双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
12 / 368
異世界<日本>編

異世界の技術 1

しおりを挟む
 新しい知識に触れるのはとても楽しい。
  店を入ってすぐのところに飾られているペンを手に取り、次々に試し書きをしていく。
  滑らかな書き心地を確かめたらペンをひっくり返して文字を擦る。
  説明を書いた板の示す通り書いた文字が消えていく。興味深くて何度も試す。
 (これいいな…)
  ペンを持ったまま頭の中で思考を巡らせていく。
 (書いた文字が消える、これを応用すれば…。
  魔法陣を書いた後に見えないように隠ぺいの魔法を…。
  いやいや、それは手間が増えるだけだから、いっそ陣を隠して、ってそれじゃ既存の仕組みと変わりないし)
  書いた後に消えるという技術を生かして何かできないかと思う。
 (魔力をインクだと考えて陣を書く、ダメだそれじゃあ、すぐに魔力が霧散して長くは使えない)
  魔法陣を作るにはいくつか方法がある、まずは実際に書いたり掘ったりして何かに魔法陣を書く方法。
  これは魔法陣が存在することがわかってしまう欠点はあるけれど複雑なものでも時間をかけて書けばほぼ失敗しないという利点がある。
  次に己の魔力だけで何もない空間に魔法陣を描く方法。
  時に魔力陣とも言われるこの方法は、直接対象に刻む方法に比べてかなり難しく、術者のイメージ力が物を言う方法だ。
  細部まで明確に陣を想像しなければ発動せず、場合によっては魔法陣が暴発する危険もあった。
 (そもそも常時発動しているのか、危急の際に起動させるのかによって作り方を変えた方がいいよね)
  見えないほど薄く魔法陣を掘って必要な時に魔力を流すと言う方法なら既存の方法の組み合わせになるが簡単にできそうだ。
  魔力で魔法陣をなぞると堀った溝に魔力が残るようにするとか。
  そういった魔法陣に組み込むとしたら結界か治癒か、有効そうな術を頭に思い浮かべる。
  移動できない陣だということを考えたら結界が有効だろうか。
 (いっそ魔力陣を描いた後何らかの方法でそれを保てば…)
  …!
  ドンと硝子に何かが当たった音がする。
  音がした方に視線を向けると黒犬が張り付いていた。
  マリナが気づいたのを見ると更にガラスをたたく。
  肉球のおかげか店員や他のお客さんは音に気が付いた様子はない。
  待たせていたことをすっかり忘れていた。手振りで謝ってレジに向かう。
  ペンを会計して外に出るとすっかりふてくされたヴォルフがいた。
 「ごめん、ちょっと考え事に没頭してた」
  考えたところで使い道はないけれど楽しかった。
 「真剣な顔をしていたけれど何を考えていたんだ?」
 「これを見て」
  買ったばかりのペンを出してヴォルフに見せる。
  色の種類が多い中で一番気に入った水色を買った。
  ノートは買わなかったので会計の時にもらったレシートを取り出す。
 「これで書くでしょう? で、こうすると…」
 「おお! すごいな!!」
  書いた文字が消えていくのを見てヴォルフが驚く。
  マリナも得た驚きをヴォルフにも与えられたのに満足する。
 「すごいでしょう?」
  さっき知ったばかりだけど得意気に言う。
 「でもこれは文書を書くには向かないんじゃないか? 密書、は燃やした方がいいだろう」
  尤もだ。
 「うん、そういうんじゃなくて、これを活かして魔法陣を見えないように仕込めないかなと思って」
  どういうことかと眉根を寄せるヴォルフに思いつきを話す。
 「執務室とかに魔法陣を書いて見えないようにできたら色々使えそうじゃない?」
 「何にだ?」
 「最初考えてたのは結界だけど盗聴とか。 ああ、入ってきた人間を登録する機能とかおもしろいかもしれない」
  考え付くままに口にするとヴォルフが険しい顔になっていく。
 「それをどう使うつもりなんだ?」
 「勝手に入ってきた人間が誰で何をしていたかわかるよ」
 「王子の執務室に勝手に入ってくる人間なんてそうそういないだろう」
  王子のとは言っていないけれど想像していたのはいつも使っていた王子の執務室だった。
 「仮にいたときの保険よ」
  マリナもそうそうそんな危険を冒す人間がいるとは思わないけれど、危険に備えるのは無駄にはならない。
  単純におもしろいから考えていたというのは心にしまっておいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...