの家には伝えなくて良いと言われています」
さっきからの言い様といい、『精霊のいとし子』を自分を富ませる便利な存在としか見ていないんじゃないかしら。
この人にとってはリオンとルイスは自分の子供ではなく『精霊のいとし子』であって自分に利益をもたらしてくれる存在なんでしょうね。
腹立たしさがふつふつと湧いてくるわ。
「そうやって自分だけ利を得ていたのか」
「平行線ですね、どこまでも」
利を得ていないとは言わない。リオンとルイスが生まれてからこの地が大きな災害もなく平穏なのは事実。
けれど、そのために二人を育てていたと言われるのは不快だわ。
「帰りなさい。 二人はあなたには会わせない」
元夫を睨みつけ引かない姿勢を示す。
「ふざけるな! 俺にはどうしても『精霊のいとし子』が必要なんだ!」
魔力を操り投げつけてきた土塊へ水の膜を張ります。
水に阻まれて勢いを無くした土塊の中から石が飛び出てきました。
土塊に隠れていた石が水の膜を破って私に向かい、思わず目を瞑る。
「……?」
衝撃が無いので目を開けると私の目の前で止まった石と前に立つルイスの姿が目に入りました。
「ルイス?」
「お母様に何をした」
低い声で質すルイスに気圧されたのか元夫は言葉を失っています。
後ろから「お母様!」と叫ぶリオンの声も聞こえます。
「答えろ、お母様に何をしたんだ」
「こ、この女が悪いんだ! 俺の『精霊のいとし子』を隠すから!!」
ぶわっとルイスの背から怒りが迸る。
辺りの気温が急激に下がっていき、ルイスが元夫に向けて魔法を使おうとしているのを理解した私は必死にルイスに声をかけた。
「ルイス、ダメよ!」
一瞬だけ動きを止めたルイスが手を元夫に向けてしまう。
駄目、絶対に駄目!
「ダメだよ、ルイス」
焦る私より早くイクスがルイスの手を取った。
止められたルイスの視線がイクスに注がれる。ゆっくり首を振って見せるイクスに息を吐いてルイスは手を下ろした。
ほっと胸をなでおろしていると、走ってきたリオンが父親の顔をひっぱたいた。
「ちょっとアンタ! 父親だかなんだか知らないけど何しに来たのよ!
「お、俺は『精霊のいとし子』であるお前たちを保護しようと!」
「はぁ?! お母様を放り出したアンタについて行くわけがないじゃない!
お母様がどれだけ大変だったと思うのよ!
イクスお父様がいなければ私とルイスだって大変なことになってたんだからね!
今更なんなのよ!
『精霊のいとし子』だから利用しようとしただけでしょう!
お生憎様! 誰がアンタみたいなダメ親父に利用されてなるもんですか!
一方的に私たちを捨てたダメ親父なんか必要ないわ! 私たちを守ってくれたのはお母様よ!
『精霊のいとし子』であろうがなかろうが愛してくれるお母様と一緒にいるの!
ダメ親父はさっさと自分の家に帰りなさい!!」
唖然とする私を他所にリオンの口撃は止まらない。
早口で畳みかけるリオンに元夫も口を挿む隙がなかった。
リオンの叫びが響き渡った後の静寂を破ったのはイクスの穏やかな声だった。
「では、ご自分で歩いて帰るか縄を打たれて帰るかお選びください」
簀巻きもおすすめですよ、とゆったりとした声で告げるイクスに元夫がぎこちなく頷きました。
そのタイミングで頷いたら本当に簀巻きにされますよ。
イクスを止めようとは思いませんが。
縄を持ってきた門番を見て逃げて行くのを見てふっと力が抜けました。自分で思っていたよりも気を張っていたようです。
駆け寄るリオンを受け止めると強く抱きついてきます。
「私もルイスもお母様とずっと一緒にいるからね!
大人になっても私たちが帰るのはお母様のところだから!」
涙混じりに訴えるリオンをぎゅっと抱きしめ返して額にキスをする。
「もちろんよ。
大人になってリオンとルイスが旅立つ時が来ても私はいつでもあなたたちが帰ってくる場所でいるわ」
幼い頃のようにしがみついてくるリオンの頭を撫で落ち着くようゆっくりと言葉を紡ぐ。
腕の中の娘は随分背も伸びて、私に届くのもあと少しのことでしょう。
いつか旅立っても、他に家を持っても、お帰りと言って迎えるわ。
ルイスの方を見ると同じようにイクスが肩を叩いて語りかけていた。
イクスがルイスのことは任せろというように微笑んだので微笑み返して屋敷に戻りましょうとリオンを促す。
ルイスは大丈夫。イクスが一緒にいてくれるもの。
もう一度イクスへ微笑みかけて先に屋敷へ戻った。
734
あなたにおすすめの小説
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
夏灯みかん
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
【完結】愛で結ばれたはずの夫に捨てられました
ユユ
恋愛
「出て行け」
愛を囁き合い、祝福されずとも全てを捨て
結ばれたはずだった。
「金輪際姿を表すな」
義父から嫁だと認めてもらえなくても
義母からの仕打ちにもメイド達の嫌がらせにも
耐えてきた。
「もうおまえを愛していない」
結婚4年、やっと待望の第一子を産んだ。
義務でもあった男児を産んだ。
なのに
「不義の子と去るがいい」
「あなたの子よ!」
「私の子はエリザベスだけだ」
夫は私を裏切っていた。
* 作り話です
* 3万文字前後です
* 完結保証付きです
* 暇つぶしにどうぞ
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる