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子供たちは寝顔も愛らしいです。突然の告白、ですか?
しおりを挟む帰りの馬車で子供たちはぐっすり眠っています。
あれだけ走って食べてまた遊んで、とすれば当然ですよね。
服の端を掴んで眠る姿も可愛いです。
リオンにシャツを掴まれたイクスさんが優しい顔で見つめている。
「すみません、イクスさん。
一日子供たちの面倒を見てくれて。
ふたりともイクスさんのことが大好きだからとても喜んでましたね」
「そう言ってくれると嬉しいです。
俺も楽しませてもらいましたから」
口元を緩めた優しい微笑みに私も笑みを返しました。
子供たちがこんなになついているのはイクスさんが優しい人なのをよくわかっているんだと思います。
「イクスさん、ありがとうございます。
あなたがあの時助けてくれたおかげで、私は今こうしてふたりといられます。
本当に、感謝しています」
何度も伝えた感謝を改めて口にする。
困った顔をしたイクスさんが口を開いた。
「もういいんですよ、俺は当然のことをしただけで。
あんまり感謝されると決まりが悪い」
困らせてしまうとわかっていても何度も言いたくなってしまうのです。
だって今が本当に幸せで、ここにいられるのは間違いなくイクスさんが私を助けてくれたおかげですもの。
眉を寄せたイクスさんが首を振って微笑む。
「貴女が深い感謝を寄せてくれていることは誇らしく思っています。
けれどどうか俺が手を貸して良かったと思ってくれるなら、今が幸せだと思っているのなら、一緒に未来を過ごせることを嬉しいと言ってくれませんか」
願われた内容に目を丸くしてイクスさんを見つめます。
しっかりと言われたことを口内で繰り返して微笑みをうかべた。イクスさんの言う通りですね。
胸の奥に届いた優しい言葉に心がほわっと温かくなった気がします。
「おっしゃるとおりですね。
私、今がとても幸せで、この思いを表すには感謝を伝えるしかないと思っていましたけれど……。
そうではありませんね。
私も子供たちもイクスさんとお会いできて幸せです。いつも遊びに来てくれてありがとうございます。
今日も楽しくて、素敵な思い出がまた一つ増えました」
嬉しい気持ちのままイクスさんににっこりと笑いかける。
忙しい彼が遊びに来てくれる機会はそう多くはありませんが、子供たちもいつも楽しみに待っていますし、私もお土産話を聞かせてくれるのが楽しみです。
「そう言ってもらえると嬉しいです。
実は家族の団欒にお邪魔するのは少し悩んだので」
「あら、イクスさんならいくらでも参加してくださって良いのですよ。
双子もあなたをとても慕っていますし、きっとお兄さんのように思っているのではないかしら」
三人は本当に睦まじくて家族のようですもの。
我が家に遊びに来てくれたときの双子の喜び方はすごいです。
イクスさんが屋敷の門を叩く前から待ち構えていますからね。
来訪がわかるのも『精霊のいとし子』の力なんでしょうか。
そういえばイクス様が来るときは必ずリンゴの木が実を付けます。
あまりに沢山なるのでお土産にもあげるのですが、イクスさんもリンゴがお好きなようでいつも喜んでくださいます。
「光栄ですが……」
微笑んでそう言ってくれますが、どこか複雑そうにも見えます。
寝ているリオンの頭を撫でて顔を上げたイクスさんの表情が硬いものになっています。
「レイン様……」
「はい」
姿勢を正したイクスさんが私を見つめます。
その表情の真剣さに私も居住まいを正してしまいます。
「このようなことを申し上げるつもりはなかったのですが……。
いえ、言い訳は止めます」
言葉を飾ることのないイクスさんが言い淀むようなこと。
少し不安になりながらも耳を集中させます。
「俺はあなたが好きです」
えっ、と息が漏れました。
好き?好きって、あの好き?
私もイクスさんのことは好きだけど、この雰囲気で二人きりでわざわざ口にした好きって意味が違うわよね、きっと。
混乱した頭の中で自問自答しつつ状況を整理する。
「い、イクスさん?」
「戸惑わせてしまいましたね。
俺の一方的な想いです。 答えずともかまいません。
ただ、俺の気持ちを知っていてほしかった」
この子たちの兄と言われるのは複雑なので、と笑うイクスさん。
そんな想いを宿しているなんて全く気づきませんでした。
私が鈍いわけではないと思います。
兄も何も言っていませんでしたから。
いえ、兄なら知っていて黙っていた可能性もありますが。
「あ、あの。
好きというのはその、女性として、ということですよね」
「当然」
ふ、と笑った顔が麗しくて心臓に負荷がかかった気がします。
イクスさんが素敵なお方だというのは知っていましたが、こんな……。
こんな愛おし気に私を見る顔は知りません。
どうしましょう。
心臓が暴れ出して苦しいくらいです。
「出会ったときは頼る者なく不安げな様子が放って置けなかっただけでしたが……。
この街にたどり着いて、子を産み、笑顔を増やしていく貴女に段々惹かれました。
依頼を受けて街を離れるたび、貴女の笑顔や子供たちを思い出して力が湧いた。
貴女は、貴女たちは俺の原動力なんです」
これまで秘めていたのが嘘のように視線に、声に、愛しいという想いが宿っています。
微笑むイクスさんに騒ぐ胸を抑えてどうにか答えを探していました。
「私、何と言っていいのか……」
優しい目で見つめられると頬が勝手に上気していく気がします。
「あのっ!
私、狡いと思うんですけど、イクスさんにそう言っていただけること嬉しいんです!!」
え?と息を漏らしたイクスさんへ必死に言い募る。
こんなこと言ってはしたないと思うけど、狡いと思うんだけど、でも!
「突然で驚いたのは確かですけれど、それはなんというか嬉しい驚きというか!
イクスさんのような素敵な方に女性として思われていたなんて女冥利につきると言いますか!
えと、とにかくイクスさんの気持ちはうれしく存じます!!」
力一杯言い切ってはっと我に返りました。
私は何を言っているんでしょう。
これでは、これではまるで気持ちを受け入れたみたいではないですか。
浮かれるにもほどがあります。
こんなのはイクスさんにも不誠実ではないですか。なんてことを言ってしまったのでしょう!
浮かれていた気持ちが一気に冷めて青褪めました。けれど。
目を瞬いたイクスさんが数瞬の沈黙の後、嬉しそうに笑ったのです。
溢れんばかりの喜びを表した笑みは色気も全開で私は言葉を失いました。
「嬉しいです。
俺の想いを嬉しく思ってくださったことが、俺は嬉しい」
「あなたの気持ちがうれしく感じたのは事実です。
その、受け入れる受け入れないは色々と難しいこともあるのでなんとも言えませんが、とても嬉しいのです」
「わかっています。
俺と貴女では立場も生活も違う」
想っていることを許してこれまで通り側にいられれば充分です、というイクスさんに申し訳ない気持ちが湧いてきます。
想いを向けたら、返してもらいたいと思うのが普通ではないでしょうか。
「いいのでしょうか……。
それは、狡いことではないでしょうか」
「狡くなんてありませんよ。
ごく普通の駆け引きでもありますし、お互いに好意があってもそれが全て恋愛や結婚に結び付くわけではないでしょう?」
平民でもそうだし、貴族ならなおさらですと答える表情は無理しているようには見えなくて。
「私は、またイクスさんに会いたいです」
気持ちに応えたいとかは別にして、もう会えなくなるのは嫌だと思います。
依頼で会えない時間があるのは仕方なくても終わったらまた会いに来てほしいと、素直に思いを口にします。
するとイクスさんは「俺もです」と微笑みました。
その笑顔に胸がきゅんと締め付けられたのは確かでした。
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